テラーノベル
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かなめが退院してから三日。
医師からは「無理はしないように」と言われていたため、レッスンはまだ見学だけだった。
それでも、メンバーと一緒にいる時間はかなめにとって何より楽しかった。
「かなめ。」
帰り道、りょうたが声をかける。
「今日、約束の日だよ。」
「うん。」
かなめは笑った。
二人は電車を降り、ゆっくり歩き始める。
目的地は、あの日たどり着けなかった公園。
⸻
夕焼けに染まる景色は、あの日とよく似ていた。
ベンチも、街灯も、風の匂いも変わらない。
「ここ……。」
かなめは辺りを見回した。
「やっぱり来たことある気がする。」
「うん。」
りょうたは静かにうなずいた。
二人はあの日と同じベンチに腰を下ろす。
しばらく沈黙が流れた。
風が木々を揺らす音だけが聞こえる。
「かなめ。」
りょうたが静かに口を開く。
「実は、事故の日。」
「俺、ここでかなめに返事をするつもりだった。」
かなめはゆっくりとりょうたを見る。
「返事……?」
りょうたは少しだけ息を吸った。
「事故の前に、かなめは俺に気持ちを伝えてくれた。」
その言葉に、かなめは目を見開く。
「……え?」
「俺のことが好きだって。」
「そんな……。」
かなめは頭を押さえる。
「俺が……?」
「うん。」
「でも、事故のあと。」
「その記憶だけ、なくなっちゃった。」
かなめは何も言えなかった。
驚きと戸惑いが入り混じる。
「ごめん。」
りょうたは少し笑った。
「ずっと言おうか迷ってた。」
「記憶がないのに話すのは、かなめを困らせるだけかなって。」
かなめはうつむいたまま、小さくつぶやく。
「……ごめん。」
「俺、何も覚えてない。」
その声は少し震えていた。
「せっかく勇気を出したのに。」
「忘れるなんて最低だよな。」
「違う!」
りょうたはすぐに首を振った。
「かなめは悪くない!」
「事故だったんだから。」
「だから、自分を責めないで。」
かなめはゆっくり顔を上げた。
その目には涙が浮かんでいた。
「でも。」
「りょうたは、返事をしようとしてくれてたんだよな。」
「……うん。」
「その返事。」
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かなめは不安そうに笑う。
「今、聞いてもいいのかな。」
りょうたは少しだけ照れくさそうに笑った。
「本当は。」
「記憶が戻ってから言いたかった。」
「でも。」
「かなめが聞きたいなら。」
りょうたはかなめの目をまっすぐ見つめた。
「俺も。」
「かなめのことが好き。」
その瞬間、かなめの呼吸が止まったように感じた。
「俺も、かなめのことばかり考えてた。」
「でも、自分でも気づくのが遅くて。」
「返事をしようと思った日に……あの事故が起きた。」
かなめは何も言えなかった。
嬉しいはずなのに。
胸がいっぱいになるはずなのに。
心のどこかが空っぽだった。
(俺は……。)
(この言葉を、本当は知っていた気がする。)
頭の奥が少しだけ痛む。
知らないはずなのに、懐かしい感覚。
公園。
夕焼け。
りょうたの泣きそうな顔。
そして――
『俺は……りょうたのことが好き。』
誰かの声が、頭の中でかすかに響いた。
「っ……!」
かなめは思わず頭を押さえた。
「かなめ!」
りょうたが慌てて肩を支える。
「大丈夫?」
かなめは苦しそうに目を閉じる。
頭の中で、忘れていたはずの景色が少しずつ浮かび始めていた。
「俺……。」
「思い出せそうな気がする……。」
りょうたは息をのんだ。
二人の止まっていた時間が、もう一度動き出そうとしていた。
コメント
1件
**はる。だわ。** 第22話、胸がぎゅっとなった。事故の日に言えなかった返事を、記憶がないまま公園で改めて伝えるって、めちゃくちゃ切ないし尊い……。「俺もかなめのことが好き」ってまっすぐ言えるりょうた、かっこよすぎるだろ。それに対して「覚えてなくてごめん」って自分を責めるかなめにも泣けた。最後に記憶が戻りかける演出、続きが気になりすぎる🔥 お二人の止まった時間、動き出してほしいな。