コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
マンションのロビーに下りると
「お!先輩!」
後輩のルビアが待っていた。
「お待たせ」
「いえいえ。じゃ行きましょうか」
「おう」
ということでルビアの家まで歩いていく。
「うわ。いいマンション住んでんな」
外観からわかる、高級でそこそこに高層のマンション。
「ま、4人でシェアしてるんで」
「ま、そっか。負担は1/4か」
「ですです」
エントランスに入る。
「お。エントランスのエスプレッソマシンって」
「あ、飲み放題らしいっすよ。ま、その分公共料金高いっすけどね」
「だよな」
ルビアが鍵でガラス製の自動ドアを開ける。
広いエントランスを抜けてエレベーターホールでエレベーターを待つ。
「…先輩、なんか緊張してます?」
「いや…。まあ…。してるかもな」
「なんかオシャレもしてますね」
「そりゃ他人(ヒト)様の家にお邪魔するんだからそれなりに身だしなみ整えるのが礼儀だろ」
「ま…そうですけど…。別によかったのに。部屋着でも」
「ルビアだけならな?初対面の人…」
“人”ではないんだよな…
と思いつつも続ける伊織。
「初対面の人と会うんだから。…あ。すまん。なんも持ってきてない」
「へ?」
「いや、おつまみとかワインとかの差し入れというか」
「あ!全然いいっすよ!」
と話しているとエレベーターが1階に着いたので2人で乗り込む。ルビアが最上階のボタンを押す。
「最上階かよ」
「最上階っす」
伊織が静かに驚いている理由。それはマンションでは一般的、基本的に最上階の部屋というのは
他のフロアの部屋よりも大きく、広く作られていることが多いためである。
エレベーターも高級志向でシックな造りとなっている。
「ま、さっきも言いましたけど4人で住んでるんで
家賃、光熱費、公共料金なんかも基本的には四等分ですけど
その分広さ、部屋数も必要なんですよ。難しいところですよねぇ〜」
「あぁ〜…たしかに」
「そういえばシェアハウスと普通の借家ってなんか違いあるんですか?」
「あぁ〜。ま、シェアハウスとして貸し出してるとこはちょっと違う。
ま、ルビアたちみたいに…。そういえばここって賃貸?」
「いえ?売買で買いました」
「マジ!?」
思わず大きな声が出た伊織。
「はい。ローンは組みましたけど、頭金あったし全員で割ればいけるっしょって」
「マジか…。ま、シェアハウスだしあれか」
「はい?」
「いや、なんでもない。ま、ルビアたちは売買だからいいけど
普通の賃貸でシェアハウスってのは割とグレーで、賃貸契約って普通は何年区切りなんだけど
シェアハウスって普通の賃貸契約じゃなくて定期借家契約っていって
“何ヶ月”っていうのを大家さん、オーナーの方が決めれて、普通の賃貸契約だとよっぽどの理由がない限りは
お客様側が契約更新の有無、更新するかしないかを決めれるんだけど
定期借家契約、シェアハウス契約とも言うんだけど
その場合は大家さん、オーナーさん側に契約更新の有無が決められるんだよ」
「へぇ〜。あ、喧嘩とか」
「そ。大家さん側も嫌な人いるだろうし、同居人で嫌な人いた場合
普通契約だと年待たないといけないからね。入居者側もキツイでしょ」
「たしかに。へぇ〜。勉強になりました」
と話しているとエレベーターが止まり、降りて部屋の前に行く。
「ふぅ〜…」
「先輩意外と人見知りなんですか?」
「オレが人見知りしない、誰にでも笑顔振り撒く陽キャに見えるか?」
と少し緊張気味の死んだ顔の伊織を見るルビア。
「…」
少し考える。ルビアの頭の中には仕事中の笑顔の伊織が映し出されている。
次にお客様の前ではない死んだ顔の伊織が映し出される。
「…半、々ですかね」
「は?半々?」
「お客様の前の先輩は割と人見知りしない、誰にでも笑顔振り撒く陽キャに見えますけど
お客様がいないときは見えないなぁ〜って」
「…褒められてんだか貶されてんだか…。いや、普段のオレが陽キャに見えないってことは褒められてねぇな。
いや、そもそも「陽キャに見える」って褒め言葉か?」
と考え込む伊織。ルビアはドアノブを握ってドアを引く。
「はぁ〜い。先輩いらっしゃーい」
「おい。急に」
「いらっしゃーい!!」
ドアの向こうには赤いショートカットの髪の元気な女の子が迎えてくれた。
「いらっしゃいませなのだ」
その後ろには職場に来た癖の強い、片目隠れの白に近い金髪の女の子がいた。
「こんにちは」
とその片目隠れの白に近い金髪の女の子の隣には
背の高い、水色の髪をしたメガネをかけたイケメンが立っていた。
「あ、どうも。本日はお招きに預かりまして」
と頭を下げる伊織。
「かった(硬い)」
と笑う赤い髪の女の子。
「ささっ!入った入った!」
と奥へとぴょこぴょこと跳ねていく赤い髪の女の子。
「どうぞ」
と水色の髪のメガネのイケメンがスリッパを出してくれた。
「あ、すいません。ありがとうございます。お邪魔します」
と言いながら靴を脱いで整えて、端に寄せスリッパを履いて廊下を進む。
廊下もそこそこに長く、その廊下の先にはLDK、リビングダイニングキッチンが広がっていた。
ひっろ
と思う伊織。
「あ、どうぞ先輩」
とルビアがダイニングテーブルのイスをひく。
「あ、うん。ありがと」
と座る。
「うーし!今日は豪勢でっせぇ〜」
と赤い髪の元気な女の子がお皿を運んでくる。
それに続いて片目隠れの白に近い金髪の女の子もお皿を運んできて
ダイニングテーブルの上が色鮮やかになる。オシャレでなおかつ美味しそうな料理の数々。
たしかに豪勢だわ
「シャンペーン!」
と言いながら赤い髪の女の子がシャンパンのボトルをテーブルに置いて
コルクを、ポンッ!っと抜く。そして5人分のお皿や
スプーン、フォーク、ナイフなどのカトラリーと並んできっちり置かれたワイングラスに
シャンパンを注いでいく。
「んじゃ!ようこそ!ということで!」
赤い髪の女の子がグラスを持つ。他のみんなもグラスを持ったので伊織もグラスを持つ。
「じゃ、かんぱーい!」
「乾杯」
「乾杯なのだぁ〜」
「先輩かんぱーい」
「おう。乾杯」
「うちのルビアをよろしくお願いしますね」
赤い髪の女の子がグラスを近づけてきたので
「あ、いえ。こちらこそよろしくお願いします」
こちらこそよろしくお願いしますってなんだ?
と思いながらも伊織もグラスを近づけ乾杯する。
「改めましてよろしくお願いしますなのだ」
お次は片目隠れの白に近い金髪の女の子はグラスを近づけてきたので
「あ、こちらこそです。よろしくお願いします」
と伊織もグラスを近づけ乾杯する。
「初めまして。タズ・ウォーン・テシーと申します。よろしくお願いします。
うちのルビアがお世話になっております。」
最後に水色髪のメガネのイケメンがグラスを近づけてきたので
「あ、いえいえ。あ、汐田 伊織と申します。こちらこそよろしくお願いします」
と自己紹介をしてグラスを近づけて乾杯した。ようやく一口シャンパンを飲んだ。
あんまシャンパン飲まないけど…美味しいんだろうな…
と思いながら
「美味しいです」
とグラスを置く伊織。
「タズが自己紹介するまで忘れてた!私イルファー・ビー・アイです!よろしくね!」
と思い出したように自己紹介をするアイ。
「あ、汐田 伊織です。よろしくお願いします」
「さすがは社会人ですなぁ〜。硬い硬い。高い高ぁ〜い!なんつって」
てへぺろ的な顔をするアイに、ヒュウゥ〜っと冷たい風が吹いたように凍りつくほど寒くなる周囲。
「わては二度目ましてなのだ」
わて?
と思う伊織を他所に続ける片目隠れの白に近い金髪の女の子。
「アルノ・シジェン・ワセエと申しますなのだ。よろしくお願いしますなのだ」
癖強いな。キャラ付けじゃなくて素なのか?
と思いつつも
「あ、二度目まして?でいいのかな?汐田 伊織と申します。よろしくお願いします」
と自己紹介をする。
「ディナーの前に」
とルビアがグラスを置く。
「まず僕と同じ悪魔から」
「はぁーい!私でぇ〜す!」
とアイが元気よく、ピンと手を挙げる。
「じゃ、イルファー。よろしく」
「んまぁ〜…羽とか尻尾は服が破けちゃうのでぇ〜…」
と照れながら言うアイの頭、こめかみの少し上辺り、髪の生え際が隆起し始め
肌が変化し巻き込まれるように赤黒い岩のようなものが出始める。
その赤黒い岩のようなものが切られていないバウムクーヘンのような形になった。
そしてそのバウムクーヘンのような形の真ん中の穴から赤い炎が出た。
「角だけでご勘弁を」
と舌を出すアイ。ルビアの角やら羽やらを見ていたものの
やはりどこかそのことを現実として受け止めていなかったのか
それともルビアとは違うタイプだからなのか、死んだ顔のまま固まった。
「…あれ?先輩?先ぱーい」
と伊織の目の前を手で「You can’t see her」とブンブンと振る。
「…はっ!死んだのは顔だけだったけど本当に死んだってことか!」
というアホみたいなルビアのセリフで我に帰る伊織。
「はっ。あぁ。あ、あぁ。はい」
動揺して言葉が全然出てこない伊織。その間に角を引っ込めるアイ。
「っとぉ〜…」
と角を引っ込めた後、角のあった部分を触るアイ。
「ぽこっとなってないよね?」
とアルノに確認するアイ。
「なってないのだ」
「伊織先輩?大丈夫っすか?」
「…大丈夫大丈夫。やっぱ現実味ないよな」
「やっぱりそうなんだねぇ〜。ま、悪魔族の角とか羽とか尻尾とかはインパクトデカいかもねぇ〜」
と言うアイ。
「だな。オレのときも割とこんな反応だったし」
「あぁ言ってたね」
「大丈夫っす先輩!オレたち悪魔に比べたら天使族はインパクト薄なんで」
と謎に胸をポンッっと叩くルビア。
「言ってくれるのだ!」
と言ってイスの上に立つアルノ。背が小さいのでイスの上に立ってもそこまで威圧感がない。
「ふん」
と鼻から息を吐くとアルノの背中に大きな影が。と思ったら
ふわっと、どう見ても柔らかく暖かそうな白い羽根が無数についた大きな羽が現れた。
羽根が数枚舞い散る。それと同時にアルノの頭の上に微かに光る“天使の輪”なるものが現れた。
「…」
伊織がまた固まる。
「ふん!どうなのだ!」
謎に胸を張るアルノ。
「えぇ〜。天使族とリアクション同じぃ〜?いおりんリアクション悪いんでね?
芸能人にはなれそうもないですな」
と言うアイ。
「はっ。あぁ。はい。あ、はい。あ、大丈夫です」
アイの言葉は一切入っていない伊織。
「むふぅ〜」
得意気に鼻から思い切り息を吐くアルノ。
「じゃ最後タズ」
とルビアがタズに振る。
「トリ嫌なんだけど…」
「いいからいいから」
アルノは得意気な顔のまま羽を引っ込めて天使の輪も消す。
「じゃ、すいません。失礼します」
と言ってタズがYシャツを脱いでタンクトップになり、少しイスの前にずれる。
するとタズの背中からほんのり水色のアルノと同じような羽が出る。
タズの頭の上にも天使の輪が。しかしその天使の輪はアルノのとは違い、形を保っておらず、常に形を変え
しかしかろうじて“輪”呼べるまでには形を保っている、水でできた天使の輪だった。
水でできた天使の輪に光が反射してキラキラと輝いている。
「おぉ…」
タズのときは固まりはしなかった伊織。
「ね?タズの天使の輪おもしろいでしょ?」
ルビアが目を輝かせながら伊織に言う。
「あぁ。え、それって本物の水なんですか?」
伊織がタズの天使の輪に興味を示す。
「んん〜…本物の水…ではありますけど、難しいですね。一応自分の体液というか
エネルギー源なので日本の水とかアメリカの水とか“どこかの水”とかではないんですけど
一応水という分類ではありますね」
と言いながらタズは右の掌を少し窪みができるように曲げ、その窪みに水を出して見せた。
「おぉ。スゲェ」
水を引っ込める。
「ぐぬぬ。なぜうちの天使の輪とかには食いつかないのだ。なんか悔しいのだ」
と頬を膨らますアルノ。
「でも驚いてたは驚いてたじゃん。食いついてはいるけど、タズの場合は驚いてはなかったよ?」
と言うアイ。
「と言う感じで!ま!ご飯食べましょう!」
とルビアが1回パンッっと手を叩いて空気を統一する。
「ということで。いただきまーす!」
というルビアの言葉に続いて
「いただきます」
「いただきますなのだ」
とタズとアルノが言ってその後に
「いただきます」
と伊織も言いながら手を合わせ、軽く頭を下げる。
「どぉ〜ぞぉ〜」
と笑顔で言うアイ。それぞれ当たり前に箸を上手に使って食べる。
色鮮やかな野菜が多めの、サラダのようなカルパッチョに
こんがりと綺麗な焼き色の一口大に切られたローストチキン。
エビとブロッコリーのサラダ、そしてこれまた一口大のパイに包まれたなにか。
「イルファー、これはなんなのだ?」
アルノがそのパイに包まれたなにかを指指す。
「ん?それはねぇ〜」
とアイは自分の取り皿にパイを1つ取り、一口大の大きさだがナイフで半分に切って中身を見せた。
「じゃあぁ〜ん。ラザニアでぇ〜す」
と言ってみせた。
「おぉ!大好きなのだ!」
「だしょだしょー。ま、私の料理はすべて美味しいけどなっ!」
とドヤ顔をかますアイ。しかしドヤ顔をしていいほど
うわっ。うまっ
料理はどれも美味しかった。ローストチキンもパリパリで
しかししっかり火を通しているからといってパサパサになることはなく
ジューシーさをしっかり残す抜群の焼き加減。チキン本来の味を引き立たせるように計算された味付け。
「これ、アイさんが作られたんですか?」
「アイでいいって。ま、火は私にまかせろってね!」
とウインクしながら指パッチンで音を鳴らす。すると鳴らした右の人差し指の先端に火が灯る。
「うおっ。スゴッ」
「へへぇ〜ん。こーゆーことできないのがアルノとヴァロックね」
「ヴァロック?」
「あ、自分です」
とルビアが伊織に言う。
「あぁそっか。ヴァロック・ルビア…」
「ドゥルドゥナードです」
「そう。だもんな。ルビアって呼んでるせいで。
あ、今さらだけど、もしかしてヴァロックのほうがよかったりする?」
「あ、いえ!全然ルビアで、大丈夫っす」
「そ、うか。わかった」
「わてだってできるのだ!」
と食事中にも関わらずまたイスの上に立つアルノ。タズがアルノの両脇の下を手で支え
「お行儀悪いから降りなさい」
と言いながらゆっくりとイスから下ろす。
まるで人形のようにムスンとした顔を保ちながら地面に下ろされるアルノ。そのまま
「はあぁ〜っ…」
っと何かを吐き出すようにすると
「…なんかあったかい…」
言葉で表すのが非常に難しいが、胸の内側、決して胸とか臓器がとかではないのだが
胸の内側がじんわりと温かくなる感じがした。漠然と心が浄化されるような、漠然とした“幸せ”を感じた。
「アルノは“幸せ”の天使だからねぇ〜。
私とタズみたいに目に見えるなにかができるわけじゃないんだよねぇ〜」
と言いつつも幸せそうな顔をするアイ。
「むふぅ〜!」
またドヤ顔をした後にイスに座るアルノ。
「幸せの天使」
と伊織が言うとタズがシャンパンを飲んでグラスを置いて
「“幸せ”の天使ってなんか漠然とした括りですよね」
と話す。
「そ、うですね」
「でもよくファミレスにかけられる天使の絵とか人間が想像する一般的な天使像ってのは
アルノのような“幸せの天使”なんですよね」
「あ、へぇ〜。そうなんですね」
伊織はタズとめちゃくちゃ普通に話しているが、タズも天使。話している内容も普通ではない。
しかし伊織は、慣れたのか、それとも未だに夢だとでも思っているのか、普通に話すまでになっている。
「羽の色も」
タズが不意打ち的に背中から羽を生やす。伊織は固まる。
「アルノは白なんですけど、自分ら水の種族はほんのり水色がかってるので。
人間がイメージする、そして描く天使って白い羽に丸い天使の輪ですよね」
羽をしまうタズ。
「ま、天使の輪は黄色く描かれてることもありますけどね。
あれはお金の天使の色だから、天使から見ると違和感あったりするんですよね」
と苦笑いしてからシャンパンを飲むタズ。
「お金の天使…」
タズが羽を生やしたことも会話の内容も現実離れしていることに今一度気づき直した伊織。
「お金の天使はお金周りの運が異様に良くなる天使ですね。
ま、日本でいうとことの七福神の大黒天、弁財天みたいなものです」
「神様」
「日本の方はあまり良くは思われないかもしれませんが
大黒天や弁財天、七福神や神様と呼ばれる類いの者たちは実は天使なんじゃないかと言われています。
我々はその子孫、もしくはその側近の天使の子孫ではないかと」
「はあぁ〜。なるほど」
「ちなみに火加減でドヤってたけど、味付けはタズがしてくれてるんですよ」
とルビアが説明する。
「あ、そうなんですか」
「水加減とか調味料の調整とかは自分が」
少し照れくさそうに言うタズ。
「めちゃくちゃ美味しいです」
「よかったです」
一方、飲みに行っていた気恵(きえ)と明観(あみ)。
「好きな人がいるなら早く言えってのぉ〜…」
左肘をついて左手の上に顔を乗せて項垂れる気恵。
「時間返せって?」
眠たそうな目でニマッっとしながら言う明観。
「…。そこまでは言わんけどさぁ〜…」
「告白くらいはしとけばよかったね。フラれる前提だけど」
「…たしかに。…いや!もっと前に告白すれば」
「あぁ、汐田に好きな人ができる前にね?」
「そうそう」
「てかルビアくんとかなんか知らないかな?」
「なぜルビアくん?知ってるとしたら小角決(おかけ)じゃない?」
「いや、汐田、ルビアくんの教育係だし、小角決より一緒にいる時間長いだろうし
汐田の好きな人ができたのがもし最近ならルビアくんのほうが知ってるかなぁ〜って」
「あぁ〜…たしかに」
明観はフライドポテトを咥えながらスマホを操作する。
「でもだからなにって感じだけど」
と気恵が言うと、無言でフライドポテトを咥え食べたままスマホをテーブルの中央辺りに置く明観。
「ん?」
覗き込む気恵。明観のスマホの画面はLIMEのルビアへの通話の発信画面になっていた。
「え。なんで電話かけてんの?」
「ん?いや、情報聞けるかなぁ〜って」
「いや」
聞きたくないけどなぁ
と気恵が思っていると
「はい」
とルビアが出た。
「お、出た。ルビアくーん。お疲れー」
「景馬(けいま)先輩、お疲れ様です」
「今大丈夫だった?」
「はい。全然大丈夫です。どうかしました?」
「いやさ」
と本題に入ろうとした明観だったが、ルビアの背後が騒がしかったので
「なんか盛り上がってるみたいだけど」
とそこに触れた。
「あ、すいません。うるさかったですか?」
「いや、全然大丈夫だけど、どしたのかなーって」
「いや、今日伊織先輩を家に招いたんで、ルームシェアしてるメンバーと軽いパーティー的なものを」
「え。汐田いんの?」
気恵を見る明観。口パクで「マジで」と言う気恵。
「いますよ」
と言った後
「伊織先輩」
という声が遠くなる。
「タズタズ」
「ん?」
「多様性、多様性。はっ。それしかねぇ、脳がねぇ、つまんねぇ
だからメディアから離れる。So we look for another route.
視聴者に媚び、おもんなくなって視聴者が離れる。はっ。元も子もねぇ。I’m a protruding nail.
出る杭は打たれる?出てなんぼ、って目立ってなんぼ。
媚びて得たのは、さあ、なんぼ?耳に心地いいこのテンポ。
言いたいこと言いまくってるこの曲で得るのはなんぼ?
Become the million-dollar-dollarで膨れるうちらのポケット。
我々が世間の代弁者、音楽の力借りて本音をシャウト。
教えてやるかおもろくなるHow to. みんな虜 We are 魅惑の果実ぅ〜。yeah 。どお?」
アイがラップを披露する。
「どおって。ま、いんじゃない?」
「次の曲のラップ部分こんな感じにしようと思うんだけど」
「え…。…ま、いいと思うけど、メディアに出れなくなることは考えてる?」
「えぇ〜。出れなくなるかな」
「わかんないけどその可能性はある」
「メンバーに怒られるかな」
「ま、イルファーたちはグループで活動してるからね。
オレたちみたいに個々で活動してるわけじゃないから、そこはメンバーと話し合ったほうがいいと思うよ。
さすがにメディアに出れないってのはデメリットがデカすぎる気がするし」
という話を聞いて
次の曲?メディア?
と思い、それについて質問しようとしたところでルビアに呼ばれる。
「ん?」
「景馬先輩から電話です」
「は?景馬?どしたん?てかなんでオレ?ルビアに電話来たんじゃないの?」
「そうですけど伊織先輩いるっていったら」
とスマホを差し出すルビア。伊織はスマホを受け取って耳にあてる。
「はい」
テーブルの真ん中に置かれたスマホから伊織の声が気恵、明観に届く。
「おぉ。マジで汐田だ」
「なんだよ。…居酒屋にでもいんのか」
「お。よくわかったねー」
「周りの音でわかるわ。で?もうルビアに代わるぞ。ルビアになんか用あったんだろ?」
「いや、そのつもりだったんだけどー。実は汐田が目的でしてー」
「は?どーゆーことだよ」
「いや、汐田が今好きな人いるって聞いてさー」
と気恵をニマッっとした顔で見ながら言う明観。少し焦り「ちょっとぉ〜」と口パクで言う気恵。
「は?誰から」
「情報元は明かさないってのが鉄則でしょーに」
「知らんわそんな鉄則。あとその情報元に伝えとけ。その情報は間違ってますよって」
という伊織の言葉を聞いて
えっ。あ、そうなんだ
とホッっとする気恵。
「あ、そなん?」
「そ。そんだけ?」
「そんだけ」
「なんだそれ。…ま、あんま飲みすぎんなよ。景馬、酒弱いんだから」
「あーい。わかりましたー」
「んじゃ。お疲れ、って切っていいんだよな?」
「あ、うん。お疲れー」
「ん。お疲れ」
と言ってテロリンッ。っと通話が終了する音が鳴る。
「良かったのぉ〜」
と明観がスマホを自分の近くに置きながら言う。
「う、うん」
「お。顔が赤いぞよ?」
「お、お酒ですぅ〜」