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芙月みひろ
92
#王子
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どうして、一体どうしてこうなったんだ……?
11月上旬。寒い。いや、普通にめっちゃ寒いぞ! さっきまで白石さんの体温を感じていたはずなのに、僕はいま、パンツ一枚という「初期装備」以下の姿で、北風吹き荒れるベランダで凍えていた。
時刻は土曜の朝9時。世間は穏やかな週末の始まりだ。けれど、駒場東大前の閑静な住宅街にあるこのマンションのベランダは、僕にとっての「極寒の処刑場」と化していた。近くには保育園がある。
もし、散歩中の園児に「あ、不審者のおじさんがいるー!」なんて指をさされ、通報でもされたら……。 僕の社会的キャリアは、再起動不能のまま永久に抹殺されるだろう。
時間は、わずか15分前にさかのぼる。
昨日も白石さんに心ゆくまで「完食」され、さらには、あの厳格な専務(お義父さん)の目を盗んだ「極秘同棲ミッション」への強制参加を無理やり約束させられた僕は、心地よい疲労感の中で眠りについていた。
僕は白石さんの細い肩を抱き寄せ、彼女の柔らかい髪の匂いに包まれながら、幸せな微睡みの中にいたのだった。
けれど。
「ドォォォン!!」
地震か、あるいは爆発か。 玄関ドアを拳で叩く凄まじい衝撃音と、「ピンポーン!」という連打音に、僕たちは跳ねるように飛び起きた。
「……ひより、開けろ。『特製・鶏胸肉ハンバーグ』のデリバリーだ!」
ドア越しとは思えない、大声。白石さんが青ざめた顔でモニターを確認し、悲鳴に近い声を上げた。
「お兄ちゃん……っ!?」
そこからは、まさに修羅場だった。白石さんは光の速さで僕の靴を靴箱の奥へ突っ込み、乱れたベッドの上に巨大なクマのぬいぐるみを配置して「一人暮らし感」を演出する。
「陽一さん、ちょっとベランダで『置物』のふりをしていてください! 結婚前なのに同棲してるのバレたら、お父さんに殺される……いや、お兄ちゃんにプロテインの原料にされちゃうかも!」
「ちょ、白石さ……っ、寒ッ!!」
カチリ。 無慈悲な施錠の音が響く。こうして僕は、11月の寒空の下へと放り出されたわけである。