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「私自身ただのラッキーで坪井くんと付き合えてるのもわかってます」
「……ラッキーって何いきなり、今度は自慢?」
呆れたように肩をすくめて小野原は言った。
「だから小野原さんによく思われてなくても仕方ないし、何されてもこんな私だから仕方ないよねとか思ってて」
いきなり始まった真衣香の演説じみた声を怠そうに腕を組んで小野原が眺めている。
「……はぁ、いい子ちゃんもここまでくるとめんどくさ。 会話噛み合わないんだけど」
そしてボソッと呟き真衣香を見据え、今度は冷静な声を出した。
「坪井くんが味方なんだから、もっと強く出ればいいじゃない。 彼、部長のお気に入りだもん、ハッタリじゃないよ。本気で言えば私なんて担当外せるし異動だって」
「坪井くんの仕事の速さとか正確さとか!」
慌てて口を挟んだ真衣香の声が、響いて小野原の声を止めた。
営業課の電話が鳴る音や話し声を何となく耳に入れながら、真衣香は小野原に向けてゆっくりと伝える。
「この間初めて間近で見て知ったんですよ。 同期なのに、全然何も知らなくてビックリして。そんな坪井くんの担当の営業事務が誰にだってできるわけないじゃないですか」
「だからさ」
何やら口を挟みたそうな小野原の声を待たず真衣香は話し続けた。
正確には、沈黙や小野原の言葉が怖くて待つことができないのだけれど。
「そ、それに誤解してます、坪井くんは私の味方なわけじゃないです。 きっと自分が正しいと思うことを発言してるだけです」
「え?」
「小野原さんが正しいんだって坪井くんが判断したなら、プライベートでどんな関わりがあろうと無条件で庇ってきたり味方してきたりなんてしません。だから今回は小野原さんがやり過ぎた。でも私だって何も気づかずに引き受けた、坪井くんだって言い過ぎた」
真衣香は真っ直ぐに、小野原の目を見て言い切った。
「坪井くんは思ったことを口にしてしまうと自分で言ってました。 私の味方とかそんなのじゃなくて彼の中で決めた〝正しいこと〟があるんだと思うんです、それをを伝えたい時きっと一生懸命になり過ぎてしまうんです、だから」
「誰の味方でもないし、小野原さんを傷つけようしたわけでもないと思うんです」と最後に付け加えた真衣香を、小野原は何も言わずに見ている。
沈黙は怖いが、先ほどまでの刺さるような怒りは感じないような気がする。
と、真衣香は勢いのまま更に声を出した。
「だから私は私の謝りたい部分だけ伝えたくて追いかけてきました」
「……謝りたいこと?」
組んでいた腕を下ろして、少し歩み寄りながら反応を返してくれた小野原に、真衣香は内心ホッとしながら問いかけに応える。
「は、はい! 邪魔かもしれないけれど引き下がりたくないことと、きちんと確認もしないで騙されたまま仕事を引き受けたことです、ごめんなさい」
言いながら頭を下げた真衣香。
少し経って顔を上げても小野原は何も答えない。
真衣香にとっては数時間にも感じる。恐らくはほんの少しの沈黙。
それを破ったのは小野原だった。
「……はぁ〜、なるほど、そっか」
「え?」
あまりにもさっぱりとした返事に真衣香は間抜けな声を返してしまう。