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「…あれ…?」
翌朝、深澤はゆっくりと身体を起こす。
周りを見渡すが、岩本の姿がなかった。
昨夜、岩本がベッドに戻る姿は確認したはずだが…
「照って、今日仕事も休みだよな…」
スケジュールを確認しながら、のそのそとベッドから降りる。
「ふっか!おはよー!」
「おう、おはよー佐久間。」
岩本を探しに、リビングへ降りてみたが、そこには佐久間がいた。
「…照は?」
ダメ元で佐久間に聞いてみる。
佐久間は驚いたような表情をする。
「?散歩行ってくるって。ふっかに伝えてねぇの?」
「……うん…知らない。なんなら、いつも起こしてくれるのに、起こしてくんなかった…」
深澤はとぼとぼ部屋に戻っていく。
(いっつも、起こしてくれてたのにな…何かあったのかな…?)
深澤は、行き場のない不安を胸に抱える。
嫌な予感が、現実にならないことを願う。
「……照…」
(岩本視点)
「まだ、8:00…」
ふっかが絶対に起きない時間に家を出て、ずっと走ってみた。
そうすれば、感情の整理ができると思ったから。
外の空気を吸ったこともあって、少しは落ち着いた気がする。
まだ家に帰るには早いし、少し公園で休もうかな。
ちょうど、近くに休める公園がある。
近くの自販機で水を買ってから、ベンチに座る。
ゆっくり呼吸して、気持ちを整える。
「ご機嫌よう。」
背後から、女性の声が響いた。
身体が、振り向くことを拒んでる。
なのに、振り向かなくてはならない。
振り向いた先には、
「岩本照さんで、間違いないですわね?」
「……芙月…」
なんで、ここに?
目的は、漆黒の龍のはず。
ふっかも俺と一緒にいると思った?
なら、ふっかを連れてこなくてよかった…
少しでも、ふっかを危険から遠ざけないといけない。
それが、俺の役目だろ。
芙月は、岩本を見つめてにこやかに笑う。
「また、警戒されてしまってますね。少し寂しいですわ。」
「…何の用?」
岩本は睨むようにして、芙月を見つめる。
「ここに、お前の目的はいない。」
「”知っていますわ”。私は、”あなた”に会いに来たのです。」
芙月の言葉に、岩本は眉を顰める。
「そんな顔しないでください。私は”提案”を持ちかけに来たのです。」
「…提案?」
「ええ。それも…私もあなたも、利益のある提案を。」
芙月は、にっこりと微笑んだ。
「…断る。お前みたいなやつと手を組むなんてごめんだ。」
岩本は、そんなことに乗るつもりなどない。
さっさと公園から出ようとする。
そんなことは想定済みなんだろう。
芙月は笑顔を崩さない。
そして、
「本当にいいのですか?」
「……は?」
「この提案に、”深澤様が関わっている”のですよ?」
junp_
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さくらさく🌸
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#ゆり組
雫石
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その言葉で、岩本は足を止める。
「…どういう意味?」
「そのままの意味ですわ。それこそ、深澤様が、あなたから離れない…とかでしょうか?」
芙月は、怪しく微笑んでいた。
「…ここで話すのもあれですし…場所を変えましょう。」
岩本は、芙月に促されるまま公園を出る。
少し、話を聞くだけ。
それだけ。
そのつもりで、岩本は芙月へとついて行くことにした。
「うううう……!グスッ」
「全く…」
「ふっかぁ?そろそろいいんじゃない?」
とある居酒屋。
まだ時間帯は午前だというのに、割と人で賑わっていた。
そして、その端の席。
酒を手に、泣き崩れる深澤。
そして、苦笑いで付き合う阿部と佐久間がいた。
「ひかるがぁ、おれのこと…うっ…きらいになったぁ…!!!」
「これは、酔ってんねぇ…」
「大丈夫だから、落ち着けって!!」
酒が入っているせいもあり、なかなか見ない深澤の赤ん坊のような姿に、阿部も佐久間も少し困っていた。
「一旦水飲もうな?あ、店員さん!」
「水ください!」
「うぅグスッうええん…!グスッ」
「…ねぇねぇ…俺のどこがだめなの…?」
水を飲み、少しは落ち着いたようだが、まだ情緒不安定なままのようでまだぐずっている。
「どこがだめって言われてもなぁ…?」
「ふっかは魅力しかないよ?」
先程から、机に顔を突っ伏して、答えに困る質問ばかりしてくる。
目の前にいるのは岩本ではない。
阿部と佐久間に質問しても、正しい答えなど返ってくるはずもなく…
「……もー1杯!!!」
「待て待て待て!!!」
「ふっか!身体壊しちゃうから!」
もう、ヤケ酒しかないと自暴自棄になる深澤を、佐久間と阿部は必死に止めるのだ。
「ここなら誰にも聞かれないですわ。」
芙月に案内された場所は、都市部から少し離れた森の中。
その森の中には、唯一開けた場所があった。
太陽の光を浴びて、美しく光るガーデン。
季節関係なしに、蝶々が舞っている。
花が咲き誇り、まるで異世界のような雰囲気をまとっていた。
「……どうしてここに?」
岩本は、芙月に問いかける。
ここは、”芙月の拠点”のはずだ。
敵であるはずの岩本を、ここに連れてくる理由が分からない。
芙月は、何も言わずに微笑む。
そして、テーブルに岩本を促す。
テーブルの上には、芙月が口にしていたであろう、可愛らしいティーカップが置かれていた。
それと、
「…チェス盤?」
「常に持ち歩いていますの。さぁ、どうぞ。」
いつの間にか、芙月の手にはティーポットが握られており、ティーカップに紅茶を注ぐ。
「紅茶は得意ですか?」
「……苦手ではないです。」
「ふふ、それはよかったです。」
先程から、芙月からは”敵意”を感じない。
岩本もそんな様子の芙月に余計に緊張をする。
「まずは、警戒を解いて欲しいですわね。なので、私の持つ情報を提供して差し上げましょう。」
「……は?」
にこやかに告げた言葉に、岩本は受け取ったカップを落としそうになる。
「岩本様の質問にお答えしましょう。何を求めていますの?」
テーブルの上に手をついて、岩本の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「………」
岩本は、芙月のことを信用しているわけではない。
だが……
(今なら、情報を入手出来る…)
今の芙月は、本当に岩本の質問に答えてくれる気がしたのだ。
「………提案の内容は?」
「ふふ、せっかちですわね。…まぁ、いいですわ。教えましょう。」
芙月は微笑みながら、提案をする。
「私と手を組みましょう。私は、深澤様が岩本様と離れられないように協力いたしますわ。そして、情報も提供いたしますわ。」
「……なんで、そこまで…?」
協力?情報提供?
芙月は一体何を考えているのだ?
なぜ、ここまで岩本に利益しかないものを提案するのだ?
「……疑問に思っていますね?私にも、もちろん利益はありますわよ?」
呆然とする岩本に、芙月は微笑む。
「お前の利益…?」
「ええ、私の利益。」
芙月は、にっこりと笑い、
退場させることですわ。」
フードの男への、裏切り宣言。
「岩本様「あの、忌々しい男をこの盤上からも知っていらしている通り、あの男は狂っていますわ。なので、私はあの腐りきった男をここで退場させる。」
「………」
岩本は、言葉も出ない。
阿部の言う通り、芙月とフードの男は、本当に裏切る前提で手を組んでいたのだ。
「それに、あの男を退場させることは、岩本様の利益にもなりますわ。」
「……なんで?」
「あの男は、深澤様のトラウマの元凶。つまり、あの男が消えない限り、深澤様はずっと自分に責任を押し付けますわ。」
「……………」
「それが、今の状況ですわね?深澤様は、そうならない為に、1人立ちしようとしていますわ。」
「………」
「ですので、私があの男を退場させる。そして、深澤様の心が、岩本様に向かうようにお手伝いいたします。」
「………」
「…岩本様は、どうしますか?」
芙月は、にっこりと笑う。
岩本は、芙月から選択肢を与えられている。
岩本には、選ぶ権利がある。
ここで芙月と手を組むのなら、有力な情報が手に入り、フードの男も消え、深澤は岩本のものとなる。
だが、ここで断れば……
岩本は、芙月の笑顔を見る。
きっと、芙月は全力で自分たちに襲いかかる。
そして、深澤も失う。
……..なら、答えはひとつだけ。
「……わかった。」
芙月は、にっこりと今日1番の笑顔を見せた。
「ほーら!帰るよ!!」
「やだぁ…!のむのぉ……」
一方で、相変わらず阿部と佐久間は幼児退行中の深澤を介護していた。
「やだぁ!!やだぁ!!うええええん!!ひかるぅ!ひか…にきらわれたぁ!!かえりたくない!!!」
「佐久間、ガムテープとかないの?」
「いやいや!あるわけないって!笑」
とりあえず、佐久間の車に乗せることには成功したが、運転中、ずっと泣きわめいているのだ。
「ふっかぁ?着いたよー?」
「う…グズッううう…!やだぁ…!!ひかるぅ…んぅ…んえぇぇぇ…!!」
阿部と佐久間は顔を見合せて、ため息を吐く。
後頭部座席には、涙で車の席を濡らしていた深澤。
シートベルトをギリギリまで伸ばし、ものすごい体勢になっていた。
「これ、どうしようか?このままにする?」
「俺の車なんだけど!?」
泣きながら、全く動かない深澤。
「…佐久間、照のこと呼んできてくんない?」
「だよな。ちょっと待っててね。」
ついに、最終手段岩本照を呼びに行くことにした。
「照ー!!!」
佐久間は大きな声で岩本を呼びに行く。
だが、返事をしたのは岩本ではない。
「佐久間くん?どうかしたの?」
代わりに、目黒が出てきた。
「…蓮だけ?」
佐久間はキョトンとした顔をする。
「舘さんと、ラウ、しょっぴーもいるよ。」
「え?照とこーじは?」
「こーじは予定があってね。岩本くんはまだ帰ってないよ。」
「……まだ?」
佐久間も目黒も、違和感を抱く。
岩本は、まだ帰っていない?
「ううううう…!!うあああん!!!」
「ふっか、よしよーし、大丈夫だからねー」
泣き崩れる深澤を必死にポンポン撫でる阿部。
まだ岩本は来ないのかと、阿部は思う。
「……….何してんの?」
車の外から、待ち望んでいた声が聞こえてくる。
「照!」
阿部が振り返ると、そこには岩本が目を見開いて立っていた。
「ふっか!照来たよ!」
阿部が急いで深澤に駆け寄る。
「……んえぇ…?グスッひかぁ…?」
深澤がゆっくり身体を起こす。
目は真っ赤に腫れ、頬も赤くなっている。
泣きじゃくった後の子供のようだ。
「え?ふ、ふっか?」
岩本は困惑していた。
なぜ、深澤は泣きじゃくっているのだ?
深澤は、どうやらシートベルトが身体に絡まって動けないようで……
「うぅ…!ひかぁ!とってぇ…!!グスッ」
まだ酒が抜けていないのだろう。
深澤は、プライドも理性も全てを捨てた。
幼児退行をして、全力で甘えることにしたのだ。
「………」
岩本は、真顔だった。
溢れる感情が全てを追い越したのだ。
そして、同時に思う。
(芙月が、もう手を回したのか?)
目の前の異常な光景に芙月の可能性すら疑ってしまう。
岩本は、ゆっくり深澤に近づき、優しくシートベルトを外してあげる。
すると、深澤は
「……んっ!!」
両手を広げて、岩本に身体を起こしてもらおうとする。
普段なら絶対にありえない。
恥ずかしがってすぐに起き上がるはず…
「……阿部、ふっか酒入ってる?」
「おっしゃる通り。」
岩本は、少し表情を緩める。
「全く…仕方ないな。」
呆れと、愛おしさを含む笑顔を浮かべて、深澤を持ち上げる。
(岩本視点)
「うわー!俺の車ー!!」
遠くから佐久間の叫び声が聞こえてくる。
そりゃそうだよな。
そもそもふっかは車持ってないし…
冷静に考えたら、ほんとに何やってんだ。
人の車で散々泣き散らして、挙句の果てシートベルトを戻らなくなるまで伸ばして、シートをびっしょびしょに濡らして…
「ほんと、なにしてんの…?」
スヤスヤと寝息を立てるふっかの髪を撫でる。
ほんとに、赤ちゃんみたいだ。
たぶん、ベビーフェイスっていうのかな?
そのせいでもあると思う。
こんなに細くて小さい体で、大きなものを背負ってる。
本当は甘えたいのにさ、それを押さえ込んでて、それが爆発したのか…
………今度から、ふっかがなんか抱えてるって思ったら、一緒に酒飲むようにしようかな。
大丈夫だよ。
俺が、守るからね。
そう…俺がふっかのことを守る。
そのためには、”どんな手”でも使う。
ふっかの頭を軽く撫でて、ゆっくりベッドから離れる。
「阿部、佐久間、ありがとね。」
「まぁね…ってか、お前どこ行ってたんだよ?」
「散歩。ついでにジムにも寄ってた。」
メンバーに嘘つくのは、正直辛い。
なんか、みんなを裏切ってるみたいな感じがするから。
でも、これもふっかのためなんだよ…
「あれ?照、それは?」
阿部が指さしたのは、俺が手に持ってる紅茶の茶葉のセットだ。
…それも、高級なやつ。
「ジムに行った時にもらった。余り物ですって。」
「えー!!めっちゃいいな!!…俺はお茶苦手だけど……あべちゃんは紅茶好きだよね?」
「もし良かったら、みんなで飲んでよ。俺一人じゃ飲みきれないしさ。」
「いいの?ありがとう。」
阿部と佐久間にパックを渡す。
……これは、芙月から”協力関係成立の証”として貰ったもの。
これから、俺は芙月と会うことが増えると思う。
俺も、まだまだ聞きたいことがいっぱいある。
みんな、ごめん。
でも、俺にはこれしかないんだ…..
(深澤視点)
フワフワする。
頭の中が、ぼんやりしてる。
この感覚…
知ってる気がするな。
たしか、フードの男に操られてた時もこん感じだった…
でも、それじゃない。
夢…?
あー…お酒のせいかなぁ?
やっぱり朝からヤケ酒はまずかったかー…わら
「………ひかる…?」
やっぱり、隣に照はいないんだ。
でも、手の温もりは残ってる。
俺、ほんとに照に嫌われちゃったのかな…?
昨日、あんなふうに言ったから?
だったら、ごめん…
謝るからさ、ちゃんと、照に話すからさ…
「…俺のこと…捨てないで……」
コメント
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いやあ、深澤くんの幼児退行…めっちゃ可愛いなと思いつつ、胸がぎゅっとなりました。「ひかるに嫌われた」って泣き叫ぶ姿、照が帰ってきてシートベルト外してあげた時の安堵感と甘え方がもう…。一方で岩本くんが芙月と手を組む決断をしたところ、すごく複雑な心境が伝わってきました。ふっかのためなら「どんな手」でも使うという覚悟と裏切りに近い嘘。この先、どうなるんでしょう…。2人のすれ違いが切ないです。