「咲結、あなた昨日はお友達と遊んでそのままお家に泊まるかもって……」
「友達っていうのは、男の事だったのか?」
「ち、違うの! これは……」
言い訳しようにもどう言い訳すれば良いのか考えながら咲結が口を開き掛けると、それを見ていた朔太郎が車から降りて、三人の元へ歩いて行き、
「初めまして、咲結さんとお付き合いさせていただいてる海堂 朔太郎と申します。こんな形で挨拶する事になってしまってすみません。昨日は俺の体調が優れない事を心配した咲結さんが介抱してくれて、気付いたら夜になってて……俺としても、遅い時間に一人で帰す訳にもいかなかったので居てもらいました。本来ならばきちんと家に帰さなくてはいけない立場にあったのに、本当にすみませんでした!」
本当の事は話せないものの、自宅に泊まらせた事は事実なので、咲結が泊まる事になった経緯を全て自分の所為という理由を作り、彼女の両親の前で深々と頭を下げた。
「さっくん……」
朔太郎の行動に呆気に取られた咲結は、これ以上彼氏の存在を隠せないと分かるとすぐに、
「お父さん、お母さん、友達と遊ぶって嘘ついててごめんなさい! 本当は彼と一緒に居たくて、私が嘘をついてただけなの。さっくんはきちんと帰そうとしてくれたの。だけど……心配で、帰れなくて……。だから、さっくんは悪くないの! 私が勝手にした事だから!」
朔太郎の話に矛盾が生じないよう、更に詳しく説明をしながら理解を得ようと試みた。
それを聞いた両親はどこか納得のいっていない表情のままではあるものの、
「……その、外では近所の迷惑になるから、ひとまず上がりなさい。二人にはまだ聞きたい事があるから」
玄関先で話を続けるのは近所迷惑になると言って、父親の方が先に家に入って行く。
残された母親は、
「咲結、彼を案内してあげなさい」
咲結に朔太郎を案内するように言うと、父親同様家の中へ入って行った。
「……ごめんね、さっくん……こんな事になっちゃって……」
「いや、良いよ。とりあえず話をしよう。三葉、悪いけど先帰って。帰りは何とかするから」
「分かりました、それでは失礼します」
そして、三葉を帰らせた朔太郎は咲結と共に彼女の家の中へ足を踏み入れた。
「単刀直入に聞くが、二人はどういう経緯で知り合ったんだ?」
リビングに通された朔太郎が咲結と共に彼女の父親の向かい側のソファーに腰を降ろすと、間髪入れずに二人の出逢いの経緯を問い掛けられた。
その質問に答えたのは咲結の方。
「私が繁華街で男の人に絡まれていた時に助けてくれたの! みんな、見て見ぬ振りだった中で、さっくんだけが助けてくれたんだよ」
そんな咲結の話を聞いた父親は、
「そうか。海堂くん、娘を助けてくれてありがとう」
娘である咲結を助けてくれた事に感謝の言葉を口にする。
「いえ、そんな! 感謝される為にした事じゃ無いですから」
まさか感謝されるとは思っていなかった朔太郎は戸惑い気味に恐縮した。
「助けてもらって、咲結の方から一目惚れしちゃったのかしら?」
キッチンでコーヒーを淹れていた咲結の母親が人数分のカップをトレーに乗せてやって来ると、それぞれの前にカップを差し出した後で父親の隣に腰を下ろしながら咲結に向かってそう尋ねた。
「そうなの! だって、さっくんは私よりも大人だし、格好良いし、強くて優しくて子供にも優しくて、凄く素敵な人だなって思ったの! 私ね、こんな風に思ったの初めてで、七歳も差はあるけど……私の方から、さっくんに言い寄ったの!」
母親の問い掛けに答える咲結を母親は勿論父親も娘の思いを静かに聞いていく。
咲結は少しでも朔太郎の良さを両親に理解してもらおうと必死に言葉を選びながら、彼がどんな人柄で誠実な人なのかという事を説明したけれど、
「……海堂くんが悪い人では無い事は、咲結の話を聞いてよく分かった。しかし、君は成人した大人で、咲結は高校生。二人は歳も離れている。それに、見た目で判断するのは悪いと思うのだが、その髪色にピアス……、正直、娘を任せるに相応しい相手……とは思えないんだよ……すまないね」
朔太郎の人柄よりも今目の前で見ている彼の風貌から、高校生の娘の相手に相応しいとは思えないようで父親は難色を示してしまった。
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