テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#シリアス
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「〜〜っ!」
追い打ちをかけるような言葉に、昼間の恥ずかしさがぶり返す。
「だ、だって…本当に、怖かったんだもん……」
「俺の服、シワになるくらい掴んでたし」
「……っ!」
からかうように細められた瞳。
その楽しそうな様子に、思わず口を尖らせる。
「……天馬くんって、たまに意地悪だよね。人が困ってるの見て楽しんでる…」
そう言うと、天馬くんの手が伸びてきて、僕の頬を軽く引っ張った。
「だって、水瀬からかうの楽しいし?仕方ないじゃん」
「ひゃ……ひゃ、ひゃめて…っ」
「ふっ……反応おもしろいし、放っておけないっていうか」
「……っ」
悔しい。
子供扱いされているみたいで、情けない。
でも、そう言われることがどこか嬉しくて、結局二人で顔を見合わせて小さく笑ってしまった。
────その時だった。
『次は、⬛︎⬛︎駅、⬛︎⬛︎駅です────』
アナウンスと共に電車が速度を落とし、プシューという音を立ててドアが開く。
どっと流れ込んできた乗客。
その中に、不協和音のような笑い声が混じっていた。
「ギャハハハ!マジでウケるんだけど!」
心臓が、ドクンと嫌な音を立てた。
その声
その、人を小馬鹿にしたような、不快に耳を刺す笑い方。
入ってきた集団の真ん中。
不自然に明るい金髪。
いくつも開けられた耳のピアス、傲慢な歩き方。
間違えるはずがない、忘れるはずがない。
山田だ。
「……っ」
全身の血が、指先からすーっと引いていくのがわかった。
さっきまであたたかかった体が、氷水をぶっかけられたように凍りつく。
「水瀬?どした?急に黙って」
天馬くんが僕の異変に気づき、顔を覗き込んできた。
声が出ない。
酸素がうまく取り込めなくて、視界がチカチカする。
怖い。
もし目が合ったら。
もし、ここで名前を呼ばれたら。
あの人たちが、僕の「今」に踏み込んできたら───
震える唇を、意識の力だけで無理やり動かす。
「……あ、あの…っ、てん、まくん……」
「ん?」
「う、後ろの…今入って、きた……集団……の、真ん中の、人……」
喉が、何かに締め付けられるように熱い。
「前に……話した…すれ違った、僕の、絵……破ってきた相手……で…」
「……マジで?」
天馬くんの顔つきが、一瞬で険しいものに変わった。
彼は僕から視線を外し、斜め後ろにいる山田たちを冷徹な目で見据える。
その間にも、僕は震えが止まらない右腕を、左手で必死に押さえていた。
怖い。
視線を向けられたら、人生のすべてがまた壊れてしまう。
すると天馬くんが、すっと僕の前に一歩踏み出した。
「……わかった。じゃあ、アイツら降りるまで、俺が隠してやるから」
「……っ」
「こっち向いて、隠れてていいよ」
天馬くんは僕を壁際へ追い込むようにして、自分の大きな体で僕を覆い隠した。