(アメリカ目線)
「何もう!起こしてよぉ!!」
《起きない兄さんが悪い。
僕は何回か起こしたからね?》
弟に叫びながら朝食を口にかき込む。
朝食はほぼ毎日、目玉焼きが乗ったパンにベーコン乗せたものと、軽いサラダと牛乳。
親父が作るもんはやばいし、俺はまず料理出来ねぇし、カナダが毎日作ってくれる。
俺は皿洗い係。
親父はいつも仕事で早く行って、遅く帰ってくるからあんまり一緒に食事はしない。
いつも、カナダと俺で食事をする。
昼も夜もそう。
今日は俺が一限目の授業で、カナダが二限目。
思いっきり寝坊して、カナダに愚痴ってる。
《そういえば兄さんの学年に転学生来るんだっけ?》
「んん!んーーん!!」
《飲み込んでから喋ってよ…。》
「そーなんだよね!
確か名前は…ソ連だっけ?
本名長いから、みんなそう呼んでた。」
ソ連。
どんな人なんだろ?
確か、男で、片目に眼帯があるらしい。
仲がいい友達と別れて、この大学に来たとか言ってたな。
《いたら、教えてよ。
なんか今日湧かない?眼帯の理由とか!》
「えー、そーゆーのあんま聞いちゃダメじゃねぇの?」
《まぁ、確かに。
でも、見た目とかどんな感じか教えてよね。
あ、兄さんそろそろ時間ヤバいよ。》
「ゔぇ!?マジ!?」
急いでパンを口に詰め込み、牛乳で流し込み、慌てて鞄とバイクの鍵を持って家から出て行く。
バイクに跨り、そのまま走り出す。
風が気持ちいい。
俺はいつもバイクで登下校してる。
バイクは大学に入学した時に、親父が買ってくれたんだよね。
スゲーいい奴で、そんなにうるさくなくて、走りやすい。
めっちゃ自慢したなぁ〜。
そんなこんなで大学に着く。
駐輪場ら辺に止めて、急いで校内に駆け込む。
「ギリギリセーフ!」
〈アウトですよ、アメリカさん…〉
日本が俺の方を見て、そうサインをする。
あー、教授怒ってらぁ…。
後で呼び出しくらうかも。
怖ぇー……ん?
見慣れない1人の人影がポツンと端っこの方の机に座っている。
すぐにわかる。
アレがそう、噂の転学生。
俺は意気揚々と彼の右隣に腰掛ける。
「隣、邪魔すんね〜。」
『…。』
あー、無愛想……?
本当に眼帯してる…スゲェ。
なんだか、結構新そうだな…?
「宜しく。俺、アメリカ。」
ノートやら何やらを開きながら、囁き声で彼に喋りかける。
すると、彼は軽くこちらを見て
『…ソ連。』
とだけ言って顔を逸らし、すぐにノートにシャーペンを走らせる。
凄く綺麗な青い目をしていた。
俺の親父も青だけど、それよりも…凄く透き通った様な、綺麗な青。
俺は息を呑んだ。
パライバトルマリンという宝石の様だった。
変な感情が溢れる。
凄く…ソ連に興味が湧く。
ドクンと心臓が高鳴って、止めどなかった。
何これ。
俺どうにかなっちゃいそう。
多分、これが。
俺の初めての、世界初の。
初恋だ。
(ソ連目線)
俺は家出をした。
別に親父が嫌いなわけじゃない。
逃げたいわけでもない。
ただ、家庭での居心地が悪かった。
前々から計画していたことで、そのために高校ではバイトを掛け持ちしながら、熱心に勉学に励んだ。
1人でもやっていけるように色んなものを身に付けてきた。
大学に入る前に家出をするつもりだったが、無理矢理行かせられ、わざわざ転学する羽目になった。
その分の勉強も多くして、必死に働いて金を稼ぎ、そして念願の家出。
何か背負っていたものを全て捨てた気分だった。
でも、一つだけ心残りがある。
親友がいた。
彼と別れる時に貰ったこの眼帯。
泣いていたな…彼。
だけど、俺は今ここにいる。
ここで上手くやって、また、彼に会う。
そう約束して来た。
1人で何かをすることが今から始まると思うと、少し寂しいが、構わない。
それでいいとさえ思う。
大学にはなるべく近くて安いアパートを借りて、自転車で登校する。
端っこの方の席に着き、授業を受ける。
ノートにペンを走らせながら、黙々と勉強をしていると誰かが俺の隣に来た。
何故わざわざ俺の隣を選ぶのか……というか、コイツ遅刻して来た奴じゃ…。
『宜しく。俺、アメリカ。』
「…ソ連。」
こういうタイプは無愛想にしておけば、すぐ興味が薄れるだろう。
とりあえず今は勉強に集中する。
教授の声に耳を傾け、数式をノートに書き込む。
すると、隣の奴がまた声をかけて来た。
『ねぇ、ここの数式分かった?
俺これ苦手でさぁ…。』
「はぁ…?」
しつこいな、コイツ。
どう答えるか…。
とりあえず適当に答えてやろう。
「ここはルートだから外すだろ?そして、次は5をかけてから3で割って、その答えをこっちに移行する。そしたら因数分解が出来るからそれ分解したら、最後はXの答え求めればいいだろ。」
『んん……??
待って、ここに3かけんの?何で??』
「…それくらい考えろ。」
めんどくさくなって俺は考えることを放棄した。
その後は何かしら彼なりに頑張っていて、解けたらしい。
一限目が終わった後も付き纏われ、コイツはずっと俺といた。
『やっぱ統計力学とか訳わかんねぇよなぁ〜。
ソ連はスゲェ頭いいよな、何で転学なんてしたんだよ?
もっといい大学にいたんじゃねぇの?』
「お前には関係ないだろ。」
『うわ、冷てぇー!!』
何が面白いんだろうか。
ずっとコイツは笑顔だ。
どんなに俺が冷たく接しても、笑顔だ。
もはや気味が悪い。
でも、何となくホッとしている自分がいた。
1人で何かをやっていくことには慣れていたつもりだった。
だけど、やはり自分は誰かとやっていく方がよかったらしい。
つくづく自分にはうんざりさせられる。
だけど、自分のことだから受け入れるしかない。
1人になりたくないのであればコイツを1人にならないようにする為の、道具として扱ってやればいい。
そうやって来た。
今までも、これからも俺は人を利用して生きる。
これが俺だから。
誰も好きになったことがない。
実の父親さえも無理だった。
いい人ではあったがな。
親友でさえ…いや、違う。
他の奴とは少し違う感情を抱いていた気がする。
だけど、それがなんなのかは分からなかった。
ただ、彼といるときは楽だった。
それだけ。
アメリカにはそんな感情は抱かない。
そう決めていた。
そう決めていたはずだった。
つづく
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!