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彼女、というのは幼馴染みのことである。彼女に会うのが、一番の楽しみだった。延々と続く桜並木の下を歩きながら、星は記憶の中の彼女に思いを馳せる。
家が近所で、兄妹のように育った。彼女はひどい泣き虫で、気弱で、けれど誰よりも心優しかった。それに、すごく綺麗な髪をしていたのだ。生まれつきの真っ白な髪。僕の。初恋の相手だった。
宝石みたいな綺麗な目をしているのに、その瞳はいつも涙で濡れていた。星が小学校の時に転校して以来彼女と会うことはなかった。
高校生になった彼女はどんなだろう、星ははやる気持ちを抑える。
いつかこの町に帰って来れたら、きっとまた会いたい。そう願っていた相手だ。
河川敷をしばらく歩き、町を出て隣町に入るとようやく校舎が見えてきた。
歴史を感じさせる煉瓦造りの古びた校舎、その校門にたくさんの生徒が吸い込まれていく。星がようやく校門まで辿り着いた時、ちょうど予冷が鳴った。
他の生徒達はずらりと下駄箱が並ぶ生徒玄関へと早足に入っていく。星は校門の前で立ち止まり、慣れない学校の雰囲気に少しばかりたじろぐ。ひび割れた煉瓦の壁に覆われた校舎も威圧感があって気圧されそうだった。
星は遠慮がちに敷地内に入ると、玄関に向かう生徒たちの波に押されながら来客用の玄関を探した。
昨日、担任から「来客用の玄関で待っている」と電話があったのだ。
コの字型の校舎は真ん中に中庭があって、右には生徒玄関、左には職員玄関があるが、肝心の来客用の玄関が見つからない。
敷地内には校舎のの他に別棟の講堂と、図書館があり、適当に歩いていたら迷ってしまいそうだった。
職員玄関の方の先に看板と矢印があった。
来客用玄関から校内に入ると、担任が星を待ち構えていた。
色黒で恰幅が良く、若く溌剌とした男性教師だった。きっと科目は体育に違いない。
「一条星さんだね! こんにちは!」
「こんにちは、」
星は俯きがちに小さく答えた。
「じゃあ、一旦職員室行こうか!」
「はい」
担任がひと気のない廊下を進んでいく。星は後ろを歩きながら、先生に質問した。
「先生…この学校に探してる女の子がいるんですけど…同じ二年生なんです」
「へぇ、どんな子だ?」
「綺麗なはくはつの女の子なので、わかりますか?」
その言葉を言った瞬間先生が歩くのをやめた。
どうしたのかと思うと、先生は俯いて涙を流していた。何故泣いているのか、その意味が次の瞬間明白になった。
「一条…、お前、市ノ羽の知り合いか?」
市ノ羽…久しぶりに聞いた彼女の苗字。会いたくてたまらなかった彼女の苗字だ。
「はい、志乃の幼馴染みです」
先生はまた僕の言葉の後に、顔を曇らせた、流石に気になったので、問い詰めた。
「志乃が…どうかしたの? なんで泣いているんですか?」
「市ノ羽は__一年前に川の事故で亡くなっている……」
頭をハンマーで殴られた衝撃だった……何も信じれなくて、声も聞こえなくて。先生が何か言っている、なにか、いや、もうどうでもいい。
終わった、と、思った。なんのために僕はここに帰ってきたのだろう。目の前が真っ白になったと思ったら、身体が床に倒れた。
「一条‼︎______」