side 佐野
『ちょっと距離おこう』仁人にそう言われて俺は頷くしかなかった。
最近の俺は口を開けば仁人仁人仁人でX、インスタ、キラリ、雑誌どこでも仁人の話をしてしまって仁人に咎められても、まぁ、しかたないと思うくらいに気持ちが溢れ出していたから。
けど、今になって頷いたことをすっげぇ後悔してる。
「なに?お前ら付き合ってんの?」
仁人の話を聞きながらそう茶茶を入れることしか出来なくて、『あなたと付き合ってますけど?』なんて絶対仁人が言わないセリフを淡く期待して、言うわけねぇのに。
「ほんと、あなたねぇ…」
FC動画を撮り終わった後に呆れたような仁人の声がかかる。
「んだよ」
「俺言ったよね?距離おこうって」
言われたけど俺悪くねぇもん。
「囲み取材の時といい、MCといい」
「MCは柔太朗のせいだろ」
「柔太朗のせいにすんな。お前の席なんてねぇから」
「…用意しろや」
2回も言うな。距離をおこうと言われたうえにそこまで言われたら俺でも傷つくぞ。
「しませんし、言わせてもらえば佐野さんもつけてませんよね?ゴールドの指輪買ったかなんか知りませんけど?俺にはつけろって言うくせして自分は新しい指輪買いましたって」
「なに?仁人、んなこと気にしてんの」
そっぽを向く仁人の顔を覗き込めば不機嫌そうな顔。
「誰も、一言も、そんなこと言ってないじゃん!それに、俺たち先ほど別れましたし」
MC中に言ったことを持ち出してきてまでぷんすかと怒り続ける仁人。
「今からでもやり直せるだろ?」
「……お前、ほんと最悪」
やり直そうと提案しただけなのに、さらに怒りながらどっかに行ってしまう仁人に首をかしげる。
「佐野さん、まぁた吉田さん怒らせたん?」
「仁ちゃん、あー見えて乙女さんだからね」
打ち合わせが終わった太智と柔太朗がひょっこりとどこからともなく現れる。
「仁人がMCん時の別れる発言引っ張り出してきたから、やり直そうって言っただけだぜ?」
「あーぁ~…佐野さんさー」
「ね、仁ちゃんのこと1番わかってるふりして1番わかってないね」
「ほんまに!10年一緒におってこれって、一生わかりあえんて!この2人!」
太智と柔太朗が呆れ気味にわけわからんことを言ってくる。
「んだよ。お前らならなんで仁人が怒ったかわかるっての?」
「逆になんでわからないのよ」
「ほんま、うちのエース様がこんなんで大丈夫かいな」
「なんだよ。早く言えよ」
「仁ちゃんはね____」
side 吉田
自分から言ったくせに勇斗の発言に勝手に悲しんで、勝手に怒って、勝手に凹んで、俺って……めんどくさっ!!
「仁ちゃん、まーた勇ちゃんと喧嘩したん?」
俺が凹んでいるとどこからともなく現れて傍に来てくれる舜太は今日も健在で。
「喧嘩…じゃないと…思う」
「ふーん。そなんや。でも、仁ちゃんは悲しくって凹んどるんや」
自分勝手な理由でな。
自分の不甲斐なさに辛くなってくる。
「なぁなぁ仁ちゃん」
俺よりも10㎝背の高い舜太を見上げる。
「俺やったら、仁ちゃんに悲しい思いも、辛い思いもさせへんで?」
かもな。
「だからさ、仁ちゃん。俺と付きおうてな」
「……考えとく」
「ほんまに?!え、嘘!じゃ、約束!」
嬉しそうに小指を出してくる舜太に本当に握り返していいものかと思案していると。
「俺と仁人次だから」
舜太の後ろから現れた勇斗に手を引かれる。舜太が何か叫んでいるがそれはもはやもう俺には届かなくて。
どこまで聞かれていたのかと不安で鼓動が早鐘を打つ。
「別れてねぇから」
「へ?」
前を向いて手を引いたまま勇斗が話し出すがよく聞こえず聞き返せば、振り返り俺に目線を合わせて再度口を開く。
「別れてねぇから、やり直すとかじゃねぇよな」
side 佐野
『仁ちゃんはね、全部冗談で言ったつもりだったのよ』
『別れるって言ったんとかがさ』
『そ、なのに、勇ちゃんのがその言葉本気にして別れたうえでやり直そうって言われたのが不服だったんだよ。きっとね』
『ほんま、吉田さんってめんどくさい』
正直、柔太朗と太智に言われてもあんま理解できてなかったけど、仁人の顔見てやっと理解できた。
ほんと、めんどくさい奴だわ。こいつ。
俺と仁人って結構真反対で、理解しあえないことばっかりでたぶんめっちゃ喧嘩するし、甘い言葉が似合う俺らじゃないから仁人を幸せにできる自信はあんまねぇけど、こんなめんどくさいこいつを愛せることだけは自信を持って言える。
だから、怒らせたり悲しませたり凹ませたりすると思うけどさ、俺から離れんな。離す気もさらさらねぇからさ。
side 舜太
やっぱり、勇ちゃんには敵わんのかな?
勇ちゃんよりも仁ちゃんのこと大事にできると思うのに、仁ちゃんをずっと見てきたからわかるよ。
仁ちゃんにとって勇ちゃんがどれだけ特別かって。
でもね、俺にとっても同じくらい仁ちゃんが特別なんよ。
勝ち目なんてないかもしれんけど、それだけは忘れんでな。仁ちゃん。
END