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夕方になり、3人はミンミンボウを開店した。
開店直後こそ混雑したがしばらくすると客足も落ち着いてきたので、ぺいんは出前に出かけた。
「どうも。ミンミンボウですー」
「あ、ボクです!出前頼んだの!」
「今、渡しますね」
出前を渡そうとしたそのタイミングで、ぺいんは依頼者から手錠をかけられてしまった。突然の出来事にぺいんは目を白黒させた。
「え?なんで?」
「ごめんなさい!銀行強盗中に人質逃げちゃったんです!代わりに人質になってください!」
「えぇ〜。僕、出前中なんだけど………」
「悪い様にはしません!あと中のハッキングだけなんです!」
犯人に懇願され、まわりに身代わりになるような人影もなく「なんとかなるだろ」とぺいんは人質になることを了承した。
「全部言っちゃうやん。………仕方ないなぁ。一旦、店に電話だけ入れるから手錠外して」
「今じゃないとダメですか?」
「銀行内のハッキング始めると、警察に通知が行くんだよね」
「なるほど?」
「人質が電話してたら、おかしいでしょ?あと出前渡すから、請求もしたい」
「まぁ、それはそうですね。んじゃ先にどうぞ」
なぜか憎めない犯人に手錠を外してもらったぺいんはミンドリーに電話をかけた。
「ミンドリー。出前に行ったら銀行強盗の人質になった」
「ふはっ。どうしてそうなるのよぉ?」
「なんか人質逃げちゃったんだって。犯人、慣れてないっぽいし、ちょっと付き合ってあげるわ」
「あぁ。了解。なんかあったら電話して」
「はいよー」
電話と出前のやりとりが終わり、再度手錠をかけてもらい人質になる。待つ間、手持ち無沙汰のぺいんは犯人に話しかけ始めた。
「で、犯人さんはハッキング頑張ってる?」
「話しかけないでください〜。真剣なんですぅ」
「頑張って数字探せ〜」
「ん?はい??えっと、こうやって、よし。次。うわぁ。速い!」
「目押しがんばれ〜」
「店員さん、詳しくないっすか?」
「気のせい、気のせい」
犯人が2つ目の金庫を漁り終えたくらいで、外からパトカーのサイレンが聞こえた。ようやく警察が到着したらしい。
犯人とぺいんが外に出ると、前に警察署で見かけた顔を含め、パトカー3台とヘリが停まっていた。そのうちヘリを運転してきたのはプロファイル登録の時に会話した小柳という警官だった。
「犯人、無駄な抵抗はしないで人質は解放しなさい」
「うるさ〜い!」
「出前って言われて来たら、人質になりましたー。助けてー」
「ミンミンボウの伊藤さんですよね?棒読みじゃないですか?」
「気のせいですー。怖くてそうなっているんですー」
棒読みとは言われたが、ぺいんは頑張って「人質」の演技をする。そうしているうちに犯人と警察との交渉が始まった。
「警察ぅ。人質の解放はタダでは無理だなぁ。解放はするから追いかけてこないでくんない?まあ、どうせ追いかけてくるだろうけどさ。ヘリはやめて欲しいなぁ」
「………仕方ない。人命優先だ。条件を飲もう」
警官の小柳がヘリの操縦士だったらしく、そう言うとヘリでその場から離れた。
その様子を見た犯人は「出前のお兄さんまたね」と言い、ぺいんの手錠を外した後、逃走を開始し、警官もすぐさまパトカーに乗り込み、追いかけに行ってしまった。
後に残されたのはぺいん一人。
「………僕、人質だったんだけど、メンケアなし、マ?」
ぼやきつつ、しばらく待ってみたが警官が戻ってくる気配はなかった。幸いにも出前用の原付は残っていたので、そのままぺいんは店に帰った。
「ただいまぁ」
ぺいんが店に戻るとさぶ郎が駆け寄って来た。
「怪我してなぁい?」
「大丈夫だよ。ミンドリーに聞いちゃった?」
「なかなか帰ってこないから聞いたよぉ。無事で良かったよぉ」
「心配かけてゴメンな?ミンドリーと話してくるね」
ぺいんはさぶ郎に店を任せ、奥にいるミンドリーに話しかけた。
「ただいまぁ」
「おー。お帰りぃ。どうだった?」
「怪我なし。終わってその場で解放されたから犯人が逃げ切ったかどうかは知らん。けどなぁ」
「気になる事あった?」
「警官が解放された人質そっちのけで、全員犯人を追いかけて行った。メンケアなし。まぁ、犯罪が多い街だから検挙優先なんだろうけど」
「何か思うところでもある?」
「今回は被害者が僕だし犯人もそう悪い人ではなかったけど、さぶ郎や他の市民がこんな対応されたらなって」
「まぁ、今の俺たちはただの白市民だからね。気になるなら警察署に出前に行った時に、話してみるのも良いかもね」
「そんな義理もないっちゃないんだけどね。まるんもいるし考えておくよ」
そういうと、ぺいんは店に戻るよう歩き始め、ミンドリーも続いた。
「さぶ郎も心配していたし、店に戻るわ。あと、しばらくの間、出前は僕が全部やるから」
「おっけー。お願いね。あと、前に話していた件はぺいん君の分も進めておくね」
「あーね。まかせたわ」
前々から感じていたことでもあったが、治安の悪いこの街で過ごすに当たり、ミンドリーには考えていることがあるらしい。
明るい店内から外を見るとすっかり暗くなっており、昼間と違いパトカーのサイレンが増えてきたようだ。
客足も途絶えた店内で、ミンドリーは椅子に腰掛け新聞を読みながら考え事をする。
(最悪を想定して、準備しておくことに越したことはない。機会が無ければそれでいいのだから)