テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ゼミ帰り、まなみの家の前。「ほんなら、ここで──」
「おれも上がる」
そらとは迷いもなく言い切った。
「え、ちょ……なんで?」
「レポート一緒にするっちゃろ?お前、圭介と約束しとったんやろが」
「……だからって、そらとが付いてこんでも」
「おれがするって言いよろうが。ほら、早よ開けろや」
言い返す間もなく、そらとは当然みたいな顔でまなみの部屋に上がり込んだ。
リビングのローテーブルに向かい合って座り、ノートを広げる。
でも、レポートはちっとも進まなかった。
そらとは眉間にしわを寄せたまま、さっきの教室の光景を思い出していた。
「……なぁ、まなみ」
「ん?」
「お前さ、あいつと話すとき、なんであんな笑顔やったん」
「えぇ?普通に話しよっただけやのに」
「普通じゃなかっちゃろ」
そらとは低い声で遮った。
「おれ、隣で見よって、めっちゃ腹立ったんぞ」
「えぇ……嫉妬?」
「……っ、そうやったら悪いと?」
むっとした顔で見下ろされ、まなみは思わず笑ってしまう。
「ふふっ、そらと可愛い~」
「……可愛いとか言うな」
「でも嬉しいよ?そらとが、うちのことそんなふうに思ってくれとるんやって」
その一言で、そらとの顔が一気に真っ赤になる。
だけど、すぐにぐいっと距離を詰めてきた。
「……嬉しいとか言うなや。調子乗るけん」
「え、ちょ……そらと近い、近いよっ」
まなみは慌てて後ずさるけど、背中がソファにぶつかって逃げ場がなくなった。
「お前な……今日ずっと、俺のこと揺さぶりよるんわかっとる?」
「な、なにそれ……うち、なんもしてないよ」
「無自覚が一番たち悪いっちゃ」
そらとは低く吐き捨てるように言って、まなみの顔のすぐ横、ソファに手をついた。
至近距離で見下ろされ、息が詰まる。
「……おれ、ほんとは“お前だけ”見とるんやけん」
「……そらと……」
「けん、お前もおれだけ見とれ」
耳元にかかる吐息に、まなみは顔を真っ赤にして視線を逸らす。
でも、胸の鼓動はうるさいくらい響いていた。
しばらく見つめ合って、そらとはふっと小さく笑った。
いつもの強気な笑みじゃなくて、少し照れた顔。
「……安心せえ。今日はまだ、なんもせんけん」
「っ、な、なんで“まだ”ってつけるんよ…」
「……自覚せえってこと」
にやりと囁く声に、まなみは恥ずかしくて顔を覆った。
そらとはそんなまなみを見て、そっと髪を撫でる。
「……お前、ほんまに反則やわ」
その声は、耳の奥で熱く残り続けた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!