「お父さん! さっくんを悪く言わないで! 確かに、見た目は派手かもしれないけど、さっくんは本当に良い人なんだよ……」
朔太郎の良さを分かってもらえなかった事に胸を痛めた咲結は泣きそうな顔で父親に訴え掛ける。
そんな咲結に朔太郎は、「咲結、俺は大丈夫だから」と声を掛けて落ち着かせると立ち上がって両親の方へ向き直り、
「確かに俺は見た目こんなで、素性も知れないから、ご両親からしたら話を聞いただけでは信用出来ないかもしれないですし、俺みたいなのが大切な娘さんの交際相手なんて尚更納得出来ないかもしれません。ただ、俺たちは中途半端な気持ちで交際している訳じゃないです。咲結さんが俺を好きでいてくれる以上に、俺も咲結さんのことを大切に想っています。この髪色やピアスが気に入らないって言うなら、止める覚悟でもいます。今回、嘘をつかせて外泊をさせてしまった事は本当に申し訳無かったです。これからはそんな事が無いよう、必ず決められた時間までに自宅へ送り届けます。だから、俺たちの交際を認めて貰いたいです、お願いします!」
思いを口にした後で、深々と頭を下げて交際を許して欲しいと願い出た。
そんな朔太郎を見た咲結も彼に倣って立ち上がると両親を見据え、
「お父さん、お母さん、さっくんはね、保育士さんをしているし、子供にも凄く好かれてるんだよ。私に危険があれば自分の身を犠牲にしてでも助けてくれる、本当に本当に優しい人なの。さっくんだから惹かれたし、さっくん以外の人なんて目に入らないくらい、大好きで大切な人なの! これからは嘘つかないし、決めるなら門限だって守るから……だから、さっくんのこと、悪く言わないで……私からさっくんを、奪わないで……お願い……」
自分の中にある想いと、朔太郎の良さを再度説明して頭を下げた。
「咲結……」
両親の理解を得ようと必死に訴え掛けて自分の横で頭を下げた咲結に、朔太郎は自分のせいでこんな事をさせている不甲斐なさを申し訳なく思うと同時に自分がこんな格好をしていなければ、七つも歳が離れていなければと、今更どうにもならない事を恨めしく思う。
二人が頭を下げ続ける中、咲結の両親は目配せした後で、
「――二人とも、顔を上げて座りなさい」
父親の方が二人に向かってそう告げると、咲結と朔太郎は顔を上げてソファーに座り直す。
そして、
「二人の気持ちはよく分かった。真剣な気持ちで交際している事も」
複雑な心境の中、父親は二人の真剣な想いに根負けし、
「二人の想いに免じて交際は認めるが、条件がある」
交際を認める代わりに条件を提示すると口にした。
「門限は二十一時、外泊は認めない、嘘をつく事も許さない、そして、海堂くんは大人だが、咲結はまだ高校生。学生らしく、節度ある交際をしてもらいたい。それが守れるならば、二人の交際に口を出さない。どうだ? 守れるか?」
父親が提示した条件はいくつかあるものの、それは咲結にしても朔太郎にしても当たり前の事だと思っていたようで、二人は顔を見合せて頷くと、
「ありがとうございます、必ず守ります」
「ありがとう、お父さん! きちんと守るから」
それぞれ『ありがとう』と口にした後で、条件を守る事を約束した。
その後、朔太郎は橘家を後にすると、タクシーを呼んで何処かへ向かって行く。
辿り着いた先は繁華街にある、行き付けの美容室。
向かうさなか、急遽電話で予約をしたようだ。
「すいません、突然」
「いえいえ、構いませんよ。だけど、ついこの前いらっしゃったばかりだったので驚きました。それで、今日はどうしましょうか?」
「悪いんだけど、今よりも少し暗めの色に染め直して欲しいんだ」
「え!?」
朔太郎の発言が予想外だったのか、スタイリストは驚きの声を上げる。
それもそのはず。
朔太郎の鮮やかな赤髪は彼のトレードマークそのもの。
朔太郎が赤髪にしたのは高校卒業してすぐの事で、以降色も明るさもずっと変える事は無く、そんな彼が今よりも暗めの色に染めたいというのだから、知っている者からすれば驚くのは至極当然だった。
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