テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
花びらが。
亀裂を塞いでいく。
一枚。
また一枚。
淡い光を帯びた花びらが。
裂けた空へ吸い込まれていく。
黒い亀裂が。
少しずつ。
閉じていく。
だが。
完全には閉じない。
僅かな隙間が残っている。
その向こうには。
まだ。
何かがいる。
「どういうことです」
旅僧が尋ねる。
「二十四番目とは」
佐衛門は。
空を見た。
しばらく。
何も言わない。
やがて。
「最初の封印者だ」
「最初?」
「ああ」
佐衛門は目を閉じる。
その声が。
少しずつ。
昔のものへ戻っていく。
「最初に名を捨てた」
雪が。
降っていた。
白い世界。
「最初に忘れられた」
遠い記憶の中。
少女が。
笑っている。
「だから」
一度。
言葉を切る。
「最後まで残った」
記憶が。
蘇る。
雪の日。
白い世界。
幼い菫。
そして。
黒髪の少女。
『菫』
『……なんだ』
『お願いがあるの』
少女は笑っていた。
だが。
その笑顔は。
泣いていた。
『私はもうすぐ死ぬ』
『……』
菫は。
何も言えない。
ただ。
握られた手を見ている。
『だから』
少女は。
菫の手を握った。
『私を忘れて』
菫の目が。
大きく開く。
『名前も』
『顔も』
『全部』
『嫌だ』
即答だった。
少女は。
少しだけ笑った。
『うん』
『でも』
少女は。
雪の向こうを見る。
『皆が私を覚えていたら』
白い息が。
消えていく。
『封印ができない』
『……』
『だから』
少女は。
もう一度。
菫を見る。
『お前だけは覚えてて』
小さな手が。
強く握られる。
『私が消えても』
『お前が覚えていてくれるなら』
少女は。
静かに笑った。
『私は居たことになるから』
菫の唇が震える。
『……約束する』
少女は。
小さく頷いた。
『ありがとう』
雪が降る。
音もなく。
少女の姿が。
白い景色の中へ。
少しずつ。
消えていく。
そして。
記憶が途切れた。
佐衛門は。
目を開く。
頬を。
涙が伝っていた。
「……忘れてた」
声が震える。
胸元を握る。
「私は……」
言葉が続かない。
しばらく。
俯いたまま。
「約束したのに」
誰も。
何も言わなかった。
お師さんだけが。
静かに。
佐衛門を見ていた。
空から。
声が落ちる。
『そうだ』
低い声。
『思い出せ』
亀裂の向こうで。
何かが動く。
『全部』
川が震える。
『思い出せばいい』
佐衛門が。
空を睨む。
『記憶は鍵だ』
『名前も』
『約束も』
『全部』
その言葉に。
佐衛門の目が細くなる。
「……そういうことか」
誰も。
答えない。
ただ。
閉じかけた亀裂を見ている。
佐衛門も。
しばらく見つめていた。
そして。
小さく。
息を吐く。
「だから……」
花びらが。
一枚。
空から落ちてくる。
佐衛門の手のひらへ。
「私を忘れさせたのか」
風が吹く。
花びらが揺れる。
誰も答えない。
だが。
空の向こうから。
低い笑い声だけが響いた。
コメント
1件
ああ、これ……めちゃくちゃ心抉られたわ。過去の菫が「嫌だ」って即答したのに、結局約束を忘れてたって気づく流れ、切なすぎる。「私を忘れて」と「お前だけは覚えてて」の二つの願いの矛盾が、封印の仕組みそのものだったのね。花びらと雪の対比、最後の低い笑い声も不気味で良かった。次が気になる🔥
MOMO🩲
ひな
104
けだま15号🍓🐾໊
6,356
夕鳴
128