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※死ネタ
※転生学パロ
※「少/女/レ/イ」を題材としています
その昔落ちて死んだ生徒が居たらしく立ち入り禁止になっている屋上だが、コツを掴むと簡単に鍵の掛かっている筈の扉は開ける事が出来る。いつもの様に扉を開けて見えるフェンス、青空、太陽の光。フェンスに凭れている、イチ。何処で買って来たのか、それとも購買に売っているのか分からない水色の棒アイスを咥えながら空を見上げていた。その赤い目が向けられる。
「おーい!」
そう言って笑ってひらひらと手を振って、自分を呼ぶ。ぺかぺかした馬鹿な笑顔だといつも思うし、その笑顔に焦がれている自分も馬鹿だと思った。隣に立ってフェンスに凭れると、イチはアイスを向けて。
「いるか?」
「……食いかけだろ。要らない」
「だよなぁ」
断ってから、一口だけでも食ってやれば良かったと後悔した。蝉の鳴き声と、強い日差しと、ぬるい風。それらを感じながらただぼんやりとしていると、イチが言った。
「お前だけだなぁ、そういえば。俺に話しかけて来るの。なんでだ?」
「……なんでだろうな」
「友達だから?」
「……」
「そうだったら嬉しいな」
そう言って、イチは最後の一口を齧って、棒を空に透かした。外れだ、と言う割には、楽しそうだった。
どうやら自分は元々人間では無かったらしい、と、気付いたのはいつだったか。馬鹿らしいとは思うが所謂前世というものが自分にはあって、その前世では自分は人間では無く魔法といういきものだった。世界を滅ぼして回るだけの、なにかだった。その中で自分は、イチという名の人間と出会って、恐らくは、惹かれていった。その末に共に死んだらしい事だけは、覚えている。
そんな前世だったからか、それとも元々の気質か。多分どちらも混ざって碌でもない事になっているのが今の自分だ。魔法など無い世界の、どこかの片田舎で、ごく普通の親から生まれて育って。何処か色褪せた世界のまま育って高校に入って。偶然なのか運命なのか因果なのか、イチと再会した。一目惚れという感覚に近かったが、前世の時点で惹かれていたのだから必然だったのかもしれない。
友人にはなれた。けれどそれだけでは嫌だった。友人という括りには収まりたくなかった。それ以上になりたかった、イチには自分だけなのだと思ってほしかった。ただ、どうすれば良いのか分からなかった。そうして思い付いた方法は、碌でもないもので。そういういきものとして育って来てしまったから、他には何も思い浮かばなかった。
悪評を流して、少しずつ、少しずつ、イチを孤立させていった。田舎であるから、その根拠も無い噂が回るのは随分と早かった。平和な田舎町に、誰かの悪い話は、面白がられる話として広まった。正義を振り翳したかったのかもしれない。無視をされ、机に落描きをされ、頭から水を掛けられ、机に花瓶を立てられて。そうして一人になったイチに、自分は、自分だけは、話しかけていた。いつもの様に、前までと何も変わらない顔で。
イチも、どんなにいじめられようが孤立しようが、毎日変わらない顔で学校に来ていた。休み時間はふらりと何処かに消える様になったくらいで。大抵屋上に居てぼうっと空を見上げているから、自分も同じ様にしていた。
話しかけてくれるのはお前だけだよ、と言いながらも、イチは。己には依存してはくれなかった。お前しかいないとは、言ってはくれなかった。自分が側に居なくとも平気な顔で、毎日笑っていた。
「なぁ」
「なんだ」
「もうすぐ夏休みだな。何か予定とかあるのか?」
「特には」
「じゃあ、何処か遠出でもしよう。電車にでも乗ってさ」
イチはそう言って、約束な、と笑った。太陽の様な向日葵の様な、そんな笑顔だと思いながら、あぁ、とだけ頷いた。
そのイチが、踏切の中で電車に轢かれて死んだと聞いたのは、その日の夜、家で、イチと何処へ行くかを考えていた時だった。
*****
「……──」
田舎は本数が少ない。次に来る電車は20分後だ。スマートフォンを仕舞って空を見る。踏切の中で突っ立っている自分は、端から見たらどう見えるんだろうか。
夏休みに入って、しばらくして。意味が無かったな、とだけ思った。イチは結局自分には依存せず、踏切の事故で死んだ。自ら飛び込んだのか自殺なのかは分からずじまいだが、孤立していた一件がある事から自殺だと言われているし、自分もそうだと思っている。結局追い詰めるしか出来ずに死なせていった。これなら、共に死んだ前の方がずっとマシだった。
だから、やり直そうと思って、ここにいる。
「……」
電車が来るまでは、あと5分になった。ぼんやりと青い空を見上げる。雲一つない真っ青な空だ。風も心地が良い。目を閉じて、ふと、隣を見る。
「……イチ?」
「馬鹿だなあ」
居ない筈のイチが、向かい合って、頬に触れる。死人の手だと思った。冷たくて、体温が無い。
「あんな事しなくたって、俺はお前の事が好きだったし、お前しか居なかったのに。なぁ、反世界・・・」
「……、」
「俺が今回死んだのだって、ただの事故だ。自殺なんかじゃ無い。孤立していたのだって気にしてなかった。どんな状況だって、お前が俺と居てくれたから。俺はそれでよかったよ」
「イチ、」
「……なぁ。いいのか?」
す、とイチが反世界を、正確には、その後ろを指差した。甲高いブレーキ音が聞こえてくる。
「あぁ。良いんだ」
「そっか」
「お前と同じ場所にまたいけるなら、それで」
指を絡ませて、イチの腰を抱き寄せる。触れ合わせた額が冷たい。イチは嬉しそうに笑った、その笑顔は何も変わらない、己を照らして焦がしていく太陽の様なそれで。
ふ、と力が抜ける。イチの姿が消えて、反世界の身体が前につんのめる。
電車の音が、背後から、聞こえて来る。
暗転。