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※ちょっといろいろと省略しまくりザッと書きます。日下部のキャラの調整が難しい……この世界線の日下部を書き切れるか不安しかない……
教室。騒がしい放課後の空気の中、遥は自分の机に無言で腰を下ろしていた。
見せかけの無関心。
だが、視線の端では、日下部がこちらをちらりと見ては逸らすのを、確実に捉えていた。
(──まだ、信じてるのかよ)
内心で自嘲する。
あのとき、衝動的に放った「こいつと付き合ってるから」の言葉。
それがまさか、こんな形で“続いてしまう”とは。
「今日、寄ってく?」
蓮司がふいに声をかけてくる。
その軽さと柔らかい調子は変わらないが、遥の腕を引き寄せる指の力は、少し強い。
周囲の女子がひそひそと視線を交わすのを感じながら、遥は無表情を保つ。
「……別に、どっちでもいい」
「そっか、じゃあ行こうか、“恋人くん”」
そう言って蓮司は、遥の肩を軽く叩いた。
あくまで“ノリ”で、“冗談”で。
でもその目の奥だけは、何か別の熱を帯びている。
遥は思わず、教室の外に立つ日下部の方へ目をやった。
一瞬、目が合った気がする。
でも日下部はすぐに視線を外し、無言で廊下の奥へ歩き去った。
(……何、期待してんだよ)
遥は小さく舌打ちして、蓮司の後を追った。
数日後。
学校の一部では、
「遥と蓮司は付き合ってる」
という噂がほぼ既成事実のように扱われ始めていた。
蓮司は当然のように受け入れ、時にはからかうように遥の髪を弄ったり、距離を詰めたりした。
「ねえ、彼氏って呼んでみてよ」と耳元で囁くことすらあった。
遥はそれを拒絶せず、ただ静かに受け流す。
──その受け流しが、より“恋人らしさ”を演出していた。
日下部は、口に出すことはない。
だが、昼休みにふとすれ違ったとき、
彼の目が明らかに、何かを問いかけていた。
(“ほんとに、そうなのか?”って顔。
──だったら聞けばいいじゃん。
言わねぇくせに、勝手に見て、勝手に思って、勝手に失望して)
遥は内心、投げやりに笑う。
放課後。
「おまえさ、……あいつと、なんなんだよ」
階段下の死角。
誰もいない場所で、日下部が低く、ぶっきらぼうに言った。
遥は立ち止まった。
「“あいつ”って誰?」
「とぼけんなよ。……蓮司だよ」
遥は一瞬、目を細めた。
蓮司という名を、日下部の口から聞くことに、なぜか妙な違和感を覚える。
「だから言ったろ。“付き合ってる”って」
「……嘘だろ、それ」
「嘘かどうか、なんでおまえが決めるんだよ」
日下部の拳が、壁際のロッカーに小さくぶつかる。
「……あいつ、おまえのこと、そういう目で見てねぇよ」
遥はその言葉に、少しだけ口の端を歪めた。
「へぇ。見てたら“本物”で、見てなきゃ“嘘”なのか。
わかりやすくていいな、正義の人は」
「……違う」
日下部の声が低くなる。
「おまえ、そうやって全部“ふざけて”ごまかすけど──
ほんとは誰にも触れられたくねぇくせに、
それでも誰かに気づいてほしいんだろ?」
遥は、ほんの一瞬、呼吸を止めた。
(──やめろよ)
その“言い当てるふうな”優しさこそが、一番、腹立たしかった。
「……俺、ほんとに付き合ってるから」
遥はふっと笑って、挑発するように言った。
“そのほうが都合がいいから”ではなく、
“そのほうが傷つかないから”。
でもその笑みの奥では、歯を食いしばる音がしていた。