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読み終えました。このエピソード、すごく良かったです。 右腕を失ったK-Tが「痛いって言う」というメバルの言葉に初めて「分からない」と答えたシーン、あそこはグッときましたね。今までは全部自分だけで背負ってたけど、少しずつ仲間を隣に置くことを選び始めた……その変化が丁寧に描かれていて。 そして最後に出てきた二十年後の右腕のない男。「俺はお前が選んだ未来だ」って、まさかK-T自身の未来の姿? このXという存在も含めて、謎が一気に深まりました。次が気になる!
K-Tたちは、夜明け前に旧通信施設を出た。
雨は止んでいたが、空はまだ暗い。
右肩の傷からは、一定の間隔で血がにじんでいた。止血はできている。だが、失った腕の痛みは消えなかった。
存在しない右手が、まだそこにあるような感覚。
指を動かせる気がする。
銃を握れる気がする。
盾を構えられる気がする。
しかし、視線を落とせば、そこには何もない。
「少し休んで」
メバルが言った。
「必要ない」
「必要ある」
「移動を優先する」
「今のK-Tは、移動を優先できる状態じゃない」
「歩ける」
「歩けるかどうかを聞いてるんじゃない」
K-Tは返事をしなかった。
彼らは、旧通信施設から少し離れた廃車両基地に身を隠していた。
車両基地には、使われていない整備庫がある。
屋根があり、外から見えにくい。
アオノが確保した装甲車を整備庫の奥へ入れ、ミステーが周囲の通信を遮断している。
ここなら、少なくとも数時間は追跡を避けられる。
だが、長くは持たない。
K-Tのガラケーには、組織の追跡信号が表示されていた。
三つ。
北側。
西側。
そして、地下。
地上だけではない。
組織は、車両基地の地下配管を使って接近している。
「来る」
K-Tが言った。
カキが銃を確認する。
「いつ?」
「五分以内」
「早いな」
「位置を読まれている」
ミステーが端末を見た。
「通信は遮断してる。外部へは出てない」
「それでも分かる」
「どうして?」
K-Tはガラケーの画面を見せた。
画面の隅に、小さな記号が表示されている。
「俺の端末が発信している」
ミステーが顔をしかめた。
#K-T
#CREATIVE BASE
#人狼
K-Takasaka
153
#K-Takasaka
「そんなはずはない。通信機能は切ってある」
「内部に別の送信機がある」
K-Tはガラケーを裏返した。
黒い外装の一部に、わずかな傷がついている。
「事件が始まる前から仕込まれていた」
ミステーが息を呑んだ。
「ずっと監視されてた?」
「そうだ」
「外せる?」
「外せない」
「壊せば?」
K-Tはガラケーを見た。
この端末には、仲間たちの連絡先、記録、暗号、武器制御の一部が入っている。
破壊すれば、追跡は止まる。
同時に、組織の中枢へ侵入するための最後の手段も失う。
「まだ使う」
「本気?」
「必要だ」
カキがため息をついた。
「便利だな、その言葉」
K-Tは返事をしなかった。
メバルが彼の隣に座る。
「右腕の痛み、まだある?」
「ない」
「嘘」
「問題ない」
「それも嘘」
K-Tは視線を逸らさず、正面を見た。
「痛みは情報だ」
「情報?」
「負傷状態を確認するためのものだ」
「痛みを、そんなふうに処理するの?」
「他に方法がない」
メバルは黙った。
しばらくして、彼女はK-Tの左肩へ自分の手を置いた。
「他に方法はあるよ」
K-Tが彼女を見る。
「何だ」
「痛いって言う」
K-Tは沈黙した。
メバルは、困ったように笑った。
「言える?」
「必要ない」
「必要だよ」
「今は任務中だ」
「任務が終わったら?」
「終わってから考える」
「K-Tは、任務が終わったらまた一人でいなくなるでしょ」
K-Tは答えなかった。
それは、否定できなかった。
彼は組織を抜けた後も、仲間たちから離れるつもりだった。
自分が近くにいる限り、組織は彼らを狙う。
だから、証拠を手に入れ、トップを倒したら、また一人になる。
そのほうが安全だ。
そのほうが、仲間を守れる。
「ねえ」
メバルが言う。
「私たちは、K-Tに守られるだけの人間じゃない」
「分かっている」
「なら、どうして何も言わないの?」
「言葉より、行動が必要だ」
「行動だけでは、分からないこともある」
K-Tは答えを探した。
しかし、適切な言葉が出てこない。
右腕を失ったことよりも、メバルに見透かされることのほうが苦しかった。
そのとき、整備庫の奥で金属音がした。
K-Tはすぐに立ち上がった。
「来た」
敵が地下配管から侵入した。
床の鉄板が外れ、武装した兵士が一人、二人と現れる。
K-Tは拳銃を左手に構えた。
カキとマサカゲが両側へ散る。
アオノは車両の陰へ負傷者を移動させた。
ミステーは整備庫の扉を閉める。
敵は銃を撃たなかった。
代わりに、煙幕弾を投げ込む。
白い煙が広がる。
視界が消える。
K-Tはガラケーを開き、熱源探知へ切り替えた。
画面に、敵の位置が表示される。
「左に四人。車両の裏に二人」
カキが撃つ。
銃声が煙の中に響く。
K-Tは盾を構えられない右手がないことを思い出した。
左手だけで銃を持ち、体を低くする。
一人目が現れた。
K-Tは撃たず、銃床で相手の顎を打つ。
二人目が背後から迫る。
K-Tは振り返り、ガラケーのアンテナを警棒として使った。
敵の手首を打ち、銃を落とす。
だが、別の敵がK-Tの左腕へ狙いを定めた。
その銃口の前に、メバルが飛び込んだ。
「下がって!」
K-Tが叫ぶ。
メバルは敵へ向けて発砲した。
弾丸は敵の肩に当たり、男が倒れる。
「私も戦える」
メバルが言った。
K-Tは彼女を見た。
「分かっている」
「なら、命令しないで」
「危険だ」
「それも分かってる!」
メバルは撃ち終えた拳銃を持ち直した。
「危険だから、一緒にいる」
K-Tはわずかに目を伏せた。
煙の中から、さらに敵が現れた。
K-Tは一歩前へ出た。
メバルも並んで進む。
二人の動きが重なった。
K-Tが敵の攻撃を誘い、メバルが側面から撃つ。
カキが背後を守り、マサカゲが退路を確保する。
以前なら、K-Tは全員を後方へ移動させ、自分だけで敵を止めただろう。
しかし今は違う。
彼は敵の位置を伝え、仲間に任せた。
「右、二人」
「了解」
「上、狙撃」
「俺が見る」
「アオノ、車両を動かせ」
「まだ戦闘中だぞ!」
「だからだ」
アオノは装甲車のエンジンをかけた。
轟音が整備庫に響く。
車両が前進し、敵の列へ突っ込む。
兵士たちが左右へ飛び退いた。
その隙に、K-Tたちは敵を押し返した。
五分後。
整備庫には、倒れた兵士たちだけが残った。
K-Tは周囲を見回した。
「全員、無事か」
「カキ、軽傷」
「問題ない」
「マサカゲ、無傷」
「問題ない」
「アオノ、車両損傷」
「走れる」
「ミステー、通信機器が壊れた」
「修理できる」
最後に、メバルを見る。
彼女の左腕から血が流れている。
「メバル」
「かすっただけ」
K-Tは近づいた。
「見せろ」
「K-Tのほうが重傷」
「見せろ」
低い声だった。
メバルは黙って腕を差し出した。
傷は浅い。
K-Tは救急用の布を取り、片手で止血を始めた。
結び目がうまく作れない。
メバルが手を添えた。
「こう」
「分かっている」
「分かってない」
二人で布を結ぶ。
K-Tは左手だけで、いつもより時間をかけて作業した。
「……助かった」
メバルが言う。
K-Tは顔を上げた。
「何が」
「止血」
「必要だからした」
「それでも、ありがとう」
K-Tは返事をしなかった。
少ししてから、低く言った。
「まだ動ける」
メバルは苦笑した。
「それ、感謝への返事?」
「問題ない」
「違う」
「……分かった」
K-Tはそれ以上、何も言わなかった。
ミステーが壊れた端末を持ってきた。
「敵の装備から情報を抜いた」
画面には、車両基地から組織本部までの経路が表示されている。
しかし、本部へ続く正規ルートには、複数の検問がある。
「このまま行けば、また襲撃される」
カキが言った。
「別のルートは?」
「地下輸送路がある」
ミステーが地図を切り替える。
「組織の旧物流網。今は使われていないことになってる」
「使われていない?」
「少なくとも、表向きは」
K-Tは地図を見た。
地下輸送路は、本部の地下にある保管区画へつながっている。
そこには、内部記録の保管庫がある。
冤罪を証明するデータも、組織のトップが行った計画も、すべてそこに保存されている可能性が高い。
「ここから入る」
K-Tが言った。
ミステーが眉をひそめる。
「地下輸送路は、封鎖されている」
「開ける」
「警備がある」
「避ける」
「避けられなければ?」
K-Tは地図から視線を上げた。
「突破する」
アオノが車両の損傷を確認しながら言った。
「装甲車は、地下には入れない」
「徒歩で行く」
「K-T、今の体で?」
「行ける」
メバルが口を挟む。
「私たちが支える」
「不要だ」
「必要だよ」
K-Tは反論しようとした。
しかし、右肩の痛みが強くなった。
存在しない右腕の指先が、ひどく痺れている。
彼は壁に手をついた。
メバルがすぐに支えた。
「休んで」
「休まない」
「五分だけ」
「時間がない」
「五分で死ぬほど遅れるの?」
K-Tは黙った。
メバルは彼を座らせた。
「K-Tが倒れたら、五分どころじゃ済まない」
「……分かった」
K-Tは床に座った。
仲間たちも、短い休息を取る。
整備庫の奥に、雨音が戻ってきた。
誰も話さない。
K-Tは目を閉じなかった。
眠ることは、危険だった。
眠れば、周囲への警戒が落ちる。
だが、五分ほど経ったとき、メバルが言った。
「K-T」
「何だ」
「右腕を失ったとき、何を考えたの?」
K-Tはしばらく答えなかった。
「敵の位置」
「それ以外」
「メバルが無事か」
メバルの表情が固まった。
K-Tは続けた。
「他の負傷者。退路。敵の数」
「自分のことは?」
「後」
「いつも後だね」
「優先順位だ」
「K-Tにとって、自分はいつも最後?」
「必要なら」
「またその言葉」
メバルは視線を落とした。
「私たちがK-Tを守ろうとしたら、邪魔?」
「……分からない」
K-Tは初めて、分からないと答えた。
メバルは何も言わなかった。
K-T自身も、その答えに驚いていた。
「でも」
K-Tは続けた。
「必要なら、頼る」
メバルは顔を上げた。
「本当に?」
「ああ」
「今?」
K-Tは周囲を見た。
カキ、ミステー、マサカゲ、アオノ。
全員がこちらを見ている。
K-Tは、少しだけ視線を落とした。
「……退路を任せる」
カキが笑った。
「やっと言ったな」
「うるさい」
「今、俺たちに頼った?」
「任務の指示だ」
「はいはい」
そのとき、ミステーの壊れた端末が突然点灯した。
画面に、見覚えのない通信が表示される。
《X:観測条件変更》
ミステーが端末を落としかけた。
「またXだ」
「誰?」
メバルが聞く。
「分からない。でも、この記録は組織のシステムより深い階層にある」
K-Tは端末を受け取った。
画面には、短い文章が表示されていた。
《右腕を失ったことで、予測が変化した》
K-Tは目を細める。
《K-Tは単独で行動する》
数秒後、文章が書き換わる。
《訂正。K-Tは仲間に頼る》
さらに別の文章が表示された。
《観測を継続する》
K-Tは端末を閉じた。
「誰かが、俺たちを見ている」
「組織のトップ?」
ミステーが聞く。
「違う」
「どうして分かる?」
「トップなら、観測ではなく命令を書く」
K-Tは端末を見た。
「これは、俺たちがどう動くかを見ている」
メバルが不安そうに言う。
「未来の記録みたい」
「未来?」
「だって、右腕を失った後の判断を、失う前から書いてる」
K-Tは答えなかった。
画面に表示された《X》の文字を、もう一度見た。
その名前が、初めて不気味に思えた。
組織のトップとは別に、誰かがこの事件を記録している。
誰かがK-Tの動きや判断を観察し、その結果を未来のデータとして残している。
そして、その誰かは、K-Tがどうなるかを知っているようだった。
「本部へ行く」
K-Tが言った。
「証拠を取る」
メバルが頷く。
「それから?」
「トップを止める」
「殺すの?」
K-Tはしばらく黙った。
組織のトップは、仲間たちを狙い、冤罪を仕組み、家を破壊し、彼らを何度も殺そうとした。
このまま生かしておけば、また誰かが犠牲になる。
K-Tは、合理的に考えようとした。
敵を排除する必要がある。
それだけでいい。
だが、脳裏に、組織のトップの声が蘇る。
《お前はいつか、守るためにすべてを失う》
「必要なら」
K-Tは答えた。
メバルは彼を見た。
「それ、答えになってない」
「今は決めない」
K-Tは立ち上がった。
「その場で判断する」
地下輸送路の入口は、車両基地の北側にあった。
古い整備用ハッチを開けると、地下へ続く階段が現れる。
階段の下から、冷たい風が吹き上がってくる。
ミステーが端末を確認する。
「地下の通信は、ほとんど死んでる」
「ガラケーが使える」
K-Tは端末を見た。
「ただし、位置は追われる」
「それなら、使わないほうがいい」
「必要な場合だけ使う」
「K-Tらしいな」
カキが言った。
K-Tは先頭に立った。
左手に拳銃。
腰に刀。
反対側にトンファー。
ガラケーは胸元に固定してある。
右肩には簡易の防具が巻かれていた。
完全に失った右腕を補うことはできない。
だが、彼は残った装備を組み直していた。
盾は左腕で持てるように、固定具を改造した。
拳銃も、片手で扱えるように照準を調整した。
失ったものを嘆く時間はない。
使えるものを使う。
K-Tはそれだけを考えていた。
地下輸送路は、長い時間放置されていた。
線路の両側に、古い貨物用の台車が並んでいる。
天井の配管から、時々水が落ちる。
K-Tは歩きながら、壁に残された印を確認した。
組織が使う識別記号。
古いもの。
新しいもの。
誰かが最近、この道を使っている。
「足跡がある」
マサカゲが言った。
「三人以上」
「敵か?」
「分からない」
K-Tはしゃがみ、足跡を見た。
靴底の模様。
組織の標準装備ではない。
「先に誰かいる」
「味方?」
メバルが聞く。
「分からない」
K-Tは立ち上がった。
そのとき、暗闇の奥で小さな光が点いた。
一つ。
二つ。
三つ。
人の目ではない。
監視用の小型機械だった。
ミステーが端末を構える。
「ドローン!」
小型ドローンが飛び出してくる。
K-Tは左手で拳銃を撃った。
一機目が落ちる。
二機目が天井へ上がる。
アオノが投げた鉄片が、ドローンの羽根に当たった。
三機目が後方へ逃げる。
K-Tはガラケーのアンテナを伸ばした。
ドローンの通信へ接続する。
画面に、敵の監視室が映った。
複数のモニター。
その中央に、組織のトップが立っている。
だが、隣のモニターに別の画面があった。
黒い背景。
白い文字。
《観測対象:K-T》
《経過時間:継続》
画面の前には、誰もいない。
K-Tは通信を逆探知した。
位置情報が表示される。
本部の最上階ではない。
地下のさらに奥。
「Xは、ここにいる」
K-Tが言った。
「誰?」
メバルが聞く。
「分からない」
「なら、どうする?」
K-Tは暗闇の奥を見た。
「先に会う」
「トップより?」
「ああ」
「危険じゃない?」
「危険だ」
「それでも?」
「必要なら行く」
メバルはため息をついた。
「もう、その言葉には慣れた」
K-Tたちは、地下輸送路の分岐へ到着した。
右は組織本部の地下保管区画。
左は、身元不明の観測室へつながっている。
K-Tは左の道を見た。
その先に、誰かがいる。
自分の戦い方を知り、判断を記録し、右腕を失った後の変化まで予測している人物。
K-Tは迷わなかった。
「左へ行く」
メバルが驚く。
「証拠は右でしょ?」
「先に確認する」
「K-Tを待っているかもしれない」
「そうだ」
「罠かもしれない」
「分かっている」
K-Tは左の通路へ進んだ。
数十メートル先に、黒い扉がある。
扉には、組織の標章がない。
代わりに、白い線で一文字だけ書かれていた。
X。
K-Tはガラケーを扉へかざした。
ロックが解除される。
扉が開いた。
室内には、誰もいなかった。
中央に、古い端末が一台置かれている。
画面には、K-Tたちの姿が映っていた。
そして、その映像の隣に、別の映像が流れている。
二十年後の街。
瓦礫の中を歩く、黒いスーツの男。
右腕がない。
顔は黒い線とデジタルノイズに覆われている。
男は、画面の中でK-Tと同じように周囲を確認していた。
退路を確認し、危険区域へ進み、誰かを守るために一人で残る。
メバルが息を呑む。
「この人……誰?」
K-Tは答えなかった。
画面の中の男が、ゆっくりこちらを向いた。
顔は見えない。
だが、声だけが室内に流れた。
『お前は、まだ俺を知らない』
K-Tは拳銃を構えた。
「姿を見せろ」
『まだ早い』
「お前は誰だ」
短い沈黙。
その間だけ、声にわずかな揺らぎがあった。
『俺は、お前が選んだ未来だ』
K-Tは画面へ近づいた。
『組織のトップを倒しても、すべては終わらない』
「何を知っている」
『お前が誰を守り、何を失い、どこへ行くのかを知っている』
K-Tの左手が、拳銃を強く握る。
『だが、今のお前にはまだ選択肢がある』
「なら、姿を見せろ」
『それは、お前が決めた後だ』
画面が乱れる。
最後に、黒い文字が表示された。
《組織のトップは、メバルを囮にする》
メバルが息を呑んだ。
「私を?」
その直後、地下全体に警報が鳴り響いた。
右側の保管区画から、複数の足音が近づいてくる。
ミステーが叫んだ。
「本部側から敵!」
K-Tは画面を見た。
未来の男は、もう映っていない。
ただ、最後の一文だけが残されている。
《守るものを、ひとつ選べ》
K-Tは画面を撃ち抜いた。
「全員、右へ」
メバルがK-Tを見る。
「私は囮になる」
「却下」
「でも、私が行けば――」
「全員で行く」
K-Tは一歩前へ出た。
「もう、選ばない」
組織の奥から、兵士たちが現れる。
その背後には、重装備の部隊。
そして、そのさらに奥に、本部へ続く巨大な扉がある。
K-Tは左手でガラケーを握り、拳銃を構えた。
「全員、俺の後ろへ」
メバルが隣に並んだ。
「違う」
K-Tが見る。
「私たちは、K-Tの後ろじゃない」
メバルは銃を構えた。
「隣にいる」
K-Tは一瞬だけ黙った。
それから、低い声で言った。
「……分かった」
巨大な扉が開く。
その向こうに、組織の中枢がある。
そして、その最上階には、K-Tへ冤罪を着せ、仲間を狙い続けた男が待っている。
組織のトップ。
彼は、K-Tの右腕を奪ったことを知っている。
それでも、まだ足りないと思っている。
K-Tから仲間を奪い、選択肢を奪い、守るという意思そのものを壊そうとしている。
K-Tは、血の流れる右肩を一度だけ見た。
痛みは消えていない。
失ったものも戻らない。
それでも、足は止まらなかった。
「行く」
K-Tが言う。
メバルたちが続く。
扉の向こうで、組織のトップの声が響いた。
「待っていたぞ、K-T」
K-Tは暗い階段を見上げた。
その先に、決着がある。
「終わらせる」
「本当にそう思うか?」
「必要なら」
トップが笑う。
「その言葉を、最後まで言えるか試してやる」
K-Tは仲間たちとともに、階段を上っていった。
その背後で、地下の観測室に残された端末が再び起動する。
画面に、黒いスーツの男が映る。
右腕のない男。
顔をノイズに覆われた男。
男は、K-Tが階段を上る様子を見つめていた。
『まだ、終わらせるな』
その声は、誰にも届かなかった。
『俺になる前に』