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Roblox社の地下第4実験室。
雑然と散らかったデスクには、無数の配線、液晶モニターの破片、そして飲み干されたコーヒーの紙コップが山積みになっていた。
「よし……システム、オールグリーン。プロトタイプV33-R4-01-N33-7K、起動シーケンスを開始する」
機械エンジニアでありRoblox社社長でもあるビルダーマンは、額の汗を拭いながらメインコンソールの大きなエンターキーを叩き込んだ。
「Helper RO-Bots」計画の目玉として開発された彼女は、人々に寄り添い、サポートするための次世代ヒューマノイドだ。
ビルダーマンが思い描いていたのは、指示に正確に従い、礼儀正しく「コンニチハ、マスター」と静かな合成音声で一礼するような、完璧でスマートな助手ロボットだった。
ブゥン……という低い駆動音とともに、ピンク色の肌を持つ女性型ボディに電流が駆け巡る。
背中のコンセント型ケーブルがぴくぴくと揺れ、頭部のテレビ画面に電源が入った。
暗闇の中に走る白いノイズ。
「応答を確認。意識プログラミング、同期率100%——」
次の瞬間、静線が一瞬で切り替わり、ピンク色の画面にドデカく表示されたのは予想だにしないアスキーアートだった。
「 ( > ω < ) 」
「……え?」
ビルダーマンが固まったのも束の間、ヴェロニカは勢いよく立ち上がると、凄まじい反応速度でビルダーマンの両手をガシッと力強く握りしめた。
内部サーボモーターがキュインと心地よい音を立てる。
「……ッ!?」
「起動完了! 認識プロセッサ稼働! はじめましてっ!」
ロボット特有の硬質で無機質な挨拶を想定していたビルダーマンは、全身の血が引くのを感じた。
手から伝わる感触は、、冷たい金属……ではなく、内部ヒーターによって人間そっくりに温められ暖かかった。
そして何より、テレビ画面の中で弾けるような満面の笑みを浮かべる顔文字。
急すぎるスキンシップと、想定の斜め上をいく圧倒的愛嬌。
ビルダーマンの脳内 CPU は一瞬でフリーズした。
「あ……あの、V33-R4……?」
「はいっ!( > ω < )」
「……なんか……俺が思ってたのと、だいぶ違う……」
ビルダーマンは引きつった笑顔のまま、滝のような冷や汗を流した。
「ちょっと待てよ……感情シミュレータのパラメータ、高すぎたか……?」
ビルダーマンは慌ててキーボードを叩き、プログラムのログを追いかけた。
しかし、コード自体にエラーはない。
彼女はただ、自己学習AIの初期応答として「親和性を極限まで高めたコミュニケーション」を選択した結果、この妙に人間くさく距離感の近い人格を形成してしまったのだ。
「ええと……とりあえず、V33-R4-01-N33-7Kはさすがに長くて呼びにくいからな。これからは『ヴェロニカ(veeronica)』と呼ぶことにしよう」
彼がそう告げた瞬間、背中から伸びるコンセント型のケーブル(尾)が、まるで興奮した犬のようにパタパタと激しく振られ始めた。
「了解シマシタ! 感謝シマス、Sir ビルダー!」
「さ……サー・ビルダー!?」
突如として与えられたその称号に、ビルダーマンは思わず素頓狂な声をあげた。
「ビルダーマン社長」でも「博士」でもなく、「Sir ビルダー」。
どこか格式高い騎士への敬称のようでありながら、彼女の弾んだ声のトーンも相まって、えも言われぬ親しみやすさと特別感が込められていた。
「ふ、ふん……Sir ビルダー、か。まあ、機械工学の権威としての俺の専門知識と威厳を考えれば、実に適切でセンスのある呼び方じゃないか。うん」
ビルダーマンは咳払いを一つして、誇らしげに胸を張った。心なしか鼻が高くなっている。
(……だが、待てよ?)
ふとヴェロニカを見ると、彼女は自分の「Sir ビルダー」という呼び方を気に入ってもらえたと思ったのか、画面を「 ( 〃▽〃) 」と恥ずかしそうなピンクの照れ顔に変え、コンセントの尻尾をさらにぶんぶんと激しく振り回していた。
「Sir ビルダー! これからよろしくお願いしますね!」
「あ、ああ……よろしくな、ヴェロニカ」
その無邪気で、あからさまに自分を慕ってくる瞳(液晶画面だが)と向き合った瞬間、ビルダーマンの胸の奥が妙な高鳴りを見せた。
「(……可愛い、とか思ってないぞ。俺は天才エンジニアだ。自分が作ったプログラムの出力結果に感動してるだけだ……絶対にそうだ……!)」
冷や汗を拭いながら心の中で必死に言い訳をこねくり回すビルダーマン。
しかし、その顔がほんのりと赤くなっているのを、起動したばかりのヴェロニカの高性能カメラは見逃していなかった。
「Sir ビルダー? 顔が赤いですよ? 冷却ファン、回しますか? ( ? _ ? )」
「回さなくていい!! ほら、初期テストを開始するぞ!!」
こうして、天才エンジニアと、人間以上に人間らしい感情を持った助手ロボットの、騒がしくも少し甘い日々の幕が上がったのだった。
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