テラーノベル
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「……誰なんです」
旅僧が尋ねた。
少女は。
旅僧を見る。
「知らないの?」
「何をですかな」
「皆、忘れてるんだよ」
少女は笑った。
寂しい笑いだった。
「私の名前も」
少し間を置いて。
「顔も」
そして。
「存在したことさえ」
鐘撞きが。
黙り込む。
渡守も。
目を伏せた。
墓守だけが。
拳を握った。
「……そういうことか」
低い声だった。
佐衛門が少女を見る。
しばらく。
何も言わない。
やがて。
「お前も二十四人か」
少女は首を振る。
「違う」
即答だった。
「私は」
そこで。
少女は少しだけ俯く。
「最後になれなかった」
お師さんの顔色が変わった。
隻眼が。
大きく見開かれる。
「……まさか」
鐘撞きが息を呑む。
墓守も。
何かに気付いたように顔を上げる。
佐衛門だけが。
少女を見ていた。
そして。
小さく息を呑む。
「……お前か」
少女が笑った。
「やっと」
その声は。
泣きそうだった。
「思い出した」
その瞬間。
空の亀裂が。
大きく開いた。
黒いものが。
向こう側から伸びてくる。
腕。
そう見えた。
だが。
大きすぎた。
山よりも。
海よりも。
ただ。
黒い。
その先にある手が。
こちらへ伸びてくる。
空から。
声が落ちた。
『思い出したか』
低い声だった。
大地そのものが。
震えているようだった。
『二十四番目』
少女が。
ゆっくり振り返る。
空を見上げる。
「やっぱり来たね」
怖がってはいなかった。
ただ。
少し寂しそうだった。
その身体が。
淡い光に包まれる。
花びらが舞った。
一枚。
また一枚。
黒い髪が。
花びらの向こうへ消えていく。
「おい!」
佐衛門が手を伸ばす。
だが。
届かない。
「待て!」
少女は笑った。
「もう待てないよ」
その言葉に。
佐衛門の手が止まる。
何かを思い出しかける。
雪。
花。
小さな手。
そして。
あの日の約束。
だが。
もう。
少女の姿は薄れていく。
花びらが。
空へ舞い上がる。
川へ。
岸へ。
そして。
開いた亀裂へ。
吸い込まれていく。
佐衛門が。
その名を呼んだ。
声は。
誰にも聞こえなかった。
お師さんにも。
旅僧にも。
鐘撞きにも。
墓守にも。
ただ。
少女だけが。
聞いていた。
花びらの向こうで。
少女が振り返る。
笑っている。
泣いている。
昔と同じ顔で。
「……うん」
小さな声。
そして。
「おかえり」
#短編ホラー
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コメント
1件
(読み終えた直後……ちょっと泣きそう) ああ……そういうことだったんだね。ずっと「二十四人」って語られてきたのに、どこか欠けてる気がしてた。少女が「私の名前も、顔も、存在したことさえ忘れてる」って言ったとき、胸がギュッてなった。 「最後になれなかった」って——二十五番目なんだ。存在自体が消えてるのに、それでも佐衛門だけは最後に名前を呼んだ。声は誰にも届かなかったのに、少女には聞こえてて「おかえり」って返すシーン、もう……心臓が持ってかれた。 次が気になりすぎるよ、Loneさん……。