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最高級の宿で思わぬ一夜を過ごしてしまったアイゼレイル人のルイルイ。

むくりと体を起こし、ふさふさの触角をフリフリして整えると、ベッドから足を下ろす。薄地だが所々に毛皮ファーでつくった玉が付いたパジャマ姿で伸びをする。その背後には、大きな丸い尻尾がクッションのように横たわっていた。

日常であれば1人での目覚めとなる所だが、今は旅行中。宿の広い部屋には他にも寝ている人がいる。


「……店長、てんちょーう」


フラウリージェの店長ノエラ。

実は寝相が悪く、ただでさえ大胆なネグリジェが、かなり激しい事になっている。そんな姿を見たルイルイは、少しの間硬直したが、早めに起きてもらう為に小声で声をかけた。


「起きてくださいよー」

「んん~……あと2刻……」

「長っ!? いやいや起きないと……めくれ過ぎですよ」


寝返りを打って、ノエラはさらにとんでもない恰好になってしまった。育ちが良すぎる分、描写的にかなり危険である。

この後も出来るだけ静かに起こそうと四苦八苦するルイルイだったが、なかなか起きない様子。


「う~。先に起きないといけないって言ったのは店長なのにー……」

「うー…うぅ~……」

「……王妃様に絡まれて色々誤魔化すのにちょっと飲みすぎたのかな」


昨晩は王妃が仲良くしようと、ネフテリアも巻き込んで何度も何度も絡んでいたのである。権力に敏感なファナリア人のノエラにとって、地獄とも言えるひと時であった。

今はまだ宿泊客が誰も起きていないような早朝。昼頃から商談の予定のあるこの日に、何故こんな朝早くに起きようよしていたのかというと……


「ネフテリア様が起きちゃいますよー。早く起きてくださーい」


そう、権力に弱いという事は、目上の存在に気を遣うという事。朝は先に起きて身だしなみを整えて迎えなければいけないという、腰の低い庶民としての意識によるものだった。

しかも、その目上の存在であるネフテリアが、なんと同室で寝ているのである。王女自信は気にする事は無くても、ノエラにとっては命に関わる一大事なのだ。しかしそのノエラが全く起きない。


「困りました……」

「そうですね、むふふ……」

「ひゃっ!? あのあの、これはその」


そんな面白い事態を、ネフテリアが逃すわけがない。ちゃっかりルイルイの声で目が覚めたネフテリアは、どうやって起こしたら面白いかを考え始める。

その結果、


「おぉ……こんな柔らかいクッションは反則だわ~。ノエラさんの旦那さんになる人が羨ましいわ~」


ネフテリアは2つのに埋まってしまった。

そうなると、直接触れ合っているノエラが起きないわけが無い。寝苦しさを感じ、ついに目を覚ました。


「うぅぅ~……なぁんですのぉ~?」

「あ、おはよーございまーす」

「はぁい………………………………………………ふぇ?」


かなり長い間ネフテリアと見つめ合ったノエラは、現状をなんとか把握し、そして変な声を口から漏らした。


「にぇにぇっ…ねねねふっ」

「はーい、わたくしでーす。もみもみ♪」

「ひあああああ!?」


しばらくの間、部屋の中には色っぽい悲鳴が響き渡っていた。




「なるほど……これは素晴らしい水着ですな」

「でしょう? 色違いを含めても、まだまだ種類はありましてよ」


その日の昼。ノエラとルイルイは商談へと赴き、新作の水着を売り込んでいた。

先方の店のオーナーとはすっかり砕けた感じで話せるように落ち着き、水着を置き、服の下に着ていた水着でアピールし、女性店員も巻き込んでファッションショーになっている。


(ふぅ、これならば余裕で取引先となってくれそうですわね)


ノエラはその商談に、確かな手ごたえを感じていた。水着を見せただけでこの反応。アリエッタのデザインの力を改めて実感し、そして感謝した。部屋にいるほとんどの女性が、フラウリージェの新作水着を嬉しそうに試着している。

しかしそれだけでは終わらなかった。


「皆様、お楽しみの所申し訳ございませんが……」

「はい? そういえばそちらの方は……?」

「!?」(いけない! まだに本命が残っていましたわ!)


商談に割り込んだのは、派手な色のシャツとサングラスと帽子でファンキーに身を隠した2人の女性。もちろんネフテリアとフレアである。

昨日のうちに同行を決めていたネフテリアは、一旦正体が分からないように変装し、ノエラが助けを求めた時に前に出るという方針でいた。いや、そういう方針で行きたいと懇願されていた。

しかし新作水着への食いつきがあまりにも強すぎた為、出番が無いまま商談が進んでいたので、暇だったのだ。

同じく面白半分でついてきたフレアだが、こちらは最初から引っ掻き回すつもりでしか無く、一番盛り上がった所で正体を現そうと考えていたのである。

そういうわけで、魔法で室内を暗くし、自分達だけ明かりで照らし、名乗りを上げた。


「エインデル王国王女、ネフテリア・エインデル・エルトナイト!」

「同じくエインデル王国女王、フレア・エインデル・エルトナイト!」

『新作水着のモデルとしてやってまいりました!』


そして瞬時に服を脱ぎ捨て、着ていた水着姿をさらけ出し、ポーズを決めた。

あまりの人物、あまりの出来事に、室内にいた人々は驚くことも出来ずに凍り付き、ノエラとルイルイがへたり込んでしまった。


「……あ、あれ? スベったかな?」

「違いますよ、お二方の登場に驚いて声が出ないだけです」


スベったと思ったネフテリアをフォローするのは、影の中のオスルェンシス。


「あ、よかったー。ちゃんと驚てくれてるのね」

「あ、よかったー♪じゃないですよ! せっかく上手く進んでいたのに、何やってるんですか!」


最初に我に返ったルイルイが、ネフテリアとフレアに詰め寄った。

ギャーギャー騒ぐルイルイと、笑顔で対応するフレアの姿を見て、室内にいる他の人々は、固まったままのポーズでガタガタ震えている。もちろんノエラも一緒である。

そう、この店はファナリア人の店なのだ。権力の頂点である王族に喚き散らす姿を見てしまうのは、かなり精神によろしくない。


「それじゃあこの場を丸く収めればいいのね?」

「まぁ今となってはそれが一番ですけど……どうするんですか?」


顔を見せてしまったものは仕方がない…と、今度は事態の収束を試みる事となった。原因となった王族に任せるのは不安だったが、2人がここから去りでもしない限り、ルイルイが出来る事はほとんど無い。

とりあえずノエラと先方のオーナーを椅子に座らせ、そこにフレアが立ち会う形となった。


「すみませんね、えっと…セレジュさんでしたね」

「ははははいっ! おおお王妃様におかれましてはごききげんうるるわしゅううう!」

「いえいえ、今は畏まらなくて大丈夫ですよ。わたくしも遊びに来ているだけですし、それに──」


彼の名前はセレジュ。エインデルブルグにある大手服飾店『クラウンスター』のオーナーである。恰幅の良い中年男性で、服飾に人生を捧げている人物。

個人服飾店の店長であるノエラにとって、雲の上の人物であり、尊敬する人物でもある。

そんな男だが、やはり王妃には頭が上がらない。しかもフレアは新作水着を着ている。熟した大人の色気たっぷりのハイレグワンピース姿は、さらに年上であるセレジュのハートに見事直撃した。

まるで初恋時の少年のように顔を赤くし、フレアの話を聞いて頷くだけになっている。


「──というわけで、もし水着が素晴らしいとお思いでしたら、に協力してもらえませんか?」


フレアが提示した提案は、元々ノエラが考えていたもので、フラウリージェからは図面と技術の提供を、クラウンスターはそれを共同制作し、2つの店舗の合作として名前を並べるという計画だった。フラウリージェ自体は小さな店舗なので、ファナリアに名を轟かせる大きな一歩としてこの商談に挑んだのだった。


「…………話は分かりました。この水着の魅力は我が身で存分に味わいました。そしてこの図面。フラウリージェは、エインデルブルグのトップに君臨するにふさわしい服飾店である事は、認めざるを得ません」

「ええ、そうでしょう?」

「ノエラ店長、これからよろしくお願いいたします」

「は、はいっ! こちらこそよろしくお願いいたしますわ!」


ノエラとセレジュが握手し、王妃の見守る前で協力関係を結ぶ事に成功したのだった。

結局権力者が暴走して最終的に丸く収まった……かに見えたのだが、


「それでは我々クラウンスターは、本日をもちまして王女直属であるフラウリージェのに入ります。ノエラ店長、後日私を含めた数名でニーニルに伺いますので、よろしくお願いします」

『よろしくお願いします!』


セレジュに合わせて、後ろの店員達が頭を下げた。

なんとフラウリージェの方が立場が上になってしまったのだ。世の中予定通りに上手くいかないものである。


「………………はい?」


昨日に引き続き、いきなり権力が増えてしまったノエラは、目を点にして固まるのだった。

からふるシーカーズ

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