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「、は、ぁッ!!はっ、く…そ、っ…!」
月明かりに照らされる中、俺は必死で逃げていた。
「(なんなんだよっ!あの化け物は…!!)」
刃物のように鋭い爪のようなもので切り付けられた腕を押さえながら走っていた。
走りなら負けないのにその化け物のようなものの気配がすぐ後ろまで迫っていた。
《待てぇええ!!》
「ひっ…!!」
夜出歩くなとクロノアさんたちに言いつけられていたのに、その言いつけを破って外に出てしまったバチが当たったんだ。
『トラゾーは稀血だから気をつけなきゃダメだよ』
と、よく分からない単語で言われた。
俺の血は誰とも変わらない赤いし鉄臭さしかない。
けど、クロノアさんが言ってたようにその化け物は俺のことを血眼になって涎を撒き散らしながら稀血ぃ!!と叫びながら追いかけていた。
「(だから稀血ってなんなんだよ…!)」
腕の傷のせいで段々足の速度が遅くなってくる。
もうすぐそこまで迫る気配。
背中に爪を立てられそうなほどの距離まで詰められていた。
「も、ぅ…無理…ッ」
死ぬ。
あの化け物に俺は食い殺されてしまうのだ。
「(こんなことならクロノアさんの言いつけちゃんと守ればよかった…)」
みんなともう会えない。
そう思うと涙が滲んで溢れてきた。
「っ、あ…!」
《捕まえたぞ稀血ぃ!!ははは!!これでおれも上弦に近付けるぞ!!!》
ぞろりと長い舌が蛇のようにのぞく。
「ヒッ…」
血が流れ続ける腕を掴まれ、傷を長い舌で舐められた。
《あぁ…!やっぱり稀血はうまいなぁ…っ!!》
「ゃめ、…誰、か…ッ」
鋭い爪を立てられ顔を顰めた時だった。
「水の呼吸、壱ノ型、水面斬り!!」
少年の声がしたかと目を開いた時には、俺の腕を掴むその化け物の首は斬り落とされ塵のように消えた。
「っ、…⁈」
助かったと気が抜けたことでその場にへたり込んだ俺に駆け寄る市松模様の羽織を着た少年。
月明かりでも分かるほどの赫の瞳。
「大丈夫ですか⁈はっ⁈怪我を…!」
背中に背負われる木箱を下ろしたその少年が俺の腕を掴み止血をしつつ手当をし始めた。
「結構深いな…しのぶさんに手当してもらった方が良さそうだ…」
きゅっと怪我をした方の腕に巻かれるちょっと、いやかなり不格好な包帯。
ガタガタっと少年の背負う木箱が音を立てて木戸が開く。
「むーっ!!」
「禰󠄀豆子…こらっ!!」
薄桃の瞳の瞳孔は細い。
毛先は少年の瞳の色に近い赤胴色をしている。
何より驚いているのは竹筒を咥えていること。
まさかそんな趣味のある少年なのかと、助けてもらってなんだが引いていたら俺のその空気を察したのか慌て始めた少年。
「こ!これはですね!いや、この子は俺の妹の禰󠄀豆子です!俺の名前は竈門炭治郎と言います!鬼殺隊で鬼退治をしています!」
鬼殺隊、
ぺいんとが言ってた政府の裏の組織のようなものだとか、なんとか。
「むーむー!!」
その禰󠄀豆子ちゃんが俺の膝の上できゃっきゃと笑っている。
どことなく人間とは異なる雰囲気。
「っ!!」
「えっと、禰󠄀豆子は鬼なんですが!いやでも悪い鬼じゃなくて!そのですね!」
「炭治郎〜俺のことを置いて行くなよぉぉ!!」
少年…炭治郎くんに泣きながら駆け寄る黄色い派手な髪色の同い年くらいの別の少年。
「お前の鼻利きすぎだってぇ…俺の耳いらんじゃん、か…って!お前ぇ!俺の禰󠄀豆子ちゃんに何してんだぁあ!!」
目をかっ開いた黄色髪の少年が突進して来ようとしたのを炭治郎くんが足を引っ掛けて転かした。
「こら!この人は怪我人なんだぞ!それに禰󠄀豆子は善逸のじゃない!!」
「ひどぃよおぉ!炭治郎は俺の味方じゃないのかよぉ!!」
「俺は禰󠄀豆子の味方だ。あとはこの人の」
「うぐぐっ」
俺を勝手に敵意剥き出しで睨み付ける少年に苦笑いする。
そうしていたら顔を隠していた黒布を禰󠄀豆子ちゃんに取られてしまった。
「あ、ちょっ…」
取り払われた布に血の気が引いて慌てて顔を隠す。
「っっ!み、見な、いで…ッ」
この目を見られたら怖がられる。
引かれる。
でも、一瞬でも見られてしまった。
みんなに言いつけられていたのに。
ガタガタと震えていたら、足音が近付き俺の傍で止まった。
「…禰󠄀豆子」
炭治郎くんの静かな声。
「今すぐそれをその人に返すんだ」
「…むぅ…!」
指の隙間から見た眉を下げて黒布を握り締める禰󠄀豆子ちゃんと静かに怒った顔をしてる炭治郎くん。
「た、炭治郎、そんなに禰󠄀豆子ちゃんのこと怒らなくても…」
「善逸にも聴こえてるだろう、この人が怖がってる音が、悲しい音が。この人が沢山傷付いてきた匂いだ…俺たちがこんな苦しくなるような思いを今、禰󠄀豆子はさせているんだ」
「う…、そうだけど…」
黄色髪…善逸くんから視線を外した炭治郎くんの赫い目は禰󠄀豆子ちゃんを静かに見ている。
「禰󠄀豆子それを俺に渡すんだ。人の心も傷付けちゃダメだ」
「むー…」
「禰󠄀豆子、母さんが悲しむぞ。…な?優しい禰󠄀豆子なら分かるな?」
「むぅ…」
炭治郎くんに促されそっと黒布を渡した禰󠄀豆子ちゃんの頭を彼は優しく撫でた。
「いい子だな。兄ちゃんは嬉しいぞ」
「むぅー!」
撫でられたことが嬉しかった禰󠄀豆子ちゃんは猫のように炭治郎くんの手に頭を押し付けていた。
「すみません。…あの、…」
「ぁ、そうだね。命の恩人に名乗らないなんて失礼極まりなかったね…」
彼なら俺の目を見ても、きっと悪意のある言葉は吐かないと思ってそっと覆い隠していた手を離す。
「ありがとう。炭治郎くんのお陰で死なずに済んだよ、本当にありがとう。俺の名前は、トラゾー。この山奥で友人3人と暮らしてるんだ」
「トラゾー、さん……わぁ綺麗な目ですね!」
綺麗?
俺の目が?
「むぅうー!!」
「うわっ」
禰󠄀豆子ちゃんが俺の顔に近付いて両頬を掴んだ。
「すごい深い緑色だ…優しくて情に深い人の匂いもする」
「に、…匂い…?」
「こいつ鼻が利くんすよ」
俺に近付く善逸くんが炭治郎くんがした応急処置をした腕の包帯を巻き直している。
「俺も、耳がいいんであなたがすごく優しい人って分かるし。…けど、禰󠄀豆子ちゃんは渡さないんだから!!」
「は、はぁ…?」
さっきよりもきつく丁寧に結ばれた包帯にそういえば結構深い傷だと言われていたことを思い出し、自覚したことで頭がふらついてきた。
「ぁ…あ、れ…?」
受け取った布を握り締めたまま炭治郎くんに寄りかかる。
「貧血起こしてんじゃん!早くしのぶさんとこに連れてかなきゃ!!」
「よし任せろ!善逸は禰󠄀豆子を頼む!」
「よっしゃあ!おいで〜禰󠄀豆子ちゃん!!」
禰󠄀豆子ちゃんが入った木箱を背負う善逸くんと、俺を横抱きにした炭治郎くん。
「え、…嘘…っ⁈」
俺の方が背もあるのに。
「呼吸を使えばトラゾーさんくらい簡単に抱き上げられますよ!鍛えてますし!!それにもっとでっかい岩を簡単に押したことありますから!」
制服?のようなものの下。
布の上からでも分かるほど年齢にそぐわないくらい鍛え上げられてる体格に驚く。
あと、後半の方になるにつれて変顔になっていく炭治郎くんに反応に困った。
「炭治郎最初は押せてなかったじゃん。嘘ついてる顔じゃんそれ」
「そ、そんなことないぞ!」
ぐぎぎぎと目線を逸らし歯を食いしばるような表情に嘘の付けない、この子も優しい良い子なんだなと思いながら気を失った。
──────────────
目の覚めた俺は医務室のような場所の寝台に寝かされていた。
善逸くんに蝶屋敷と教えてもらった時にその屋敷の主人が体調を尋ねに来た。
心配そうな顔をした炭治郎くんも来てくれて内心ホッとする。
知り合って短いとはいえ、知らない人といるのは気まずすぎる。
善逸くんは遅れて尋ねて来た。
木箱がなかったから部屋に禰󠄀豆子ちゃん寝かしつけに行ったのかな。
「不死川さん以上の稀血ですねぇ。竈門さんよく耐えましたね」
「俺の禰󠄀豆子は人を襲いません!」
「あらあら、そうでしたねぇ。すみません」
むん!とドヤ顔をする炭治郎くんに小さく吹き出した。
禰󠄀豆子ちゃんのことがよっぽど大事で信頼してて大好きなんだなと。
小柄の女性、でも俺より年下のその人もくすくすと笑っている。
「この屋敷の主人であり鬼殺隊の柱、蟲柱の胡蝶しのぶさんです」
「こんばんわ。駄目ですよ〜?あんな真夜中に出歩いては」
「すみません…」
「聞きましたよ?ご友人にもキツく言われていたのに出歩いたとか」
「俺が全面に悪いです…」
年下に怒られ、縮こまっていく。
笑顔を絶やさないしのぶさんに眉を下げる。
「ごめんなさい…」
「この方のように他の皆さんも素直に謝れたらいいのに。全く頭の硬い人たちばかりで困っちゃいますねぇ〜」
そう言いながら隣の炭治郎くんを青筋を立てながら笑顔で見るしのぶさんに背筋を伸ばす姿に、その鬼殺隊とやらのおおまかなことを教えてもらった俺は上下関係に男女も年齢も関係ねぇんだなとしみじみ思った。
「そういえば伊之助くんはどうしたんですか?」
「多分、いつものように山の中駆け回ってんじゃないですか?あいつ野生児だし」
「善逸…、本当のことでも言っちゃ駄目じゃないか」
「いや炭治郎のほうが酷いこと言ってるよそれ」
「?」
炭治郎くんって、ちょっとクロノアさんみたいに素でそういうの言っちゃうタイプの子だ。
天然?
「全く…伊之助くんは帰って来たらお説教ですね。窓硝子をまた割られましたし…」
「「…伊之助…、」」
「まぁ今はそれは置いておきましょう。はいはい怪我人の傷の具合を見るので邪魔なお二人は出て行って下さーい」
「え、ちょっ…?」
ぐいぐいと2人を押していくしのぶさん。
すごく華奢なのに、簡単に2人を部屋から追い出したのはやはり相当な手練れということなのだろうか。
柱?と呼ばれる位置にいるだけはあるのだろうか。
「さて、トラゾーさん。傷を見せてくれませんか?」
「っ……、はい」
着物の合わせを肌蹴させ、腕に巻かれる包帯を解いていく。
血の滲むそれを手袋をした手で受け取ったしのぶさんが傷口を見つめる。
「……失礼ですがトラゾーさんはご友人と暮らしていると聞きましたがご両親などは…?」
「……化け物…、いえ、今思えば鬼ですね、それに殺されました。その友人たちも同じくで…縁で一緒に暮らしてるんです」
「……それは、心苦しいことを聞きました」
「いえ、大丈夫です。こちらこそ、こんな身分も得体も知れないような人間を助けてくれてありがとうございました」
「…彼らが信じた人ですからね。私はそれを信じてるだけです。それに嘘つきで疑心の強い私から見てもあなたはとても優しくてお人好しな人だと思います。…姉のような」
俺の腕の手当てをする彼女の手は震えていた。
それは悲しいとかそういうのではなく、怒りで。
人の感情に疎い俺から見ても分かるほど。
「駄目ですね…ちゃんと感情を抑えないといけないのに、」
「そんなことないです。それが普通のことだ。悲しいのも苦しいのも怒りたいのも、全部普通のことですよ」
「!!」
濃い藤色がかった目が見開かれる。
「こうやって手当てをしてくれる、ここにいろんな人が訪ねてくるのって貴女がそういう人だからじゃないですか?みんなから好かれてるから、顔を覗きにだけでも来る人もきっといるはずですよ」
「……そう、ですね。心配性な私の仲間が大したこともないのによく来ます」
「ね?」
綺麗に巻かれた包帯を見て笑う。
「やっぱりお人好しな人ですよあなたも」
「よくそれで怒られます」
着物の合わせを直して寝台から降りようとしたら止められた。
「待ってください。まだ貧血よくなってないですよ。医師としてここから出るのは許可できません」
「でも、ただの一般人がここにいるわけには…」
「駄 目 で す」
「ヒェ…」
にっこりと可愛らしく笑ったしのぶさんに何度も頷くしかなかった。
────────────────
かの伊之助くんとやらは明け方くらいに戻って来たようで、しのぶさんと炭治郎くんにこっぴどく怒られていた。
猪の被り物の下から出てきた顔を見た時は驚いたけど。
女の子と間違われそうなほどの美少年が出てきた時は善逸くんに分かる、分かりますよと謎の共感をされた。
伊之助くんは粗雑に見えて案外としっかりしてる。
頭のいい子だなと思った。
考え方が誰よりも達観してる。
禰󠄀豆子ちゃんと駆け回ったりどんぐりを選んでる姿は微笑ましいものではあるけど。
「トラゾーさん。腕の具合はどうですか?」
「しのぶさんがきちんと処置してくれたおかげで痛くないよ。ありがとう」
陽だまりのような存在。
俺にとってのぺいんとみたいな。
「……顔を隠す理由を聞いてもいいですか」
いきなりぶっ込んでくるところもちょっと似てる。
「………うーん、じゃあ炭治郎くんにだけ教えてあげるね。他の人には内緒だよ?」
人差し指を立てて首を傾げながら言った。
「はい、勿論誰にも言いません!俺は口が硬いんで!」
「(元気だなぁ…)…この布で顔、というか目を隠してるんだ」
「目?こんなに綺麗な緑色なのにですか?」
「……俺がいたところでは緑目の子供は忌み子って言われてたんだ。俺のせいで家族も酷い目にあってた。けど、父も母も弟がいたんだけどね、誰も俺のことを責めたりはしなかったよ」
「…ひどい…なんて奴らだ…ッ」
「ふは、俺の為に怒ってくれるの?ありがとう、炭治郎くんは本当に優しい子だね」
血管が浮き出るほど手を握り締める炭治郎くんは怒りに震えていた。
「そんな家族もみんな死んじゃって…ひとりで泣いてたところをぺい……炭治郎くんみたいな友人に救ってもらったんだ。俺と同い年で同じ境遇なのに…大丈夫だって俺のこといつも励ましてくれる強くて優しい奴なんだ」
「その人が大切なんですね」
「うん、そいつも同じように俺の目のこと気味悪がらず綺麗な色って言ってくれて」
布をそっととって目元を撫でる。
「嬉しかった…」
「トラゾーさんのこと、その人も大切なんでしょうね」
「そうだったら嬉しいかな」
布を付け直して立ち上がる。
「俺ちょっとしのぶさんのお手伝いしてくるよ。炭治郎くんはこれからみんなと任務だっけ?」
「はい!近いので早ければ明日の昼頃には帰れそうです」
「昼間は鬼でないもんね。気をつけていってらっしゃい」
赤みがかった黒髪を梳くように頭を撫でる。
昔、弟にしてあげていたように。
「ゎ、わ////」
「?どうかしたの?」
「俺、長男だったんで頭を撫でられること慣れてなくて……恥ずかしいけど嬉しいです!任務これですごく頑張れそうですありがとうございます!!伊之助!善逸!禰󠄀豆子!行くぞ!!」
「えぇ⁈もう⁈まだ早いじゃんかぁ!」
「よっしゃあ!流石は俺様の子分だ!やる気じゃねぇか!!やるぜやるぜぇー!!行くぞーねず公!権八郎!」
「俺の名前は炭治郎だ!」
「むー!むー!!」
こうやって騒いでる姿を見るとただの子供なのに。
闇夜であんな化け物と命を賭けて闘ってるだなんてな。
「お前らは馬鹿なのかよ、しかも禰󠄀豆子ちゃんまでぇ……ここは年上の俺を労って2人で頑張れよ!」
「善逸…」
「紋逸…」
「いやぁあ!やめて⁈2人してそんな冷めた目で見んなよ!禰󠄀豆子ちゃんまでひどいよぉお!!」
およそ4人の中で1番年上とは見えないけど、ふとした瞬間に彼らを見る顔はそれらしい時がある。
「あんまり騒ぐと二度と屋敷に入れませんよ〜?」
「「「しのぶ(さん)!!」」」
「鎹鴉が困ってますから早く行きましょうね⁇」
「「「はいぃ!!」」」
光の如く屋敷の正門の方へ駆け抜けていく3人と木箱に入れられていった禰󠄀豆子ちゃんは嵐のようだった。
「すみません、ウチの隊員がうるさくしちゃいまして」
「いえ、可愛らしくていいと思います。俺には彼らにも貴女たちにも、何もしてあげることができないので…」
藤の花の香り。
鬼が嫌うらしい。
その香りがしのぶさんからは濃いくらい漂う。
「しのぶさん」
「はいなんですか?トラゾーさん」
「あの子たちの為にも、生きててくださいね」
儚げで死に急いでるように見えた。
この人も大切にされている存在なのだと分かって欲しくて。
「……それは、……いえ、心に留めておきます」
困った顔をする表情は年相応だった。
「…ごめんなさい、俺一言多いとか、空気読めないとか言われることあったから……貴女たちの覚悟を甘く見てるわけでも舐めてるわけでもないのに…すみません…」
「……顔を上げてください。私、嬉しいんですよそう言ってくださって」
華奢な白い女の子の手だ。
こんな手に刀を持たせ、死と隣り合わせの場所へ立たせている。
「あと、あなたにそんなこと言った下衆野郎共は私の毒で始末しますのでどこの誰か教えてくれませんか?」
「え⁈いや、だ、大丈夫ですから!もう昔のことですし!」
「じゃあ草の根掻き分けてでも探し出して被検体にさせますね」
「(しにがみさんみたいなこと言ってる!)」
「ぇ、っと、た、タノミマス…」
そう言わないと手を離してくれなさそうだった。
「任せてください!とびっきりの作って試してやりますよ!!」
立ち上がったかと思うと奥の方へと軽やかに小走りで駆けて行ってしまった。
「本当にしそうだ…」
参ったなと思っていたら大きな声をかけられた。
「見ない顔だな!!君は一体誰だ⁈」
「うっひゃぁあ⁈」
突然の大声に驚いて縁側から落ちた。
気配が全くなくて余計に心臓がバクバクしてる。
見上げれば、とんでもなく派手な髪色と何をも見通すような目力の強い瞳に見下ろされていた。
「あ、なたは…?」
めっちゃでかい声に驚いて立てないまま声をかける。
「おっと!すまない!先ずは自分から名乗らねばな!俺は炎柱の煉獄杏寿郎だ!!」
「ぅわ」
音圧すごすぎる。
たじろいでいたら怪我をしてない方の腕を引っ張られて縁側に戻された。
「胡蝶の屋敷に見知らぬ人物がいてつい、…俺も驚いたが敵意などは全くないからただの怪我人を保護してるだけのようだな」
「ぁっ、と…」
「それで?君の名はなんと言うんだ」
「と、トラゾー、です…」
「ふむ!では虎だな!」
「いや虎じゃなくて…」
なんで俺の愛称をわざわざ漢字表記みたいに呼ぶんだ。
話が通じるような通じないような妙な人に絡まれてしまった。
「…あぁ!成程!不死川よりも珍しい稀血の持ち主は君のことか。胡蝶が保護してるという」
稀血というのもしのぶさんから説明を受けた。
けど、どうしてそんなことをクロノアさんたちが知っていたのか。
「しばらくここで養生するといい!ここの食事は美味いからな」
元気だ。
この明るい真っ直ぐなところはこの人の持つもので、きっと隊員に慕われていることだろう。
「ところで虎青年」
「だから……いや、もうなんでもいいです。…なんでしょうか」
「腕の傷が開いてしまっている!すぐに胡蝶のところは連れて行こう。俺の責任だ」
「へ⁈うわっ!!」
炭治郎くんがした時のように横抱きに軽々と持ち上げられた。
おんなじくらいの俺をいとも容易く。
「呼吸とか、そういう…?」
「うん?呼吸のことを知ってるのか?」
「いや炭治郎くんが…」
「竈門少年か!彼はいい隊士だ、俺の継子にしたいくらいだな」
2人で鍛錬してるところが頭に浮かぶ。
「炭治郎くん喜ぶんじゃないですか?煉獄、さん?」
「杏寿郎で構わんぞ」
「杏寿郎、さんのことも教えてくれましたよ。とてもすごい柱の人がいるんです!って。きっと貴方のことでしょうね。話してる時の炭治郎くん、嬉しそうでしたよ」
指標にしたい人がいる、俺なんかじゃ敵わないようなすごい柱の人がいると、会えば一目で分かると思いますと言っていた。
「ふふ、慕われてるんですね」
「そういう君こそ竈門少年らに慕われてると思うが?」
「えぇ?そうだったら嬉しいな」
照れ臭くなって布で顔を隠す。
「うむ。人誑しとはこういう者のことを言うんだろうな!」
「⁇」
因みに杏寿郎さんはしのぶさんにこってりと絞られていた。
柱が柱を怒る図が面白くて笑ったら何故かとばっちり受けてデコピンされた。
めっちゃ痛かった。
────────────────
「トラゾーさん!ただいま戻りました!」
「わっ、早かったね。おかえり、怪我してない?」
突進、とまではいかなかったけど駆け寄ってきた炭治郎くんに洗濯干しの手を止めて向き直る。
しのぶさん曰く善逸くんと伊之助くんは別の任務が入ってそのまま直行したらしい。
「大丈夫です!俺長男なんで丈夫ですしすごい石頭なんで!」
「ふはっ、何それ関係あるの?」
「石頭関係ねぇって、すいませんねこいつ馬鹿なもんで」
「ぇ、誰」
てか、背ぇでか。
俺が見上げるくらいだから190超えてるんじゃ。
「俺は「音柱の宇髄天元さんです」…おい竈門てめぇ俺の台詞取ってんじゃねーぞ?しかも派手に地味な紹介しやがって」
「?派手に地味って矛盾してますよ」
「正論うぜぇえ」
まぁ見た目は確かに派手というか、物理的に痛いというか、眩しい?
「宇髄さん、」
「竈門の言ってた稀血の奴ってこいつか?随分地味な野郎だな…って、いってぇな!柱に何しやがんだお前!!」
よく見れば宇髄さんの足を思いっきり炭治郎くんが踏んでいた。
「トラゾーさんに謝ってください!地味って言ったこと詫びろ!!」
「は?怖っ、なんなの…」
「た、炭治郎くん!俺大丈夫だって!地味なのは本当のことなんだから怒ってないし、悲しく、も、な…」
過去に言われた言葉を思い出して勝手に涙が落ちた。
布のお陰で顔までは見られてないけど。
「………宇髄さん?貴方はいつも蝶屋敷に来ると誰かをいじめて泣かせてばかりですね」
「げっ、胡蝶…!」
「天誅!!」
「ゔぉ⁈危ねぇだろ!あと隊員同士の戦闘は御法度だろうが!お館様に言うぞ!」
「あらあらなんだか五月蝿い虫がいますねぇ。私はそれを退治しようとしてるだけですよ〜?」
「だぁれが虫だ!?あんな地味なもんと一緒にすんじゃねぇよ!!」
急に争い始めた2人をどうしたらいいかも分からないし、涙は止まらないし。
炭治郎くんも困ってるし。
「ど、どうし、よ…」
「水の呼吸、十壱ノ型…凪」
静かな、本当に凪いだ水面のような声に2人の動きが止まった。
「おい富岡、お前地味な攻撃してくんじゃねぇよ」
「隊員同士で争うのは、駄目だ。…そんなことも分からないなら、柱を辞めろ」
「「……(イラァァ」」
青筋立てた2人の横を通り過ぎて俺の方に歩み寄って来たその富岡さんと言う人。
「大丈夫か、炭治郎…と、…⁇」
「トラゾーさんと言います。この前手紙で伝えた」
「!、あぁ、お前が……外にお前の友人…、と名乗る者が来ているぞ。この屋敷に押し入ろうとしていたからな、外の木に吊るしているが…」
「は⁈義勇さんなんてことしてるんですか!」
帰って来ない俺を誰か探しに来たのだろうか。
でも、誰だ。
押し入ろうとするとしたなら、、
「おいてめぇいきなり縛り上げるとかふざけんなや」
聞き慣れた声に顔を上げると高い塀の上にぺいんとが立っていた。
「な、…解けるはずが…」
「あ?あんなんで縛ったって思ってんならもっと確認しといた方がいいぜ?水柱の富岡義勇さん」
とん、と地面に降り立ったぺいんとが困り果てて固まっていた俺に近付く。
「はぁぁ…無事でよかった……トラゾーの血痕見つけた時はもう終わったかと思ったわ…」
ぎゅうぎゅうに抱き締められて、安堵した俺はぺいんとの肩に顔を埋めた。
「うん…ごめん、」
「まさか鬼殺隊の奴らに助けられてたとはな…まぁ、でも本当によかった、お前が死んだって思ったら…」
ずっと一緒にいた片割れを失くすかと思ったとぺいんとが震える声で言った。
「ぺいんと、心配かけてごめん…あと、勝手に外を出歩いてごめんなさい…」
「バッカ。無事ならいいんだよ。クロノアさんも無茶言いつけたって反省してたし」
「ううん、帰ったらちゃんとクロノアさんにもしにがみさんにも謝るよ。土下座もする」
「そこまで求めてねぇって。トラゾーの無事な姿見ただけで2人とも安心すっから、な?」
「ん」
気の抜けた笑みを浮かべた瞬間、布の紐が解けてしまって風に煽られ飛んでいった。
「!!」
がばっとぺいんとが俺を抱きすくめて周りから顔を隠した。
「ぺ、ぺいんと大丈夫だから、ここの人たちは俺に酷いこと言う人たちじゃないから…!」
「違ぇよ。お前の可愛い顔見せたくないだけだし」
「またそれ…?」
「傷付いたトラゾー見たくないのもだけど、俺が他の奴に見せたくねぇの」
「えー…?」
離してくれなさそうだから諦めた。
俺の背中を撫でながらぺいんとが顔を上げる動きをした。
「……ま、あんたらには感謝してるよ。トラゾーのこと助けてくれて」
「うわっ!」
俺を俵抱きしたぺいんとが、しのぶさんに向き直る。
「こいつの怪我治してくれてありがとうございました。ご恩は忘れません。胡蝶さん」
「…いえいえ、医師として当然のことをしたまでです」
俺と同じように固まっていた炭治郎くんに歩み寄ったぺいんとが深々と頭を下げた。
「トラゾーを守ってくれてありがとうございました。お前のお陰で俺はまたこいつと会うことができた」
「そんな!俺は当たり前のことをしただけです。トラゾーさんの大切なご友人に会えて俺こそよかった」
「……お前いい奴だな」
「?」
「トラゾー」
「うん?」
「帰るぞ」
「…うん、」
なんとなく寂しい気もするけど、俺がいるべき場所はここじゃなくてぺいんとたちの傍だ。
「炭治郎くん」
俵抱きの不格好のままだけど彼に声をかける。
「本当にありがとう、炭治郎くんのことは一生忘れないよ。俺の命の恩人のことは、絶対に。しのぶさんも俺の怪我を治してくれてありがとうございました。…もう会うことはないかもしれませんが、自分の体を大切にして欲しい、俺からのささやかなお願いです」
「トラゾーさんのこと俺も忘れません。あなたのことはずっと」
「あらあら、そこまで言われてしまったら決心が揺らぎそうですねぇ……でも、はい大切にします」
「あ!そうだ、炭治郎くん杏寿郎さんにも伝えといてくれる?」
「はい!任せてください!」
「初対面の人にあんな大きな声で声かけちゃ駄目だよって言っといてくれる?」
大真面目なつもりで言ったけど俺とぺいんと以外が吹き出して笑っていた。
「ぎ、義勇、さん、が、ッ、わ、笑って…あはっ…」
「お、れ、は笑って、など、い…いない…ッ」
「わら、笑ってます…みんなにっ、いっ、て、やります、から、ね…っ」
「とみ、お、かッ、堪えれ、て、ッねぇーし…!」
「?」
そんなおかしなことを言っただろうか。
「また無自覚で誑かしてんじゃん…」
杏寿郎さんと同じこと言うぺいんとに帰ったらどう言うことかを聞いてみようと思う。
蝶屋敷で見送られ、最後まで手を振ってくれていた炭治郎くんとしのぶさんに抱えられたまま手を振る俺にぺいんとが出掛ける時は俺を呼べよとぶっきらぼうに言ってきた。
迷惑じゃないかと聞き返したらそんなわけねぇと即答された。
「トラゾー失うくらいなら一緒に出掛けて死ぬ」
「…バッカ、ぺいんとが死ぬくらいなら出掛けるのやめるし」
唯一無二の存在を失うくらいなら俺の我儘なんてちっぽけなものだ。
「…んじゃあ、明るい時な?それならクロノアさんも許してくれるよ」
「うん…ありがとう」
俺にとっての1番の恩人はぺいんとだから。
ずっと、俺にとっての大切な人。
本人には言ってやらないけどな。
コメント
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神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神…私のリクエスト応えてくれてありがとうございます!🙇♀️三三(スライディング土下座)
最初読み始めた瞬間、リアルで奇声あげてゴロゴロして飼い犬に引かれましたね。ちゃんと鬼滅の原作っぽい喋り方だったし、改めてポン酢さんが神だということがわかりました。あとトラゾーさんが稀血っていう設定しっくり来すぎて頭がオーバーヒートしました(?)
トラさん稀血名の解釈一致、多分よくわかってなさそう