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源蔵三蔵 二十歳
ドゴォォォーン!!!
羅刹天は巨大な岩を一刀両断した。
岩は次々に落下し、俺達は階段に急いで向かった。
だが、鳴神と飛龍隊は動いておらず、ジッとその場に立っていた。
「まずい、波月洞が崩れるぞ!!!」
「まぁ、慌てんな。」
バッ。
猪八戒の言葉を聞いた鳴神は、手を広げた。
「何をする気なんだ?鳴神は…。」
「三蔵よ、アイツは神になった男だ。」
羅刹天がそう言うと、ピタッと落下して来ていた岩達が止まった。
「この程度の自然の摂理など、容易く壊せる。」
俺の目の前で、羅刹天の言った通りにの事になった。
波月洞の中から騒がしい雑音が消え、この場の時が止まっているかのような感覚だ。
「お見事です、鳴神。」
「観音菩薩よ、お前に聞きてぇ事がある。」
鳴神はそう言って、観音菩薩を見据えた。
「分かってます、悟空の事と美猿王の事…ですね。」
「あぁ、あの野郎は俺の息子の中に潜んでやがる。悟空と美猿王は別物だ。何故、悟空の中にいる。」
「鳴神、その話はここでは出来ません。」
「あ?」
バチッ。
肌にビリッとした痛みが走った。
バチバチバチ!!!
鳴神の周りに稲妻が集まり、電流を放っていた。
「観音菩薩殿、我々も隊長の息子殿の事を知る権利はあります。何故、この場で言えないのですか。」
雲嵐の前に如来が立ち、口を開けた。
「鳴神、飛龍隊。一度、天界に来て下さい。羅刹天、お前もだ。」
「あ?俺もか?何でまた…。」
「良いから、お前にとっても良い話だ。」
「俺にとってねぇ。」
羅刹天は暫く考え込んだ後、何かを閃いた表情を見せた。
「仕方ねぇなー。お前も来たらどうだ?鳴神や。」
「テメェの能天気さは相変わらずだな。」
「俺は物事を深く考えねー主義なの。」
「お、おい羅刹天。鳴神にその口の聞き方は…。」
「あ!?お前に関係ねーだろ!!」
鳴神と羅刹天の会話にお師匠が入り、羅刹天と言い合いを始めた。
お師匠と羅刹天はいつの間に、仲良くなったんだ?
「鳴神、貴方の求めている話を、三蔵の前でする訳にはいきません。」
観音菩薩の言葉を聞いた鳴神は、俺に視線を向けた。
「世界の理(コトワリ)に関わるみてぇだな。悟空を牢獄から出した時のようにな。」
俺には言えない事なのか?
だから、観音菩薩と如来は鳴神を天界に連れて行きたいのか…?
世界の理…、話はそこまで関わる事なのかよ。
悟空と美猿王は、一体…。
「分かった、お前と行けば良いんだろう?」
「はい、ありがとうございます。」
「ちょっと、待ってくれないか?」
そう言ったのは、沙悟浄だった。
「俺達は悟空の仲間だ。何故、三蔵には言えないんだ?世界の理…って、何なんだ。」
「君達の目的は経文を集め、天竺に行く事だ。3人ではなく、”4人”で行く事なんだ。」
観音菩薩は沙悟浄の問いに答えた。
どうして、俺達4人にこだわるんだ?
「良いか、三蔵。これは沙悟浄や猪八戒、ここにいない悟空の天命なんだ。君達は自分でこの世界の理を見て、判断し、天竺に行かなければならない。僕はここまでしか、教えられないよ。」
「おい、そこのガキ。」
観音菩薩の言葉に呆気に取られていると、鳴神に声を掛けられた。
「お前、いつまでガキでいる気だ。」
「え?」
「テメェはもう、自分で決めて自分で道を作る歳だろ。考えても無駄な事をいつまで考える。ちっとは、しっかりしろや。」
鳴神の言葉が胸に刺さる。
「観音菩薩、行くぞ。」
「分かりました。」
パンッ!!
観音菩薩が手を叩くと、大きな白い鳥居が現れ、神々しい光りが降り注ぐ。
「三蔵、悟空の手を離してはいけないよ。彼が…、この世界の鍵だ。」
「か、鍵って…、どう言う意味だよっ。」
「答えは天竺にある。」
観音菩薩はそう言って、姿を消した。
白い鳥居も、鳴神達の姿もなく俺達だけが波月洞に残った。
「三蔵、鳴神の言った事はあまり気にしなくて…。」
「いや、鳴神の言っている事は当たってるよ。俺は悟空の強さに甘えた。悟空が側にいなくて実感した、自分が弱い事。ここに来た時だって、沙悟浄と猪八戒に守られてばかりだ。」
俺の言葉を聞いたお師匠は、言葉を詰まらせた。
「それは仲間だから当たり前だろ?三蔵。」
「猪八戒?」
「仲間を助けながら戦うのは当然だ。俺と沙悟浄なんて、昔からそうして来た。悟空もお前の事は、仲間だって思っての行動が多かったよ。」
「悟空は口は悪いが、お前の事を信頼して言った言葉の方が多いぞ。迎えに行くんだろ?悟空をさ。」
沙悟浄はそう言って、猪八戒の肩に腕を回した。
「悟空を追い掛けない選択肢はないよ!!!美猿王から悟空を取り戻さないと!!!」
「決まりだな。まずは、悟空の中にいる美猿王をどうするかって話だな。」
沙悟浄は考え込みながら、言葉を放った。
「悟空と美猿王って、表裏一体だよな。表が悟空で、裏が美猿王。」
「表裏一体…。ちょっと、待って。」
猪八戒の言葉を聞いた俺は、読み続けていた本を思い出した。
本の題名は”表裏一体”と書かれていて、物語の主人公は美猿王だ。
悟空は須菩提祖師が付けた名前で、名前を貰い悟空として生きるようになってから性格が変わった。
「悟空は…、作られた人格とか…?」
「「は!?」」
俺の言葉を聞いた沙悟浄と猪八戒の声が重なった。
「おいおい、作られた人格って何だよ。」
沙悟浄はそう言って、俺に問い掛けた。
「俺の読んでいたこの本の通りなら、悟空は須菩提祖師が付けた名前なんだ。本来の悟空は美猿王だよ。」
「その本って…、悟空の事が書かれてんだっけ?その本の作者は誰なんだ?何で、悟空の事を書いたんだ?」
「この本は、お師匠から貰ったんだ。」
「その本は…、須菩提祖師殿が書いたものだ。」
「「「須菩提祖師が!?」」」
お師匠の言葉を聞いて驚いた。
須菩提祖師がこの本を書いた作者だったのか!?
だとしたら、説明がつく。
「須菩提祖師殿はもう既に亡くなってるよな?死んだ奴が本を書けんのか?」
猪八戒は続けて、お師匠に尋ねた。
「須菩提祖師殿は俺達、仏教界の中で最も神に近い存在と崇められていたんだ。彼は100歳まで生きて、仏教の道を歩み続け、この本を残したそうだ。悟空の事を書いた本を残したんだよ。観音菩薩殿が保管していたんだ。」
「100歳!?じゃあ、その本を読み返したら何か分かるかもな。」
猪八戒の言葉を聞いて、鞄から本を取り出した。
「お師匠、須菩提祖師の事は他に何か知らない?」
「幾つか、須菩提祖師殿に関する書物があると聞いている。今は持って来ていないが、書店にはある筈だ。」
「分かった、悟空の後を追わないと…。」
「その為には、黒風の力を頼るしかねぇな。」
俺の言葉を聞いた沙悟浄は、そう言った。
「おーい!!頭!!!」
声のした方に視線を向けると、波月洞の入り口に陽春(ヨウシュン)と緑来(リョクライ)の姿があった。
「何で、ここにいんだ?お前等。」
「俺達だけじゃありませんよ、黒風も居ますよ。頭達に急いで伝えたい事があるみたいで。」
「俺達に?」
緑来と沙悟浄は話しながら先に外に出て行った。
「江流、俺は水元を連れて寺に戻るよ。」
「分かったよ、水元に宜しく言っといて。」
「あぁ…。」
お師匠は何か言いたげな表情をしていた。
「どうかした?お師匠。」
「いや、何でもないよ。気を付けて行くんだよ。」
「ん?どうしたんだ?急にそんな事言い出して。」
「心配ぐらいするさ、お前の身内なんだから。死ぬなよ。」
「本当にどうしたんだよ…、お師匠。何か変だよ。」
何も答えずにお師匠は、俺の頭を撫でた。
「猪八戒、頼むな。」
「はいはい。」
「じゃあな。」
お師匠は名残惜しそうに手を頭から退け、歩いて行った。
「おーい、何してんだよ。出て来ねーのか?」
沙悟浄が俺達に声を掛けて来た。
「今から行く、行こうぜ三蔵。」
「あ、あぁ。」
心に残る疑問を抱きながら、俺と猪八戒は波月洞を出た。
夜の森の中、焚き火を囲みながら2人は座っていた。
「なぁ、悟空よ。お前さんはこの世の理について、考えた事あるか?」
須菩提祖師はそう言って、悟空に尋ねる。
「そんな事、考えた事もねー。」
「この世中には、不平等な事ばかりじゃ。未来は変えれても過去は変えられぬ。人生と言うのは、選択し後悔しての繰り返しじゃ。」
「人間と言うのは、面倒な事を考えるな。爺さん、アンタは神にでもなったつもりか?」
悟空の言葉を聞いた須菩提祖師は、目を丸くする。
「人の生死や未来なんか、他人が変えられる訳がねぇ。そんな事が出来る奴は神だろ。感情のある生き物は、言う事なんか聞かねぇよ。」
「ハッハッハ!!確かに、お前さんの言う通りだ。」
「アンタでも、そう思うのな。」
「そりゃあ、そうじゃよ。変えたかった未来くらいあるさ。」
「何だよ、感傷的になって。」
「わしも歳と言う事だよ。悟空、お前さんの事は大事にしておるつもりじゃよ。」
そう言って、須菩提祖師は悟空の頭を優しく撫でた。
2人の光景を美猿王は上から眺めていた。
「成る程、これが悟空の記憶の中か。俺を封じた須菩提祖師の野郎との記憶か。」
美猿王が見ている映像は、悟空の物であった。
悟空から体の自由を奪った美猿王の頭の中に、記憶が流れ込んで来ていた。
「悟空、わしが死んだら花の都へ行くのだぞ。」
「おいおい、縁起でもねぇ事言うなよ。何で、花の都だ?」
「お前に渡したい物を置いて貰っている。」
「俺に渡したい物?何だ?」
「それは秘密じゃよ。あの子に渡してあるからのぉ。ほれ、お前さんに懐いていた女の子じゃよ。」
須菩提祖師はそう言って、軽く笑った。
「あのガキか、俺の後を雛鳥みてーに付いて来た。」
「ハッハッハ!!愛らしいじゃないか。」
「どこが。」
「あの子はお前と共に、世界の理を見るんじゃよ。」
「本当にどうしたんだよ、爺さん…。早く寝ろ。」
美猿王は須菩提祖師の言葉を聞いて、口元を少し緩めた。
「世界の理を見る女…、俺と共に見る女か。花の都に行けか、成る程。」
思考を巡らせた美猿王は、一つの考えに辿り着いた。
「そうか、だからお前は俺に”名前”を付けたのか。」
「王?どうしたの?」
天に声を掛けられた美猿王は、ゆっくりと瞳を開けた。
「あぁ、悟空の記憶が流れ込んで来ていた。」
「ん?どう言う事?」
「美猿王、これからどこに向かわれるのですか?」
丁はそう言って、美猿王に尋ねる。
「花の都へ行く。」
「それって、さっき話してた所?」
「花の都で女を探す。」
美猿王はそう言って、煙管を咥え深く煙を吸い込む。
「へぇ、王がそう言うって事は…、面白い事が始まるって事ですね。僕は王の命令に従うよ。」
「邪は物分かりが良い。丁、お前等は須菩提祖師の書かれた書物を探せ。」
「書物ですか?何故、須菩提祖師のを?」
「調べ物だ、李。お前、字は読めるんだろうな。」
「え!?えっと…。」
「美猿王、李には俺が字を教えますから大目に見て下さい。」
胡は美猿王に頭を下げながら、申し出た。
「その辺の事はお前に任す。昔から得意だろ、胡。」
「は、はい!!有難き言葉です、美猿王。」
「胡、嬉しそう。」
「う、うるさい!!」
高の言葉を聞いた胡は、頬を赤らめ高の体を叩いた。
「邪魔物を消さねばな。」
「邪魔物って、アイツ等?さっきいた奴…。」
「あぁ、俺に枷を付けた野郎だ。力が制御されているからな。」
「王の邪魔になる奴等は殺せば良いんだよね?あは、早く殺したいなぁー。」
天はそう言って、桃饅頭を口に運ぶ。
「そろそろ、王が従えていた妖達が揃う予定です。僕が念力で伝えましたから。」
「仕事が早いな、邪よ。」
「へぇ、アイツ等も来るんだ。王が戻って来た証だね。あの頃は楽しかったなー、王と一緒に色んな奴等殺してさ。」
「美猿王、我々がいない間に一体何をしていたのですか?」
丁は2人の会話に入り、問いを投げ掛けた。
「お前等は最初に俺に使えた者達だ。黎明隊の団員数を増やすんだよ。」
「ふ、増やす?」
「お前は隊長なんだ、シャキッとしろ。」
「わ、分かりました。」
「俺が動けるうちに動いておかないといけない。”名前”の力は思った以上に強力なようだ。」
美猿王は白い煙を吐きながら、目を閉じた。