テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#シリアス
天馬くんが覗き込んできたけれど、僕は無理やり作り笑いを浮かべて
「……な、なんでもないよ!」と答えてしまった。
しかし、中に入った瞬間
外の眩しさが嘘のような静寂と暗闇が僕らを包む。
カチッ、カチッという不気味な時計の音。
足元を這うような冷たい空気。
「うわっ!?なんだよ今の!」
前を歩く加賀くんが、ちょっとした仕掛けに派手な悲鳴をあげる。
その声にさえ、僕の肩はビクンと大きく跳ねた。
怖い、息が詰まる。
角を曲がるたびに、心臓が口から飛び出しそうになる。
もう、限界だった。
気づけば僕は、一番近くにいた天馬くんの制服の袖を、指先が白くなるほどぎゅっと掴んでいた。
「……っ、て、てんまくん……」
「ん?」
「む、むり…っ、こわい……助けて……」
情けないほど声が震える。
すると、前を歩いていた天馬くんの動きが一瞬止まった。
暗くて表情までは見えないけれど、空気が変わったのがわかった。
「……はは」
小さく、吐息のような笑い声。
次の瞬間、僕の震える手を、大きな手のひらが包み込んだ。
「……じゃあ、しっかり掴まってろよ」
「……っ」
指の間に、天馬くんの指が滑り込む。
大きくて、吸い付くようにあたたかい手。
僕を引きずるようにではなく、守るように、彼はゆっくりと前を歩き出した。
さっきまであんなに恐ろしかった暗闇が
その手の温もりだけで、ほんの少しだけ輪郭を和らげたような気がした。
「おいお前ら!なに堂々と手繋いで出てきてんだよ!」
出口の光の中に飛び出した瞬間、待ち構えていた須藤くんのからかうような声が飛んできた。
「こ、これは違っ!?」
僕は弾かれたように手を離す。
掌に残った熱が、急に冷気にさらされて痛い。
加賀くんはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。
「水瀬、中であんなに天馬にくっついてたもんな。見てるこっちが恥ずかしかったわ」
「ち、違……あれは、その……っ」
顔が、耳の先まで燃えるように熱い。
弁明しようと天馬くんを振り返ったけれど、彼は
「くくっ、まさかあんな泣きそうな顔するとは思わなかったな」と、どこ吹く風で笑っている。
その堂々とした態度に
僕はそれ以上強く否定することもできず、ただ俯くしかなかった。
◆◇◆◇
帰り道
須藤くんと加賀くんと駅で別れ、僕と天馬くんは二人、上り電車に揺られていた。
車内は夕方の帰宅客で少し混み合っていて、僕らは壁際の手すりを掴みながら並んで立つ。
「今日、マジで楽しかったな」
天馬くんが窓の外を流れる夕景を見ながら、満足そうに呟く。
「…うん。誘ってくれて、ありがとう」
「いえいえ…っていうか水瀬、絶叫系強すぎだろ。あんなに笑う奴初めて見たわ」
「そ、そうかな……?」
「そのくせ、お化け屋敷弱すぎ。あんなに震えることある?」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!