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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第106話 〚一人のつもりだった帰り道〛
― 澪視点 ―
今日は、
一人で帰ろうと思っていた。
特別な理由はない。
ただ、
静かに歩きたかった。
廊下に出た瞬間、
声がした。
「おー、澪ちゃん」
軽い。
振り向く前から、
誰か分かる。
佐藤陽翔。
チャラそうな笑顔で、
自然に前に立つ。
でも――
距離は、
ちゃんと遠い。
「今から帰り?
俺らもたまたま」
(……たまたま、ね)
そう思ったけど、
口には出さない。
少し遅れて、
田中悠真が来た。
「どうも。
廊下混んでるから、
気をつけて」
本当に、
どこにでもいそうな言い方。
それだけなのに、
安心する。
最後に、
神崎瑠斗。
鏡を見ながら、
当然みたいに言う。
「今日も俺、
イケメンだろ?」
一拍置いて、
続けた。
「……あ、
でもさ」
鏡越しに、
私を見る。
「超イケメン君は
今日も遠くで
見守り中だよ」
その瞬間。
「はいはい」
陽翔が、
いつの間にか
誰かの腕を掴んでいた。
気づいた時には、
目の前に――
海翔。
「……っ」
海翔が、
一瞬で固まる。
耳まで赤い。
(連れてこられた……)
そんな顔。
「任務完了」
陽翔は、
軽く手を振って下がる。
悠真も、
何も言わずに
一歩引く。
瑠斗は、
にやっと笑った。
「いやー、
超イケメン君、
照れると
さらに良いね」
その様子を、
少し離れた場所で
女子たちが見ていた。
えま。
しおり。
みさと。
りあ。
目が合った瞬間、
全員、
同時に笑う。
声は出さない。
でも、
分かる。
(見てたんだ)
気づけば、
周りには
誰もいなかった。
残ったのは、
私と海翔。
「……一人で
帰るつもりだった?」
海翔が、
小さく聞く。
私は、
少し考えてから
首を振った。
「……一緒でいい」
それだけ。
校門を出る。
夕方の風が、
ちょうどいい。
二人で歩く。
静か。
でも、
居心地は悪くない。
少し後ろ。
怜央。
湊。
瑠斗。
悠真。
陽翔。
えま。
しおり。
みさと。
りあ。
全員、
こっそり。
気づかれない距離で、
見ている。
誰も、
近づかない。
誰も、
声をかけない。
私は、
まだ知らない。
この帰り道が、
一人じゃなくなった理由を。
でも――
歩幅が合っていることだけは、
ちゃんと分かっていた。