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紙袋の音が、やけに大きく聞こえた。
「はい」
マイッキーは軽い調子で、
ぜんいちの前にそれを置く。
「なに、それ」
中を覗いた瞬間、
ぜんいちの表情が固まる。
黒い革。
金具。
調整穴。
「……は?」
一拍遅れて、声が低くなる。
「なにこれ」
「見て分かるでしょ」
マイッキーは、笑ってる。
いつもの、柔らかい笑い。
「似合うと思って」
「——無理」
即答だった。
ぜんいちは一歩、後ろに下がる。
「待って、え?」
冗談だと思いたかった。
でも、紙袋の中身は現実で、
マイッキーの目は冗談じゃない。
「さすがに引く」
そう言うと、
マイッキーの笑顔が、少しだけ止まる。
「引く、か」
静かな声。
「そんな言い方するんだ」
「当たり前でしょ」
ぜんいちは眉をひそめる。
「これ、どういう意味?」
「意味なんて」
マイッキーは肩をすくめる。
「分かってると思ったけど」
その一言で、
ぜんいちの胸がざわつく。
「……分かんない」
強めに言う。
「分かんないし、分かりたくもない」
空気が、ぴんと張る。
マイッキーは、
ゆっくり一歩、前に出る。
距離が、急に近い。
「そんな怖い顔しなくても」
低い声。
責めてるようで、なだめるようで。
「ただのプレゼントだよ、ぜんいち」
「首輪が?」
ぜんいちは笑えない。
「人にあげるもんじゃないでしょ」
マイッキーは答えない。
代わりに、
もう一歩、距離を詰める。
ぜんいちは反射的に、
また一歩下がる。
「やめて」
その声に、
マイッキーの目が細くなる。
「離れないでよ」
優しい言い方。
でも、命令に近い。
「……嫌だよ」
ぜんいちは首を振る。
「マイッキー、これは違う」
「何が?」
「俺たち、こんなんじゃない」
「また普通に…ゲームとか、ね?」
言葉を選びながら、
必死に続ける。
「距離置いたり、戻ってきたり、
それでもさ……」
喉が詰まる。
「こういうのは、違う」
沈黙。
マイッキーは、
ぜんいちをじっと見る。
「……拒否するんだ」
ぽつり。
その言い方に、
ぜんいちは一瞬、罪悪感を覚える。
(あ、今)
(悪者、俺?)
でも、すぐに振り払う。
「拒否するよ」
はっきり言う。
「これは、無理だよ、マイッキー」
マイッキーは、
紙袋を持ち上げる。
「じゃあさ」
声が、少し低くなる。
「俺が傷つくのは、平気なんだ」
ぜんいちは、息を詰める。
「……そういう言い方、やめて」
「事実でしょ」
一歩、また近づく。
もう、逃げ場がない。
「俺が選んだもの、
全部否定されて」
「否定してない!」
ぜんいちは声を荒げる。
「これは違うって言ってるだけ!」
一瞬、
マイッキーの目に、
冷たいものが走る。
でも、すぐに消える。
「……そっか」
静かな声。
「じゃあ、これはナシね」
首輪を、袋に戻す。
ぜんいちは、
少しだけ、ほっとする。
……その直後。
「でもさ」
マイッキーは、顔を上げる。
「代わりは、考えなきゃ」
「……なに?」
その問いに、
マイッキーは答えない。
ただ、
いつもより近い距離で、
ぜんいちを見下ろす。
「解散以外で」
その一言が、
ゆっくり落ちる。
「ちゃんと、分からせる方法」
ぜんいちは、
ぞくっと背中が冷える。
「……なに、それ」
マイッキーは微笑む。
「今は、内緒」
でもその目は、
もう次を考えている目だった。
ぜんいちは、
初めてはっきり思う。
(これ……)
(拒否したら、終わりじゃない)
(始まるやつだ)