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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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俺は今回起こった一件を最初から順を追ってマリアベルに説明した。


………………

…………

……


「そうだったの……、ダンジョンがねぇ。 日本も大変になっちゃったわね。ところで、この二人はいつまでこっちに居るの?」


「しっかり鍛えて返したいから、あと10日ぐらいかな」


「そう、じゃあ今度は私もついていくからね。いいわよね!」


「ああ、連れていくのはいいけど、問題は起こさないでくれよぉ。人前での魔法は厳禁だからな」


「わ、わかってるわよ! そんなこと。何で問題起こすことが前提なのよ。失礼しちゃうわねぇ」


うん、今度はマリアベルも一緒に行けそうだな。


「んっ、デカ猫 (チャト) はどうした?」


俺がデカ猫のサイズ (120㎝) を手で示しながら尋ねると、マリアベルは天井を指差した。


どうやらガゼボの屋根の上で ”ひなたぼっこ” しているようである。


「どうだお城は、楽しんでいるか?」


シロを撫でながらも、ゆったりとお茶を飲んでいる慶子 (けいこ) に尋ねてみた。


「そうね、とっても素敵よ。何だか自分が物語の主人公になったような気分になるわね」


「そう? でも、住んだら3日で飽きるわよ。おまけに自由は利かないし、こんな暮らしのどこがいいのよ!」


マリアベルが毒を吐いている。


住んでる者にとってはそんなものかもしれないな。


特に転生者であるマリアベルは窮屈に思っただろうな。はじめは。


今ではダンジョン転移もできるもんだから、かなり自由にやってるようだけど……。


そこにメアリーが、


「ゲンパパ、紗月 (さつき) が王都の串焼きが食べてみたいんだって!」


「おお、そうだな。お昼食べたらみんなで繰り出してみるか~」


その後はわいわいガヤガヤとみんなで楽しく過ごすことができた。


城から引き上げる際、


マリアベルに ”雪見だいふく” の他、日本から持ってきたお菓子はすべて根こそぎ没収されてしまった。


まったくもって理不尽極まりないが、こんなニコニコ嬉しそうにしているマリアベルに文句なんて言えるはずもなかった。


彼女もインベントリー持ちだし、俺が欲しいときには出してくれるだろう。






残りの10日間、


ふたりはダンジョンに籠って、ひたすらレベリングに励んでいた。


特に魔法の訓練は楽しそうにやっていたな。


あちら (地球) と違って大気中の魔素が多い分、MPの回復がすこぶる良いのだ。地球で3日掛かっていたものがサーメクスでは1日かからない。紗月なんかは今のMPだと、ファイヤーボールを1回打ち出すのがやっとなのだ。それでもって回復に3日も掛かっていたのでは、まったく訓練にならないのである。


そして本日、


この異世界渡航における集大成ともいえるだろうか、


10階層のフロアボスに二人で挑戦することとなった。


ボス部屋の中はこんな感じだな。


直径150m程のドーム型。下の土も踏み固められており草野球のグランドを思わせる。もちろん照明などはないので、ボス部屋の中は薄暗いのだが見渡せないほどでもない。最奥には体長2m筋骨隆々のゴブリンキングが十文字槍を手に仁王立ちしており、それを取り巻くようにゴブリンライダー10騎が半円状に待機している。


………………


――ゴゴゴゴゴゴゴッ!


高さ5mはあろうかという重厚な鉄扉が左右に開いていく。


まだ開ききってもいない扉の隙間から紗月が中へ猛ダッシュ! 慶子も負けじとすぐ後ろに続いている。


(あれれ! もう行っちゃったよ)


一緒に来ていたシロとメアリーに出口の踊り場で待ってるように伝え、俺は慌てて二人のあとを追った。


「ん~、どこに行った~?」


小走りだった俺がドームの中央付近に達した頃、ようやく二人の後ろ姿を捉えることができた。


意表を突かれたゴブリンライダーたちは動きがワンテンポ遅れてしまい、完全に押し込まれる形となった。


すでに目の前まで迫った二人に、


『えっ、これってどうすんのよ?』という感じで浮足立ってしまっている。


くずれた体制のまま右往左往するばかりのゴブリンライダーは、なすすべなく次々と倒されていった。


(ありゃりゃ、終わっちゃったなぁ)


機動性を活かしてこそのゴブリンライダーである。これでは本来の力など全く出せなかっただろう。


それに紗月と慶子の連携した動きにも目を見張るものがある。


お互いがこれからどう動くのかを把握してないと、あのような立ち回りはできないだろう。


まさに、阿吽の呼吸だな。


そして慶子の大技がまた……。


前に飛んで土木スコップを地面に突き刺したと思ったら、ハンドルを支点にして回りながらの ”かかと落とし” って 。


まるで鉄棒でいう大車輪 (前方車輪) ようだ。


ブラックウルフに跨るゴブリンの頭部に楽々届いているところが凄すぎる。


うひゃ~、あれは喰らいたくないわぁ。


かかと落としは片足だけど、両足揃えてのミサイルキックもありじゃない! 高さも十分だし。


………………


そして最後に残ったゴブリンキング。


頭上で槍をまわす姿が、なんとなく哀れに思えてしまった。


――瞬殺!


いろいろ解説したかったのだが、擦れ違いざまに紗月が一瞬で首を落としてしまった。


そのぐらい圧倒的な強さだったのだ。


彼女らは一人でもクリアできたのではないだろうか?


結構難関だと思えた10階層のボス戦は意外なほどあっさり終わってしまった。


二人は事務的にたんたんと魔石を拾ってさっさと引きあげていく。


大体多くの者がここでガッツポーズをしたり、仲間とハイタッチを交わして感動するところなんだぞ。


……強くなったものだ。


開いた出口では『まだなの~?』て感じでシロが顔をのぞかせていた。






さてさて、今回の異世界レベリングはこんなところで十分だろう。


あとは温泉施設でゆっくり疲れを癒しましょうかね。


今日はマリアベルも呼んでみ~んなで温泉ざんまいだー!


ふぃ――――っ! いい湯だぁ~。


デレクの町にあるいつもの温泉施設なのだが、


変わったところといえば、大人でも楽しめるようにと【温泉スライダー】を作ったところだろうか。


10mの高さから滑り下りるスライダーは迫力満点で、これが王族の皆さんには大好評なのである。


なにせ大型アトラクションのある遊園地なんて、この世界にはないからね。


転移陣付きなので上まで行くのもらくらく。長い階段をせっせとのぼる必要はないのだ。


ただ、心の準備ができないので、いきなり高所に転移して足がすくんで動けなくなる人も中にはいる。


メアリーは素っ裸で紗月の手を引っぱり、さっそく温泉スライダーの方へ行ってしまった。


ほんとあの二人は仲よくなったなぁ。


考えてみれば、


メアリーは長く学校に通っているが、ここに友達を連れてきたことは一度もない。


学校では人気者らしいのだが、なかなか気を許せる友達というのは少ないのかな……。


魔法学校はほとんどが人族とエルフだし、獣人族で能力が高すぎるのも良し悪しなんだよね。


優しくて思いやりがあって、そして天真爛漫で。


――いい子なんだけどなぁ。


できたらこのまま、紗月がメアリーと仲良くしてくれたらいいな。


「はぁ~~~、いいわね~この温泉。これってゲンちゃんが作ったのよねぇ。向うでもこういうの作ってよ」


いつのまにか露天風呂に入ってきていた慶子がそんなことをいう。


「こういうのって言っても、そんな土地どこにあるんだよ?」


御年70歳の慶子さんであるが、なかなかのお色気である。


この前の ”リカバリー” で肌や筋肉を再構築したのも大きいが、


レベルアップによる効果というか恩恵が出ているのか、さらに若々しくなっているのだ。


これはアレだな。


慶子の年齢がバレないようにしないと、間違いなくあの方々につきまとわれるよなぁ。


(あの方々 = おばば様&王妃様)






「ねーねー、あっちに私たちの住むところはちゃんとあるんでしょーね」


マリアベルである。


後ろから声をかけられた俺は、当然そちらを振りかえる。


するとマリアベルが片足をあげて、ちょうど湯舟に入ろうとしているところだった。


「キャッ! なんでこっち見るのよ。あっち向いてなさいよー。 エッチ!」


あ~~~、へいへい失礼しやした!


なに言ってやがる、お毛けも生えてないガキのくせして……、


――!?


2度見してしまった。


見えてしまったのだ。金髪の産毛のようなものが……。


「キャッ! だから見るなぁ~!」


今度はかわいいおしりを拝ませてくれた。


う~ん、眼福眼福♪


「ゲンちゃん。何おしりを見て拝んでるの? そういうのやめなさいよ恥ずかしい!」


慶子様のジト目でごぜえやす。久々にくらいましたわw


「そうそう、もっと言ってやってよ! ほんとスケベなんだからぁ」


双方からのジト目攻撃に晒されますたw


「でも、ゲンちゃんの婚約者がこちらにいるお二方 (ふたかた) で何となく安心したわ~」


「何でだよ!」


俺がツッコミを入れると、


「だってほら、肩こらないでしょう。素敵な方たちだと思うわよぉ」


「…………」


まっ、そうなんだけどね。


俺にはもったいないぐらいの娘 (こ) たちだよ! まったく。






「う~ん、住むところといってもなぁ。俺も居候の身だし……。どうすっかな~」


「何いってるのよ、ダンジョンが近くなんでしょ? ダンジョン・リビングが使えるじゃない。それで都合が悪いならカイルのように地下シェルターを作りなさいよね」


「あっ、なるほど! それもそうだよな。帰ったらやってみるよ」


「でしょう。確りしなさいよね未来の旦那さま!」


「お、おう」


「あらあら、なんか焼けちゃうわね~」


有閑マダムさんが何かおっしゃってます。


残念なことですが胸はないんですよね~。


まあ、あったとしてもシナシナでしょうが……。


「ゲンちゃん! 今すごく失礼なこと考えてな~い」


ちっ! 勘の良いやつめ。


それはいいのだが。


「なあマリア、あれはどーすんだ?」


子供用のカメ (滑り台) の上で、ふんぞり返っているデカ猫を指さした。


「連れて行くに決まってるじゃない!」


ああ、さいですか。


あのデカ猫はシロのように小さくなれるのだろうか?


さすがに、あれを入る ”移動用ケージ” は近くのペットショップには置いてないよな。


うわさに聞く、【猫バッグ】のように背中にへばりつかせとくとか?


――ブフゥ。


面白いけど、やっぱダメだよなぁ。

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