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アイマスク
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※暗いし、ある意味救いもない。血とかそういう表現も多々あり。読まれる方によって嫌な気持ちになる人もおられます。その時は速やかにお戻りください。
何もやりたくない。
楽しくて好きなはずのゲームも実況も執筆も脚本も、何もかも。
「……あー、嫌だ」
何も頑張りたくない。
したくない。
みんなが頑張ってるのを見ても、これ以上何を頑張ればいいんだ。
俺はもう充分頑張ってるのに。
上辺だけの”頑張れ”にやる気も生きる気力もなくなっていく。
“大丈夫”という言葉に、何一つ大丈夫じゃないのにぎこちない笑みと曖昧な返事しかできない。
「はぁ…」
やる気が起きないからご飯も最近はまともに食べてない。
必要最低限の栄養は摂ってる。
寝ていても嫌なことが頭をよぎって眠れない。
それでも限界がくれば気絶したかのように床で寝ていたり机に伏せていたりする。
そのせいで痛む体はどうでもいいのだ。
痛みなんてものはすぐになくなる。
感情とは違って。
俺なんてどうでもいい。
誰の目にも止まらないような俺なんてどうなっても誰も気になんて留めない。
実際、俺が心身やった時3人でしていた実況はなんら問題なかった。
寧ろ俺がいない方がいいんじゃないかってくらい。
元々の、本来あるべき姿の日常組にとって俺は異物で邪魔な存在だ。
頑張ろうとすればするだけ、から回って一部のリスナーから要らないと言われて。
アンチは俺だけにいるわけじゃないのは分かってる。
でも他の3人に比べれば俺は異質な存在なんだろう。
「………」
書き途中のシナリオ。
作りかけのマップ。
中途半端に撮ったゲーム実況。
全てが意味のないものに見えて。
お前の頑張りなんて意味ないし笑笑、
と言われてる気がした。
─────────────────
流石に冠さんには最近ちょっと調子が悪いことを伝えると病院に連れて行かれた。
すっげぇ嫌だったのに、無理矢理。
ちょっとどころじゃないです、すごい酷い顔してますよと怒られた。
酷い顔ってそれひどくね?と笑ったらそういう意味じゃないです!!とまた怒られた。
自分の顔が普通で平凡で一般的なのは誰よりも分かってるから、泣きそうな顔してる冠さんを笑わそうとしただけだったのに。
「鬱ですね」
医師にはそう言われた。
まぁだろうなと思ったのが正直な感想だ。
心を休めることが1番大事なことです。
考えすぎて優しい人ほどなりやすいとテンプレートなことをツラツラ言われていたけど半分以上は聞き流していた。
だからなんだというのだ。
俺よりつらい人はたくさんいる。
俺より頑張ってる人はいっぱいいる。
そんな俺が何を心が弱くなる要素があるのだ、と、言われるのがオチだ。
大嫌いな病院に通わなければならない。
飲みたくもない薬も飲まなければならない。
渡された白い紙袋に詰められる処方薬を今すぐ捨てたくなった。
一言も発しない俺に冠さんが声をかけていたような気がしたけど覚えていない。
気付いたら自分の部屋に帰っていてリビングのソファーに突っ伏すように寝ていた。
「……はは、寝れはするんだな」
と、言っても病院から帰ってからの時間を逆算すればたかが30分程しか寝てないようだ。
食欲も睡眠欲もない。
勿論、性欲なんてものも。
三大欲求皆無の俺に生きる意味などあるのか。
いやなくても生きられはするけど。
死にたいわけじゃない。
消えてなくなりたいわけでもない。
でも強烈に自分のいる意味が分からなくて、混乱と絶望と困惑を繰り返している。
「いき、づらい…」
時計を見ればみんなと撮影時間の20分くらい前で、頭では分かっていても体の動きは緩慢だ。
慌てているのに、どうでもいいとさえ思う自分もいる。
ノロノロと立ち上がり実況用の部屋へと向かう足には鉛がついてるかのように重く、沼に沈められていくように億劫な気分になっていた。
『トラゾーが遅刻なんて珍しいな。しにがみじゃあるまいし』
『なんかあった?しにがみくんじゃないのに』
『ちょっと?遅刻常習猫はうるさいですよ。でも、トラゾーさんが遅れるなんて…』
口々に心配される声。
この声を聞くと少しだけ心が落ち着く。
「いや…すみません、ちょっと疲れてうたた寝してたみたいで…」
疲れてるのかどうかも、判断つかないくらい頭は回ってない。
それに今日病院に行ったことは3人には口外しないように冠さんに言いつけている。
最近はみんなも忙しく顔を合わせて会うこともなかったから俺の状態を知られる心配もないし。
させたくもない。
いや、違う。
俺なんかを心配する必要なんてない。
落ち着いた心がざわざわと揺らぐ。
「ホント、ごめん…すみません、」
『大丈夫なんか?』
「、…だ、いじょうぶ」
『頑張れそう?』
「が…がんば、れます…」
『無理しないでくださいね?』
「む、り、しま、せん、よ」
震える声は寝起きのせいだと誤魔化した。
今の俺にとって3人にかけられた優しい言葉は凶器のように心を抉った。
落ち着くと思った声をほんの一瞬でも不快に思ってしまった自分を殺したくなった。
─────────────────
撮影中はそのことだけを考えればいいからいつもの調子でどうにか終えることができた。
お疲れ様と言ってすぐにその場から捌けてトイレに駆け込む。
「ぉ゛えっ…!」
病院で飲まされた苦い薬の味が胃液と共に口の中に広がる。
それに余計吐き気を催し胃液を吐き続ける。
「ゔっ、ぇえ…っ」
誰でもやるような些細なミスを撮影中にしてしまった。
けどそれが重罪を犯したかのように自分の中で重くのしかかり俺は自身を責めた。
それをカバーしようと焦ってしまいそのミスを何回かしてしまった。
ぺいんともクロノアさんもしにがみさんも珍しいと驚いていたけど、俺はそれどころじゃなかった。
第三者じゃ気付けないくらいの俺の焦燥を感じ取った3人はうまくそれを隠しながら俺のフォローをしてくれた。
それが更に俺に重い枷をはめているということは彼らには分からない。
俺だってそう思いたくないのに、そう考えてしまう己を殺したいほど嫌いだ。
そう考えてしまう頭が悪い。
それが客観的にも分かってるのに、悲観も焦燥も止まってくれなかった。
ひとしきり胃液を吐き、立ち上がることができない俺は這いながら洗面台へ向かった。
口内に広がる胃液の苦味が不快で不快でしょうがない。
手をかけどうにか立ち上がり鏡の前に立つ。
「は、ッ…たし、かに、酷い顔、だ…」
自分の顔じゃないくらい、暗く沈んだ表情。
やつれ、血の気の引いたような顔は前の俺の見る影もない。
そりゃ冠さんに言われるわな。
「………」
口をゆすいで鏡の自分を見つめる。
「俺、じゃない…みたい、だ…」
やつれた自分に色々なものが重なる。
かつて自分が演じ殺してきた”人”たちが。
創造主として、演者として消してきた”者”たちが。
「っ、つ…⁈」
その亡霊に囁かれる。
お前は人殺しだ、
お前は何もない空っぽな人間だ、
努力なんて意味のない、
誰も認めやしない、
お前は常にひとりだ、
そんなお前がなんで生きている?
様々な声。
それは自分の声の筈なのに違うモノに聴こえた。
「────────」
叫んだのに声が出なくて。
それなのに、鏡に映る俺はパニックを起こしているのに、
笑っていた。
「………」
周囲は無音だったけど、一切の音が消えた。
鏡に映る俺もぼんやりと暗く霞んでいく。
そうだ。
こんな声なくなってしまえばいい。
喋らなければ人を不快にもさせない。
それに、聞くのも見るのも、ものが機能しなければ嫌なものを感じずに済む。
“ひと”として全く機能してない俺の存在意義が、今、なくなった。
生命活動においての全てを放棄した俺はただの肉塊だ。
「(あぁ、これで、心置きなく消えてなくなれる)」
死にたいわけでも消えたいわけでもないのも本音だ。
でも、生きてる意味を成さなくなった肉塊は要らない。
「…、……」
壁を伝いながら目的の場所へと向かう。
「………」
配置とかは体が覚えているから”それ”はすぐに手にとれた。
「(あった)」
ただ持ち方を間違えて手のひらに激痛がはしり、心臓と同じように拍動でドクドクと脈打っていた。
ぬるつく手に結構深く切ったっぽいか、と他人事のように考える。
鉄臭い匂いに、嗅覚はそのままなのかと思いながら柄を持ち直した。
「(痛覚もなくなればよかったのに、いや、それはダメだ…それじゃあ、償えない)」
痛む手でそれの柄をぎゅっと握り締めて、同じように拍動してるそこにあてがった。
俺が殺してきた”ひと”たちに贖罪するようにして柄を引こうとした瞬間、それを何者かにはたき落とされた。
知ってる匂いに背後から腕を掴まれ、押さえつけられる。
「〜〜〜ー、〜ーーっ!!」
体の動きから何かを叫んでいると思うけど何を言われているか分からず、きょとんと首を傾げた。
暗い視界と残った嗅覚でぺいんとだということは分かる。
それでもぼんやりとした”目”ではなんでこんな必死になっているのかを理解できなかった。
ダラダラと俺の手のひらから流れ続けるモノの止めようとしてるのは多分クロノアさんで、ぺいんとがするように俺を押さえながら電話をしてるのはしにがみさんだ。
「?」
実態があるから、洗面台で聴いたような類じゃない。
俺の手首をぎゅっと握るクロノアさんの顔と思われるところに、その手をくっつける。
「(あったかい…この人は、この人たちはちゃんと”いきてる”んだ)」
俺のそれでクロノアさんの綺麗な顔を汚したことにハッとして手を引っ込めようとした。
けど、強い力で手を掴まれて握り締められる。
傷口を抉るようにして手を握ってくるクロノアさんにどうしてと顔を向けた。
はくはくと口を動かす俺を見て、3人の動きが固まる。
俺の声が出ないからってそんな固まらなくてもいいのに。
なんて思って、またしても首を傾げた俺を背後にいたぺいんとが掻き抱くようにして抱き締めてきた。
微かに震えてるぺいんとに泣いてんのか?とどうしてなのかと肩を竦める。
ぎゅっと掻き抱く力が強まり苦しさを感じて、俺もまだ”生きてる”のかと、そう、希薄に思った。
結果論として、しにがみさんが救急車を呼んだのか俺はそのまま病院へ連れて行かれ、入院させられる羽目になった。
─────────────
うつによって精神をやられてるらしい。
と、いうのも傷のない方の手のひらに指文字を書かれて分かったこと。
当分入院しなければならないこと、その間の活動は自動的に休止になること。
当然俺が休むことはクロノアさんたちの口から告げられた。
俺は全く動画を見ることができないからどんな反響があったか知らないけど。
「(まぁ、俺がおらんでも日常組は成り立つしな)」
それに本当のことを言えば知りたくない。
いなくてもいいと現実を突きつけられそうで。
聞かなくて済むし、見なくて済むし。
不便にはなるけど、こういう時は便利だと小さく笑った。
「(あー…ひまだ)」
右手もしばらく動かせない。
もう少し深かったら一生使い物にならないところになってたらしい。
別によかったのに。
けど暇すぎて、あんなにもやる気をなくしていたゲームも執筆も、今では恋しいと思ってる。
その反転っぷりに失笑と自嘲したが。
「……、…」
左手で喉を押さえ声を出そうとする動作をしたけど、おそらく俺の口からは空気の漏れる音しかしない。
音も聴き取れないから、実際のところどうなのかは分からない。
「(まぁなんでもいいや)」
看護師が開けてくれてるのか外から風が入ってきている。
換気目的なのか俺への配慮による気分転換なのか。
そうだとしたら全開できるようにしてくれてもいいのに、開けることができるのは数センチのみ。
腕一本通るくらいだけ。
「(飛び降りようなんて思ってねぇのにな)」
あの時、あのままいなくならせてくれたらよかったのに。
迷惑はかける。
でもこんなところに”ひとり”閉じ込められてまでは、いたくない。
面会に代わる代わる来る人たちに曖昧な笑みを返しては、早く今日が終わらないかなと考える。
「(人形みたいだ、)」
視力と聴力はゆっくり戻っていくと指文字で説明された。
心のほうはゆっくりと戻していくしかないらしい。
別にこのままでいいんだけどな、何も見ず、何も聞こえず、何も考えずに済むほうが。
こんな生き地獄のような箱庭にいるくらいなら、全てから解放されてしまいたい。
「(あぁ、今日もまた、)」
この、いきぐるしい、はこのなかで、いきなきゃいけない
コメント
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重い… 読んで不快な気持ちになった方すみません…
もう、さいっっこうです!!!!これをイナリさんとかがちゃんと支えてくれてたりするんだろうなぁ
うわあ…読み終わってしばらく言葉が出なかったです。 この回、本当に重かったですね。最初の「何もやりたくない」から始まって、仲間たちの優しい言葉が全部凶器に変わっていく感覚…あの描写、すごく生々しくて胸が締め付けられました。 特に「大丈夫」「頑張れ」が本人を追い詰める皮肉、そして鏡の中の自分が笑ってるラストの構図が印象的でした。声が出せなくなった後の無音の世界、そして「生き地獄のような箱庭」という比喩…トラゾーさんの絶望の深さがひしひしと伝わってくる5話でした。 ぺいんとさんが震えながら抱き締めたシーンがせめてもの救いでしたね…。