「どうしてあなたが格闘家だって言ってくれなかったの?」
私は少し怒った顔で彼に言った、実際は全然怒ってなどいなく、むしろ彼を尊敬すらしていた
「本当にごめん・・・その・・・鈴ちゃんはこういうの嫌いなんじゃないかなって思ってて・・・ずっと言い出せなくていたんだ 」
テーブルの下で彼が太ももに置かれた私の手に手を重ねてきた、そして親指で私の指を愛撫した、途端に熱い感覚が体を走る
柚彦君ったら・・・
お兄さん達がいるのに・・・
ああ・・・でも彼が好き・・・
「試合・・・・ずっと見てたけど・・なんだか・・・乱暴な印象をうけたわ」
「格闘技は崇高なスポーツなんだ」
私はツンとして言った
「どうして殴り合うのを楽しめる人がいるのか想像もつかないわ 」
それを聞いて彼とお兄さんがゲラゲラ笑った
「僕だって叩きのめされるのが好きなわけじゃないさ、しかしパンチを交わすのは好きだよ、自分の力と持久力を試すのも、勝とうが負けようが、試合の後は生き生きとしてくるんだ」
「そうなの?」
その言葉に驚いた彼はニコニコしながらさらに続ける
「うん・・・昔から体を動かすのが好きなんだ、それとなんでも分析するのも好きなんだ、何が効果的で何がそうじゃないかその理由も見極める目を持ってるんだ
格闘技の試合で選手の動きをみれば、次に出てくる技も予想できる、事前に分析通りに戦ってみて結果を確認するのがとっても好きなんだ 」
彼の話を聞いていると、格闘技と格闘家の動機に感して、私は誤解していたのではないかと思った
たしかに俊哉が弱い者にふるう暴力と彼らの試合は雲泥の差があった
実際試合では柚彦君は驚くほど冷静で・・・
美しいとさえ思った
「僕は兄さん達の影響で格闘技が好きだし、得意だからこのキャリアを選んだんだ、他のどんなスポーツよりも肉体的にも精神的にも自分の限界に挑むことができる、でも・・・格闘技は僕という人間そのものじゃない・・・僕の仕事と言うだけなんだ、僕言ってること・・・わかる? 」
「わかると思う・・・ 」
真剣な彼の誠意ある言葉に、私も本気で彼を理解したいと思い始めていた
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