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寮に戻った沙織は、湯浴みを済ませ制服から楽なワンピースになる。


ステラの入れてくれた紅茶を飲んで、一息つく。入れてもらったのは、砂糖無しの甘くないミルクティー。沙織はそれが大好きだ。甘いお菓子を食べる時は、渋みのあるストレートにするが。


ゆったり寛ぎながら、今日の出来事を振り返る。


(オリヴァーは、カリーヌを見た時に申し訳なさそうにしていたよね……? ミシェルが言うところの、脳みそ筋肉……裏表が無さそうだから、スフィアの正体を知って反省したのかしら?)


コクリと、温かいミルクティーを飲む。すると――。


コン、コンコンコンッ!


(え……何、今の音? ノックみたいだけど……)


扉の方を見ても、何の気配もないし誰も入って来ない。


さらに――コンコンコン! コンコンコン!


「え……?」


背後から、しつこいくらいにコンコンと鳴る音。恐る恐る、振り返り窓を見る。


そこには、幽霊……ではなく、カワウソが居た。


沙織は自分の目を疑った。

窓の外に確かにカワウソががいるのだ。信じられないことに、カワウソが窓を叩いている。


(……うそでしょっ? ここは、三階……どうしてカワウソがっ!? しかも……やばい、可愛すぎるっ)


カワウソは窓枠に二本足で立ち、前足で窓をトントンしていた。


落ちたら大変なので、急いで駆け寄ると窓を開け、カワウソを中に入れるが――。どう見てもカワウソだが、毛の色が青い。


(カワウソって、グレーっぽい茶の毛色よね?それにしても、どうやって三階まで登ったの?)


学園の周辺に、水辺なんて無かった気がしたが。


噛まれないかドキドキしつつ、沙織はカワウソの背中にそっと触れてみる。


(ふぉおー!! フワフワな毛並みだっ!)


表面の毛はしっかりとしていて、その下には柔らかい毛があり、モフモフしている。抱き上げて、カワウソを間近でじぃー……っと見る。クリクリの目が何とも言えない可愛さだ。

さらに沙織が顔を近づけると……フイッと、カワウソが顔を背けた。


「んん?」


(今の仕草って……。この毛色……誰かの髪色に似ている? んぁああっ!!?)


まさかと思ったが、沙織はその名を口にする。


「す……ス、ステファン……様?」


カワウソは、ストンっと床へ飛び降りて、沙織を見上げた。


『……当たりです』


「そ、その姿はいったい……どうしたのですか? カワウソになる呪いですか?」


『呪いではなく、変幻魔法です。しかも……カワウソって何ですか? 僕は、この辺りによく生息している、リバーツェに変身したのですけど? 直ぐに見破られるとは。はあぁぁ……』


「落ち込んでるところ申し訳ないですが。リバーツェという動物を私は知らないので……。ちなみに、ここ女子寮ですけど?」


『うっ……。貴女に知らせたい事があり、急いで来たのです。卒業生の僕が、勝手に学園内に入るわけにはいかないし……。リバーツェに変身したのは、この世界では人気の動物で、どこでも見かけるので怪しまれないんです。……女子寮に来てしまったのは、申し訳ないと思ってます』


最後の方はモゴモゴと話すので、聞き取り難い。


「まあ、リバーツェ……ですか? 可愛いから、許します。水掻きってありますか?」


沙織は、にゅっ!と前足を広げて見る。


「あら? 無いわ」


『ひぃっ! きゅ……急にやめてくださいっ! 心臓に悪いっ!』


二本足で立ち、前足を胸に当てるリバーツェ姿のステファン。


(ステファンだと分かっていても、だめだっ! 可愛くてキュンキュンしちゃうっ。抱っこしたいっ! うぅー、我慢……)


沙織はどうにか自分を抑える。


「あっ。それで急いで知らせたい事って?」


リバーツェステファンをチェストに乗せて、目線を合わせた。


『……大変なんです。アレクサンドルが、行方不明になりました。今、内密に捜索をしています。学園にもそのうち捜査が入るでしょうが……。出来れば、カリーヌ嬢に知られたくないのです』


「アレクサンドルが……? もしかして、スフィアを探しに?」


沙織はガブリエルが言っていたことを思い出した。


『その可能性が高いです。その前に、学園の取り巻き……オリヴァーとセオドアに接触するかもと思いまして。暫く、僕は学園内を探るつもりです』


「えっ、宮廷の仕事はいいのですか!? 私で良かったら、探りますけど? あぁー……、もしかしてカリーヌ様を見守りたいのですかぁ」


『そ、そんな下心はありませんっ! 貴女は、授業があるではないですか? それに、宮廷の仕事はシュヴァリエが代わりにやっています』


(怪しいが、慌てるリバーツェも可愛い。だめだ、この姿だと何でも許してしまいそうだわ……)


「あ、そうだっ! カリーヌ様は、アレクサンドルに恋心は無いみたいですよ。良かったですね!」


肝心の話をまだステファンに伝えていなかった。


ニッコリ笑いかけると、ステファンリバーツェは、ぷるぷるとヒゲと体を震わせ涙目になった。


(こりゃ、嬉し涙だな。折角だから、そのまま小躍りしないかしら?)


――トントンッ。


ステラが夕食に呼びに来たようだ。


「サオリお嬢様、夕食の……リ、リバーツェ!?」


部屋に入ったステラは、チェストの上のステファンリバーツェを見て固まった。


「あ、あの、ステラ。実は、このリバーツェを拾ったのだけど……懐いて可愛いので飼っては駄目ですか?」


適当なことを言って誤魔化す。寮だから飼えないだろうと踏んでの質問だ。


「サオリお嬢様のお願いなら、ガブリエル様もお許しになるかと。確認致しますので、少々お待ちください!」


サッと身を翻してステラは出て行ってしまった。


「え……どうしよう?」


『貴女って人は……。考えも無くあんな事を言うなんて』


頭を抱える、ステファンリバーツェ。


「まあ、その姿は可愛いから良いかしら?」


『良くないです! 年頃の男女が、同じ部屋で過ごすなんて……』


また、モゴモゴ言っている。


「大丈夫よ、リバーツェなんだし。部屋は余ってるから、寝る時は別よ。それに、宮廷に戻らないなら休む所も必要でしょ? あ。カリーヌの部屋には勝手に行っては駄目よ!」


『あ、当たり前ですっ!! 行きませんよっ!』


そんなやり取りをしていたら、ノックと共に扉が開いた。

今度はステラではなく、カリーヌが飛び込んで来たのだ。


「サオリ様っ! リバーツェをお飼いになるのですかっ!?」


珍しくカリーヌが興奮している。


「え、ええ。今、ステラがお義父様に確認している筈ですが。まだ許可は……」


「……!? キャァ〜! 可愛いですぅ!」


カリーヌは、ステファンリバーツェを見つけて叫ぶと抱き上げた。


(あっ。ステファンが、硬直したわ)


どうやら、カリーヌはリバーツェにめっぽう弱いらしい。結局、ステラがガブリエルからの許可を貰ってきてしまい、ステファンリバーツェはここで飼う事になった。


リバーツェを抱えて、カリーヌの方が小躍りしている。


(まあ、カリーヌが喜んでるからいいか。うん)


ちなみに、リバーツェをステファンとは呼べないので、名前をつけることにしたのだが。

カリーヌが名前を考えたいと言うので、任せることにした。


(ま、その方がステファンも嬉しいよね)

悪役令嬢は良い人でした

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