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一頻り、リバーツェの名前を悩んだカリーヌは、結局この場では決められず――。
「明日までに、男の子の名前を決めますねっ!」と、意気揚々と自分の部屋に帰って行く。
名前をつけるにあたり、リバーツェの性別を確かめようとしたカリーヌを沙織は必死で止めた。どうにか理由を付けて、男の子だと納得してもらったのだ。
もしも、カリーヌにそんな所を見られたら――ステファンは羞恥で即死だろうから。
「ねえ、ステファン様……。貴方、カリーヌ様のリバーツェ好きをご存知だったのではなくて?」
沙織は胡乱な目でステファンリバーツェを見た。
『きゅるる……』と鳴き声らしい音をさせて、物陰に隠れる。
(鳴き声も愛らしいけど……。カリーヌが来るまで、ぺらぺら喋っていたし、今さら鳴き声って……)
「シッポ見えてますし、絶対知っててリバーツェになりましたね。ステファン様……策士ですね」
『ごめんなさい……』
可愛いもふもふが、これでもかってくらい縮こまってしまったので、沙織は許してあげることにした。
クスッと笑うとチェストの上に戻す。
「ステファン様。明日から私、魔法の実習があるのです。折角なので、コツとか教えていただきたいのですが?」
パァッと、クリクリの目に光が戻る。
『サオリ様は、魔法についてどの程度ご存知ですか?』
「全く。今日、授業の座学で齧ったくらいです。私の世界では、魔法は存在していません。御伽噺などではありましたが。その代わりに、科学というもので文明が発達しているのです。ですから、私に魔力があること自体が不思議で……」
『わかりました。根本的なところは座学で習いますので、実技の授業でのコツを教えますね。この部屋では、不味いので……僕の研究室に移動しましょう。お渡ししてある魔道具はありますか?』
(そうだ! ガブリエルから、ステファンの研究室に繋がる魔道具を貰っていたわ)
コンパクトサイズのそれは、一見すると魔道具には見えない。どうやら、制作したのはステファン自身のようだ。
ステファンも一応、学園のどこかに転移陣を敷いているらしく、沙織もそっちを使えなくはないが。女生徒がこの時間に寮を出るのはよろしくない。
ステラには、ガブリエルから沙織が宮廷を行き来する旨は伝えてあるので、メモを残しておけば問題ないだろう。
リバーツェステファンを抱えて、言われた通り魔道具に魔力を流すと、金色の魔法陣が現れて吸い込まれた。
一瞬眩しくて目を閉じたが……目を開けた時にはもう、研究室に居た。
正面では、普通にステファンが事務仕事をしている。あれっ……と、腕の中のリバーツェステファンを見た。
「ステファン様、お帰りなさいませ」
(あ、声が違う。シュヴァリエだ!)
『ただいま』とリバーツェステファンは、腕から飛び降りて人の姿に戻る。二人のステファンが目の前に居るのは、なんとも不思議な光景だ。
「こんな時間まで、シュヴァリエはお仕事なの?」
「ステファン様の日常業務をそのまま行っています」
ステファンの仕事は、中々のハードスケジュールらしい。
「シュヴァリエ、悪いがそのまま続けてくれ。サオリ様、こちらに来てください」
研究室の奥、何も無いスペースに案内される。そこに結界を張って、音や衝撃を外に漏らさないようにするらしい。
ステファンが結界を張ったようだが、見た目には何も変化はなかった。
「では、先ず魔力を練ることから始めます。サオリ様、プレートを見せてください」
他の人には見せてはいけないと言われていたが、ステファンは別だ。素直にプレートを渡す。ステファンが手で撫でると、プレートの文字が浮かび上がる。
「やはり……メインは三属性です。ですが、サオリ様はそれ以外の属性の物も使えそうですね。多分、プレートの許容範囲を超えてしまった為、表示不可になっているだけです。レベルや魔力量も、同じ理由で表示されてませんね」
(つまり、全てにおいてカンストしたって事かしら?)
「魔法に大切なのは、イメージです。難しい原理や理については時間がないので、授業でしっかり勉強してください」
「……イメージ?」
「はい。身体の中に流れる魔力を感じて下さい」
「流れを感じる? ……うーん、よく分からないわ」
「では、体内を流れている血液のようなものを、イメージしてください。サオリ様ならすぐ理解出来ます」
瞑目して、自分自身を想像して身体に流れている血管をイメージしてみる。すると、血管の他に何かが通っているのが見える……いや、感じた。
(これが、魔力?)
「魔力……分かったみたいです」
「では、それを手の上に集めて、捏ねてみてください」
(捏ねる? 粘土みたいでいいかしら?)
やってみると――視覚的には見えないが、掌に何かがあるのを感じる。
「そのまま、そこに水をイメージをしてください。ただし、少量でお願いします」
「少量の水?」
水をイメージすると、掌に水の球ができた。
「それを、破裂させてください」
(破裂……風船が割れるみたいな?)
パシャンッと水球は破裂した。
「……すごっ!」
「やはり、サオリ様は筋がよろしいですね。では、他も試しましょう」
ステファンの指導のもと、その後も風で竜巻を起こしたり、蠟燭をイメージして指先に火を出したり、色々と試してみた。上級になれば、物に能力を付与することも出来るそうだ。
「あの。一つ試したいのですが……」
「どうぞ? やってみてください」
前にテレビで見た、水圧で物を切るウォータージェットを想像してみた。
(うーん、と。たしか水を超加圧して、小径ノズル……指でいいか。んで、高圧縮された水を噴射――)
プシュッ――、キイィ―――!! ……パキンッ!
指先から出た、魔力を含んだウォータージェットは、ステファンの結界を破壊してしまった。
「あっ……壊れちゃった。ご、ごめんなさい!」
パラパラと、透明な結界の破片が落ちていく。足元には結界の残骸が……。
愕然とするステファン。仕事中だったシュヴァリエも、こちらを見て唖然としている。
「結界……かなりの強度で張った筈だったのですが。ちょっと、心が折れそうです……。これだけ出来れば、明日の授業は大丈夫でしょうから。……帰りましょうか」
肩を落としたステファンがそう言った。
(なんか、ごめん)
そして、シュヴァリエに挨拶し、リバーツェに戻ったステファンを抱えて寮へと帰った。