※再編集された連載となっています。
ざっくりとした内容は同じですが、細かな部分は全くもって異なるので、是非ともお読みください!!! By 作者
〘*意味なんてとっくに捨てたから。*〙
episode1 欷歔の音色
日本で、いや世界で、いや…生きていく上では何をするにも意味が付き物で、命と意味は切っても切り離せない相互に強く結び付いた物だ。
例えば、腹が減ったから何か食べるとか
その日に満足しきれていないから夜更かしするとか。
それに、熱いやかんに触れて慌てて手を引っ込めるとか
ボールが飛んできたから思わず目を瞑ったとか。
そういった人間の"反射"と呼ばれるものでさえも意味がべったりと付いて来る。
でもそんなの当たり前。
もっと強い意味と言えば、
愛する人を殺されたからたとえ仇討ちだとしても仇をとる。とか、
愛する人が死にそうだから自分の命と引き換えに神様と交渉する。
とか、
欲、慈悲、傲慢さ、憎悪、愛情の類を煮詰めて煮詰めて、煮詰めまくったものだ。
そう知ったのも、命と意味が連れてきたひとつの悲劇とも言える物語からだった。
「うわっ、じゃっぴそれは反則だー!!」
「ええい、知るか知るかーっ!!」
「ちょちょちょ、待って!もふくんが大ピンチって感じだけど俺の方が死にそうだよ?!!」
「えへ、うりの残機をいただきにきました。」
「おいぃぃぃぃい!!」
「いやー、楽しかったね。今日も。」
「だね、配信盛り上がってたし。どっかの恐竜に俺は末代までの憎しみを持ちましたけど…」
「いやん。」
「じゃっぴ、それはキモイかも笑」
「言えてる笑 俺は俺で狐さんにボッコボコにされたけど。」
「てへぺろ」
「それはもふくんにしか効かないよ?」
「えー、」
『じゃあみんなバイバイ』と決まったセリフを言い、カメラを折りたたんだ。
そう、俺達は実況者。
こうして日々、日本中の誰かに笑顔を届ける仕事は天職だと感じてる。
でも、
俺のように体力が無い高校生には、高校生活 部活 勉学にプラスして活動があると、とても参ってしまう。
勿論、毎日十分に休むことなんて出来ない。そう。毎日寝不足だ。
じゃっぴの家から家路まで、ぼけっと空を見上げて帰ることが殆ど。
半分意識飛ばしてるようなもんだ。
「ねえ、もふくーん。俺の話聞いてる?」
「ん、ぇ。あぁ、ごめん」
「俺もうそろ泣くよ?」
「ごめんって笑」
「あ!見てっっっ!!あれ狸じゃない?!」
どぬくさんが指差す先には低木の茂みがあった。確かに、何かがいるようで茂みががさごそと動いている。
2人は高校生らしくも無い格好で茂みに突進した後、野生だ!とか、可愛い!とか女子高生みたいなことを言っていた。
その姿があんまりにも面白くって、動画を撮ってあげようと思い肩から提げた学校指定の鞄に手を突っ込んだ。
「あれ、スマホどこに入れたっけ…」
「何こいつ、めっちゃぽてっとしてんじゃん…可愛い」
「狸ってもっと犬みたくほっそりしてるのかと思ってた。」
「んね、もふくんもこっち来て見なよ!」
視界の端でどぬくさんとうりが振り返ったのを感じて、うんと返事をしようとした、その時。
「もふくん危ない!!後ろ!!」
やっとの思いで掴んだスマホを取り出したその時、どぬくさんが叫び声にも等しい大声で俺の名前を呼んだ。 目が飛び出るほど俺を、正しくは俺よりもっと後ろに注目していたので、特に気にすることも無く後ろを振り返った。
何をおおげさに騒いでいるんだろうと思っていたけれど、自転車が目と鼻の先という所まで迫っていた。乗っていた人は速度を落とす素振りすら見せない。
「うわっ!!」
そう口から小さな悲鳴がこぼれた頃にはもう、自転車が体を掠めて通り過ぎていった
のも、つかの間。
歩道と車道を分ける数十cmの段差に足を引っ掛けてしまい、背中を下にしたまま思いっきり倒れてしまった。
倒れる最中はまるでスローモーションのようだった。どぬくさんはまだ奥の方を見ていて、うりは懸命に手を伸ばしている。
掴める訳ないじゃないか。
横に視線を向けると太陽のような、眩しい光が2つ、迫ってきていた。
俺の頭はどうやら冷静なようで、それが車のライトである事を、地面に背中を打ち付けるより早く悟った。
あ、俺。今ここで死ぬんだ。
そう悟った瞬間、底知れぬ恐怖を感じて目を強く瞑った。 何かあたたかいものが覆い被さる感覚と同時に、俺は地面に叩きつけられた。
車のブレーキ音は女性の高い悲鳴のように甲高い音を残していった。
ぁれ…、ここは…?
白い天井
劣化して所々薄黄色に変色したカーテン
一定のリズムで鳴る何かの電子音
消毒のようなにおいで充満している
体が上手く動かない
おまけには、叫びたいほど痛い
俺…生きてる、?
眼鏡が無いせいでぼんやりとしか見えないが、周囲の状況を観察し、自分が今どこにいるのか推測した。
恐らくは病院だ。そしてきっと集中治療室。
ドラマでよく見る酸素マスクのような物をされているが、息が苦しい。
全身燃えるように熱いのに、体の中心は凍ってしまいそうな程冷えきっている。
死にそうだ。
「ぅ、あ…」
「あ!先生起きました!!この子目覚ましましたよ!!」
「君、聞こえるかい?聞こえていたら二回瞬きしてくれないかな?」
殆ど動いていないだろうけど二回、ゆっくりと瞬きをした。
マスクに、青い防護服のようなものを着た2人がほっとしたように息を吐いた。
「あ~良かった…起きないかと…先生、私達やりましたね!!」
「あぁ、そうだね…一先ず、もう少し鎮痛剤を打ってあげよう。きっと痛いだろうから。」
「はい。先生はもう一人の子の方へ行ってあげてください。」
「うん、ここは君と他の看護師たちに任せることにするよ。何かあったらすぐ呼んでくれ。」
数分後、誰かが液体の入った小さな袋を持ってきて点滴台をいじくりまわしていた。
俺は医療従事者じゃないからいじくりまわしているようにしか見えないけれど、きっと丁寧にやっているのだろう。
呼吸する度に体のあちこちが痛む。
酷い頭痛もするし、一言呟くことすら出来ない。
そう思っているうちに限界を迎えたのか、気絶するように眠ってしまった。
一緒にいたどぬくさんとうりはどうしているだろうか。
そんなことを考える余裕は俺には無かった。
数週間後、お医者様や看護師さん達の懸命な治療のおかげで、酸素マスク無しで呼吸出来るようになったし、会話出来るようにもなった。
まだ動けないしあちこち痛むが、上手く呼吸出来るようになったことが何よりも嬉しかった。
ずっと面会謝絶ということになっていたが、あとほんの少しすれば皆にも会えるだろう。
再会した時のことを想像して微笑んだとき、折れたらしい肋骨がズキリと傷んでしまった。
「ってぇ…」
「失礼します…もふくん、起きてる…?」
「はいっ…て、」
「どぬくさん?!え、もう会えるの?」
「ううん、特別に。」
「そっかぁ…でも、嬉しい。寂しかったから。」
ニカッと笑うと、どぬくさんは似合わない様子でぎこちなく笑みを浮かべた。
何か異質なものを感じたが、特に気にすることなく会話を続けた。
「もう喋れるんだね。 」
「まあね…まだ、痛みで魘されることもあるけど。」
「ほんとに心配だったんだから…」
ムスッとした様子でどぬくさんが言う。
でも確かに、知人が事故に遭うなんて肝が冷えるだろう…
転倒した際、打ちどころが良くなかったらしく頭蓋骨に小さなヒビが入った。
遠くまで飛ばされたようで、肋骨 鎖骨にヒビが入って、大腿骨骨幹部骨折と腰椎横突起骨折まで起きた。
内臓系になんの損傷も無いのが奇跡らしい。
「暫く歩けないんでしょう?」
「うん。でもすぐ治るよ。」
「そうして欲しい笑」
「でもさ、轢かれた割には軽傷じゃない?生きてるし」
「…その事なんだけど、」
急に改まったような目で俺の視界を捉える。
逃がすまいといったような視線が肋骨よりも痛い。
インフルエンザにかかった時のような悪寒が背中から全身へと一気に駆け巡る。
「もふくんは、どうして軽傷で済んだか…わかる、?」
「え…どういう、…わかんないよ。」
「うり。」
「う、うり?うりがどうかしたの?」
「もふくんが轢かれる直前にうりがもふくんのこと、覆い被さるようにして抱き抱えたんだ。」
「…ぇ、?」
「もふくんは投げ出されて色んなとこ骨折しちゃったし、擦り傷とかだらけだけど生きてる。うりは… 」
うりの名前を出す度、どぬくさんはくしゃっと顔を歪ませる。
幼い子供のように表情がコロコロ変わるどぬくさんは、いつもなら面白くてずっと見ていられるのに。
今は…1秒でも早く目を逸らしたくなるようなそんな顔をしている。
「直に車と接触しちゃって背骨の大事な骨が折れて、俺にはよく分かんないけど…内蔵に損傷があるって…」
「もう治りかけだけど、肺挫傷ってやつにもなってたらしくて。」
「…一度も目が覚めてなくて、これから起きるかも見当が付かないって」
俺が眠っていたのは一週間半。
目が覚めてからもう数週間。
うりは、俺を庇ったせいで1ヶ月程度は目が覚めていない…?
俺があの時、
「俺が転けたりしなければ…俺のせいで、」
「もふくん。」
「んぇ…?」
「誰が悪いとか、今は関係無いよ。おれこそごめん。無理に面会来て、こんな話。」
「…ううん。どぬくさんはなんにも悪くないよ。」
「ありがとう。今はさ、うりが目覚ましてくれるのを待とう?他のメンバーもそう言ってるからさ。だから、…ううん、なんでもないや。」
「…うん。」
慰められても 罪悪感が拭われる なんてこと無くて、グルグルと後悔・懺悔が頭の中を駆け巡っていく。
面会時間が終わってどぬくさんが帰ってしまえば、部屋にはどんよりとした空気が充満していくばかり。
「っ、いったい…」
少し動いただけでも額にじっとりと汗が滲む。
「うり…ごめ、ん…ぅ”」
名を口にした途端涙が溢れる。
決壊したダムのように、どうどうと水が溢れていく。そう、本当に止めどなく。
食い縛ったら怪我した所に電流が走ったような痛みを感じた。
うりに比べたら大したことないのに。
痛みで思わず自分の体を抱いた。でも勿論、苦痛は増していく。
「ッは、ッは…ぅ”あ…」
ナースコールなんて押せるはずもなく、青白い病室に己の歔欷の音色が静かに溶け込んでいってしまった。
そこから先はもう覚えてないや。
episode1 歔欷の音色
【完】
コメント
7件
え、これって「もうなにもありゃしない」ですよね!?あの神作の再編集ってマジですか!?!?😭😭😭ほんと嬉しすぎます✨✨ この作品もちろん前から大好きだったんですけど、登場人物のmfくんとjpさんの関係が本ッッ当辛すぎて少ししか見れなくて…🥲 なので心を鬼にしてこの作品の最後を見届けれるよう頑張ります!
いやああああああ!! 唇に2つ口内炎出来ました Help me!!
いいですねぇ!