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こむぎ
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コメント
1件
ああ、これ……めちゃくちゃ心抉られたわ。過去の菫が「嫌だ」って即答したのに、結局約束を忘れてたって気づく流れ、切なすぎる。「私を忘れて」と「お前だけは覚えてて」の二つの願いの矛盾が、封印の仕組みそのものだったのね。花びらと雪の対比、最後の低い笑い声も不気味で良かった。次が気になる🔥
花びらが。
亀裂を塞いでいく。
一枚。
また一枚。
淡い光を帯びた花びらが。
裂けた空へ吸い込まれていく。
黒い亀裂が。
少しずつ。
閉じていく。
だが。
完全には閉じない。
僅かな隙間が残っている。
その向こうには。
まだ。
何かがいる。
「どういうことです」
旅僧が尋ねる。
「二十四番目とは」
佐衛門は。
空を見た。
しばらく。
何も言わない。
やがて。
「最初の封印者だ」
「最初?」
「ああ」
佐衛門は目を閉じる。
その声が。
少しずつ。
昔のものへ戻っていく。
「最初に名を捨てた」
雪が。
降っていた。
白い世界。
「最初に忘れられた」
遠い記憶の中。
少女が。
笑っている。
「だから」
一度。
言葉を切る。
「最後まで残った」
記憶が。
蘇る。
雪の日。
白い世界。
幼い菫。
そして。
黒髪の少女。
『菫』
『……なんだ』
『お願いがあるの』
少女は笑っていた。
だが。
その笑顔は。
泣いていた。
『私はもうすぐ死ぬ』
『……』
菫は。
何も言えない。
ただ。
握られた手を見ている。
『だから』
少女は。
菫の手を握った。
『私を忘れて』
菫の目が。
大きく開く。
『名前も』
『顔も』
『全部』
『嫌だ』
即答だった。
少女は。
少しだけ笑った。
『うん』
『でも』
少女は。
雪の向こうを見る。
『皆が私を覚えていたら』
白い息が。
消えていく。
『封印ができない』
『……』
『だから』
少女は。
もう一度。
菫を見る。
『お前だけは覚えてて』
小さな手が。
強く握られる。
『私が消えても』
『お前が覚えていてくれるなら』
少女は。
静かに笑った。
『私は居たことになるから』
菫の唇が震える。
『……約束する』
少女は。
小さく頷いた。
『ありがとう』
雪が降る。
音もなく。
少女の姿が。
白い景色の中へ。
少しずつ。
消えていく。
そして。
記憶が途切れた。
佐衛門は。
目を開く。
頬を。
涙が伝っていた。
「……忘れてた」
声が震える。
胸元を握る。
「私は……」
言葉が続かない。
しばらく。
俯いたまま。
「約束したのに」
誰も。
何も言わなかった。
お師さんだけが。
静かに。
佐衛門を見ていた。
空から。
声が落ちる。
『そうだ』
低い声。
『思い出せ』
亀裂の向こうで。
何かが動く。
『全部』
川が震える。
『思い出せばいい』
佐衛門が。
空を睨む。
『記憶は鍵だ』
『名前も』
『約束も』
『全部』
その言葉に。
佐衛門の目が細くなる。
「……そういうことか」
誰も。
答えない。
ただ。
閉じかけた亀裂を見ている。
佐衛門も。
しばらく見つめていた。
そして。
小さく。
息を吐く。
「だから……」
花びらが。
一枚。
空から落ちてくる。
佐衛門の手のひらへ。
「私を忘れさせたのか」
風が吹く。
花びらが揺れる。
誰も答えない。
だが。
空の向こうから。
低い笑い声だけが響いた。