「——また、あいつと一緒にいたのか?」
湊の声は静かだった。けれど、その奥に潜む感情は、氷のように冷たくて、火のように熱い。
伊織はベッドの端でシャツを着ながら、ぎこちなく笑った。
「ただのサークルの打ち上げだよ。蓮くん、皆と話してただけ」
「“皆と”? ……それにしては、お前、酔ってたな」
ベッドのシーツには、まだ微かに他人の香水の匂いが残っている。伊織のではない。蓮のものだと、湊はもう気づいていた。
——許せなかった。
伊織の肌に触れたであろう他人の指。耳元で囁いた声。笑顔。無防備な姿。
それが湊以外の男に向けられたという事実が。
「俺以外に触れられたお前を見ると、全部壊したくなる」
そう呟くと同時に、湊は伊織の腕を強く掴んだ。
「…っ、湊……っ」
「もう、逃げられないようにするよ。お前が誰を見ても、誰に笑いかけても、意味がなくなるくらいに。俺でいっぱいにしてやる」
乾いた笑みを浮かべて、湊は伊織を押し倒した。
——それが、終わりの始まりだった。
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