昴side
今まで予鈴ギリギリで教室に入るのが当たり前
だったのに、今では余裕持って登校できている。
施設では、朝の掃除とか食事の片付けとか
下の子達の用意の手伝いとか色々やることが
あって、余裕を持って施設を出るなんて
出来たことがなかった。
蓮さんの家に同居し始めて1週間。
こんなに気の休める1週間を過ごしたのは
生まれて初めてだった。
バイトも前より時間を減らして睡眠時間も
しっかり確保出来ているし、食事も作るのは自分
だが、誰かが食べてくれると思うと、
余計バランスとか考えて作るから俺もちゃんとし
た食事を取れてる。
最近変わったことがもう1つ。
「すーばーるーおーはよ!」
「うわっ急に抱きついてきたら危ないよ
おはよう。斗真。」
蓮さんと出掛けた時、斗真に会ってから
斗真と友達になれた。初めての友達だ。
最初は、周りを気にして話しかけて来なかった
けど、俺から話しかけに行ったら懐かれた。
「お前ら最近仲良いよなー。黒崎もしかして
そっち系なのぉ??」
誰だ?こいつ。
一応クラスメイトなんだろうけど
ぜんぜんわからない。
まぁ、とりあえず。
申し訳なさそうにこちらをちらりと見る斗真。
「そっち系?あぁ、同性愛者かって?
んーーーそうだねー。」
考える素振りをしながらそいつに近付く。
「今のところ斗真に恋愛感情は無いけど、どうな
るかはわからなよね。人間同士だもん。
というか、まだ性別で恋愛してるの?
君はそうだとしても、そうじゃない人たちも
今や多いよ?君の価値観を押し付けないで
くれるかな?」
俺より背の低いそいつに顔をこれでもかという程
近付いて覗き込みながらそう告げた。
目を大きく広げ、ぱちぱちと瞬きをしたと
思ったら我に返ったように
大きく息を吸うそいつ。
「はっはぁ?!!!なんだお前!きも!!」
小学生かよ。
語彙力の欠片も無い貧相な言葉を残し、
数人の友達と教室を出て行ってしまった。
「あっははははははは!!」
「「っ!?!」」
突然響いた笑い声に俺と斗真が振り返る。
そこに居たのは、学校では有名な不良。
佐々木真守だった。
「えっと、佐々木くん?」
控えめに彼に声をかけるとごめんごめんと
小さく謝りこちらに視線を向けた。
隣で斗真もワタワタしている。
「あーおもしろっ、見たか?あいつのだせーの!
あんな先に言って来といて、軽く言い返されたら
しっぽ巻いて逃げてやんの!はっはっは!!!」
無邪気に笑う彼に俺達も思わず笑みがこぼれる。
「佐々木くんは僕みたいなののこと気持ち悪く
思わないの??」
躊躇いがちに聞く斗真。
「あぁ?俺?まぁー俺は女に腰振ってる方が好き
だし、男に興味ないし、多分これからもねぇけど
それは俺のことであってお前の事じゃねぇからな
それぞれ色々好きなもんがあるんだから、
それを気持ちわりぃとは思わねえよ?」
「……そっか。」
「つかよ、隣にいる奴があんなにハッキリ
お前を守る発言してるんだから、お前もシャキッ
としろよなー!」
「う、うん。ごめんね、昴」
「謝られるよりお礼言って欲しいな」
「あ、ありがとう!」
「うん!」
「学校つまんなくて、全然来て無かったけど
お前らみたいなのいるんならなるべく来るかなー」
「え!ほんと!佐々木くん!」
「僕、転校初日以外会ったこと無かったよね!」
「その佐々木くんってやめろ。真守でいい」
「「わかった!!」」
「お前ら昴と斗真だろ?
お前らさ、勉強出来るか?俺、全然わかんなくて
よ。留年なんかしたらババアにしばかれるから
教えてくんねぇか?」
「もちろんだよ!」
「僕、英語得意だよ!」
生まれて初めての友達
2人目が出来た瞬間だった。
「昴。何かいい事あった?」
「え?」
蓮さんの仕事が早く終わった日は
2人でご飯を食べる約束をしている。
「いい事ですか??」
「うん。なんだかいつもより楽しそうだから」
「ふふん。分かりますか??
実は俺、友達2人目出来たんです!」
「お!すごいじゃん。おめでとう」
「ありがとうございます!
学校じゃ有名な不良の子なんですけどね?
俺と斗真が仲良くしてて、いじってくる奴がいて
俺が大口叩いたらそいつ逃げちゃって、
それ見てた、真守って言うんですけど、
真守が、だせーって大笑いして仲良くなりました」
「いじられたの?」
「え?はい。お前らそういう仲なのかって」
「随分低レベルな考えする子もいるんだね」
「そうなんですよー」
「何かあったらすぐ言ってね。
これでも、ちゃんとした昴の保護者だから」
「はい!」
蓮side
時々思う。
昴と出会わず、昴があのまま生きていたらと。
高校生の子供が1人でやって行けるほど
社会は楽じゃないし、頼れる大人が居ない状況で
人生の選択をしていくなんて、無理だ。
彼の人生の中で、俺がプラスでいれれば嬉しい。
完全な俺のエゴだけど、幸せに過ごして欲しい。
俺も、昴と過ごすようになって、
モチベーションが上がっている気がする。
家に帰れば、昴が作ってくれたご飯が待ってる。
誰かの作ってくれたご飯があるなんて
今まで無かったから。
昴が誰かと食べるなんて初めてだと言っていた。
それは俺もだった。
小さな頃から親たちは仕事で、1人で食事をとる
ことが多かった。
たまに、今では秘書の友人と食べていたが。
ああ、そういえばこいつを昴に紹介すると
言ったな。
「朔月、今度暇な時うちに来て欲しいんだけど」
「え?いいけどなんで?」
「同居人が朔月に会ってみたいって」
「ああ、昴くんだっけ?」
「そう。昴の作るご飯は美味しくてね!
夕ご飯がてら来たらいいよ。」
「今度の土曜日は、午前中で仕事は終わりだよ。
日曜日はまるまるオフになってる。」
「え!そうなのか?」
「うん。この間言ったよ俺。」
「忘れてた。じゃあ、土曜日仕事終わり次第
うちに来て。どうせ予定無いだろ?」
「……たしかに無いけど、ムカつくなその言い方」
「ははっ!昴にも言っとくよ」
「今日のご飯も美味しいね」
「本当に!?良かったです!
でも、この料理の中、野菜いっぱい入ってるんで
すよ??」
「……え」
「わからなかったでしょ?いくら野菜嫌いだから
って、全く食べないのは駄目ですからね!
結構知らず知らずに食べてますよ!蓮さん!」
「全然わからなかった。」
「へへへっ」
「そうだ昴」
「はい?」
「今度の土日は予定ある?」
「特に何もないです」
「そっか。前に俺の秘書に会わせたいって話した
だろ?土曜日の午後から俺もそいつもオフでね。
うちに来ることになったから、簡単なのでいいか
らご飯用意して欲しいんだ。」
「もちろんです!!秘書さん何が好きかな!」
「唐揚げ」
「ふはっ!それは蓮さんでしょ!」
「バレたか。」
「ふふっ」
朔月side
「ただいまーーー」
「お邪魔します。」
「おかえりなさい!こんにちは。」
「こんにちは。昴くんだね?」
「はい!黒崎昴です!蓮さんには
凄くお世話になっています!
よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくね。
三枝朔月です。」
とても良い子そうな子だ。
蓮が興味を示すのもわかる気がする。
来慣れた蓮の家だけど、どこかスッキリしていて
リビングからはいい匂いがしている。
こんな玄関で自己紹介しちゃってすみません
と慌ててスリッパを用意してリビングへ足を
進めてくれた。
リビングに入ると山盛りの唐揚げと
俺の好物の天ぷらがこれも山盛りで並んでいた。
あまりの多さに驚いていると、隣で蓮が
凄い量だなと呟いていた。
「へへっ、秘書さんとお会い出来るの楽しみで
いっぱい作り過ぎちゃいました!」
と笑っていた。
「渡した食費まだ足りてる?」
「もちろん!ちゃんと1ヶ月もつように計算済みな
んでご安心を!」
「え?!」
「え?」
なんだなんだ。
「あれ、1ヶ月分とかじゃないよ?とりあえずで
渡してあるやつだから、無くなったら言ってくれ
れば渡すから」
「え?そうなんですか?」
「当たり前だろ!3万で1ヶ月分は鬼畜だろ
しかも男2人で」
3万で1ヶ月分。
確かに鬼畜だ。
「あ!そうなんですね!俺1ヶ月2万とか、1万
で生きて来てたんで普通なのかと思っちゃって
ました!」
確か、施設育ちなんだっけか。
「とりあえず!その美味しそうな料理たち
頂いてもいいかな?」
「あ!はい!もちろんです!でも、手洗いうがいは
して来て下さいね!」
「「はーい」」
「凄くいい子そうだね。昴くん」
手を洗いながら蓮に、聞いた。
「ああ、いい子だよ。いい子過ぎるくらいだ。」
「……なにか心配事でも?」
「………確実に、施設にいた頃よりは生活面も
気持ちの面も前に向いてるのは見ててもわかるが
あの子は何もこちらに要求して来ないんだ。」
「要求……」
「迷惑をかけられない、重荷になりたくない。
そう思っているのだろうけど、逆に心配になる。」
「蓮、昔から人付き合い苦手だもんな。
そういうのは直接聞くのが1番だよ。」
「……聞いていいものか?」
「大丈夫だよ!お前はオブラートに包まないで
有名だろ。いつものお前で行け」
「そんな風に思われていたのか。」
「今更気付いたか」
昴side
蓮さんと朔月さんが手洗いから戻って来てから
明らかに雰囲気が違う。
蓮さんはソワソワしているし、朔月さんは
ニヤニヤしている。
どうしたんだろう。俺いたらまずい仕事の話とか
あるのかな……。
もしかして、料理不味かったかな。
「……あの。」
「っ!!どうした!!」
「ふっ」
「いや、あの。蓮さんなんかソワソワしてるし
何かありましたか?仕事のお話とかだったら
俺席外すし、ご飯不味かったですか?
なにか出来合いのもの頼みますか?」
「いや!違うんだ!その。えっと……」
「?、」
「ふっははははっ!!マージかお前!」
「うるさい黙れ。朔月」
「えっと……」
「ひひひっ。はぁーあ!面白いなー
いや、ごめんね。蓮がさ、昴くん気を使いすぎて
無いかなって心配してるんだよ。
施設に比べればいい環境だとは思うけど
蓮に迷惑をかけないように自分の要求とかを
我慢してないかなって。それをさ、なかなか言い
出せなくて、ふっ、モジモジしててさ、ふふっ」
「あーもーうるさいな!今言おうと思ってた」
「そーですかそーですか」
「……それで、なにか無いのか。昴」
「え!?そんなの無いですよ!今の状況が
めちゃくちゃ有り難すぎて他のことなんて!」
「…………そうか。」
「あ、でも。その。」
「ん??!どうした?!」
「あ、えっと。と、友達をその。呼んでも
いいですか??」
「っ!!もちろん!!」
「っ!!ありがとうございます!」
「この間話していた、斗真くんと、真守くんか?」
「はい!今度の3連休のどこかで勉強を真守に
教えるんです。進級も怪しくて、留年なんかした
らお母さんにめちゃくちゃ怒られるらしくて」
「朔月、3連休の俺のスケジュールは?」
「えーっと、クライアントがほぼ休みなので
土曜日の3時まで会議に出て貰えればそれ以降
は月曜日までオフです。」
「わかった、ありがとう。
みんなで泊まりに来ればいいよ。」
「え!?!」
「この間調べてね、今どきの高校生たちは
友達の家にお泊まりとか普通なんだろ?
昴に出来た友達だからね、変な子達では無いだろ
うから、うちを好きに使えばいいよ」
「っ!!ありがとうございます!伝えてみます!」
「ああ」
朔月side
とても珍しい事もあるもんだ。
あの人嫌いの蓮が、自ら他人を招き入れようと
するなんて。
蓮自身にも、昴くんはいい影響を与えてくれてい
るみたいだね。
幸せになって欲しいな。
蓮も昴くんも。
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