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突然訪れた波歌となんだかんだ喋っていたらお昼の時間となった。
司がリビングに来るのを察知して即執事の服、燕尾服を着る幸。
「ねえ幸くん?」
幸は燕尾服のパンツを履いて、Yシャツを着てボタンを留めている最中。
「ん?なに?」
「私が来たときにその服着る仕草してよ」
「え。なんで」
「なんでって。一応私女ぞ?」
「うん。だから?」
「Oh。だから?ときたもんだ」
Yシャツのボタンを閉め終え(第二ボタンまでは開いているのが幸のデフォルト)
襟を立てて、ボウタイ、蝶ネクタイをつける。
普通のボウタイ、蝶ネクタイと違い、短いネクタイをクロスさせているような、少しばかり特殊なものである。
「幸くん。私が下着姿でいたらどう思う?」
ボウタイ、蝶ネクタイをつけ終えたが、ボウタイ、蝶ネクタイから手を離さず斜め上を見て考える。
「…。なんとも思わん」
「…」
ジーっとした目で見つめる波歌。無言で「ほんとか?」というメッセージを送る。
そのメッセージを受け取った幸。
「…。んー…まあ、なんとも思わんは嘘か。…ま、ちょいエロいか」
「ね?」
「ん?」
「いや、女でもエロって思うことあんのよ?」
「へぇ〜。…え、オレに?」
静かに驚く幸。
「いや、幸くんも今、私が下着だったらエロいって言ったがな」
「いや、なみ姉案外顔いいからね?」
「お、おぉ。案外はいらないけどありがと」
「んでスタイルもいいし。そんな人が下着だったら
いくら昔から知ってる姉みたいな存在とはいえ、多少なりともエロいって感じるって」
「ほら!ね?そっくりそのまま返すよ?」
「What??」
肩を竦める幸。
「海外の方のフリすんな。ゴリゴリの日本人だろーが。幸くんもイケメンだし」
「知ってる」
「スタイルも良いし」
「知ってる」
「細マッチョだし」
「知ってる」
「…。なんだろう。腹立つな」
「で?」
「いや、そんな割と、“割と”ね?ハイスペの男の人がすぐ側でパンツ一丁で寝てたら
女子だって変な気分になるでしょうがって話!」
「へぇ〜。女子でも男子をエロって思うことあんだね」
「あるよ?え、幸くん、女子をなんだと思ってたん?」
「いや、まあ。単純にカルチャーショックだったわ」
という話をしているとガチャっと扉が開く音がして部屋から司が出てきた。
「お坊ちゃま。お昼はいかがいたしましょう」
「ん?」
いつも幸におまかせしているので不思議に思う司。しかし
「よ!」
と手を挙げる波歌で納得する司。
「あ、来てたんだ、なみ姉」
「お邪魔してるよぉ〜」
「いらっしゃい。なみ姉はお昼なにがいい?」
「お。私チョイスでいいのかい?」
「うん、いいよ」
「どーしよーかなぁ〜。幸くんになに奢ってもらおう」
ニマニマ顔で幸を見る波歌。
「ここから廊下の突き当たりまでが客室ね」
「嘘…でしょ」
唖然とする光と栗夢。紅茶を飲み終えた美音、栗夢、光は、美音の案内で狐園寺邸を見て回っていた。
「一応造りとしては全室同じ和室になってて」
と美音が一番手間の部屋のドアを奥に開き、中へと入る。
まるで旅館の一室のような、ドアから中に入ると靴を脱ぐような玄関部分がある。
「え。ここのスペースはなんのため?」
光がその玄関部分のようなスペースを指指す。
「ここは、ま、スリッパ脱ぐ場所?」
「あぁ〜、なるほど?」
美音が部屋へ上がって、襖を開く。するとそこには本当にまるで旅館の一室のような
畳にテーブル、座椅子に座布団、床の間に床の間の壁に掛かっている掛け軸
床脇という床の間の隣の床の間に似たスペースにテレビが置いてある。
栗夢と光も美音の後についていき部屋に入る。
「ガチで旅館じゃん」
「ほんとですね」
「ま、客室だからね。旅館の一室みたいにしてるのよ」
「にしても旅館すぎるでしょ」
「客室への案内の仕方とか、布団を敷くやり方とか
そーゆーのを再確認して、ま、教育係を任せられるかどうかの
…テストってほどでもないけど、ま、そーゆー部屋でもあるらしいわ」
「へぇ〜」
「そうなんですね」
別次元すぎて魂が抜けかける栗夢と光。3人は部屋を出て、客室が続く廊下ではない廊下を進む。
廊下からは中庭が見える。中庭には盆栽のような木が植っている。
「ここがダイニングね。ここは和洋折衷のような造りになってて
パーティーをするときなんかはここを使うわね」
「ひっろ」
「広いですね」
「こないだは壁際にテーブル並べてビュッフェ形式でパーティーをしたわね」
「やば」
「ヤバいですね」
また廊下を歩く。
「ここが2つめの広間ね」
開け放たれた障子。そこから中に入る美音。美音の後に続く栗夢と光。
「うわ。マジでさっきいた広間よりデカい」
「ほんとですね」
その広間も先程3人がいた広間と同じで三方を廊下で囲まれ
その廊下と広間を障子で仕切ることができるようになっている。
「そんで」
美音が障子に手をかける。スーッっと開く。
「これが例の砂の池です」
障子が開いて、廊下を挟んでガラス製のスライドドアの向こうには、白い壁の手前に見事な枯山水があった。
「うわ。マジである」
「うわとはなによ。うわとは」
「枯山水、いいですね」
「家族での食事はここで摂ることが多いわね」
「へぇ〜」
「ここがキッチンが一番近いからね」
また3人で廊下を歩いて行き
「ここがお風呂ね」
お風呂の入り口の前に来た。ここまで完全に旅館だったので
栗夢も光もお風呂場も旅館さながらなんだろうと想像していた。
しかし、お風呂場はさすがに男女でわかれていることも、暖簾がかかっていることもなかった。
スライドドアを開ける。すると広い脱衣所、洗面台があり、その奥にモザイクガラスのドアがあった。
美音が脱衣所に足を踏み入れ、モザイクガラスのドアを奥に開く。
「ここがお風呂ね」
美音の後をついていき、中を覗いた栗夢と光。
「…う…そ」
「…」
絶句する栗夢と光の目の前にあったのは、少し黒めの石のタイルの床に軽く5人は入れそうな
床と同じ素材で囲まれた湯船、そしておそらく檜で作られた木造の浴槽もあった。
入り口は旅館のお風呂場ではなかったが、中は旅館のお風呂だった。
「マジ?」
「なにが?」
ケロッっとした顔をしている美音。
「え。お風呂2種類もあんの?」
「ええ。サウナもあるわよ」
という美音の手の指し示すほうを見る栗夢と光。そこには壁に埋め込まれた木製の扉があった。
「うわ…マジだ」
「だからうわとはなによ」
「金持ちの次元が違いすぎるんだよな」
「わかります。いつもこのお風呂に入ってるんですか?」
「まあ…そうね?ここ以外にお風呂ないし」
「マジで旅行行く必要ゼロだな」
「ですよね」
そのあと3人は池と竹藪を見に、裏口から外に出ていった。池にはベタに鯉が2匹泳いでいた。
「すご」
「綺麗な鯉ですね」
そんなこんなでおおまかな狐園寺邸の見学ツアーは終了した。
先程紅茶を飲んでいた栗夢と光の荷物が置いてある広間に戻った。
「宝孔雀(ホウクジャク)様、栗鼠喰(りすぐい)様、なにかお飲み物お飲みになられますか?」
と帆歌が栗夢と光に聞く。
「栗鼠喰さん何飲んでたっけ?」
「私ですか?私はストロベリーティーをいただきました」
「あ、じゃあ私はストロベリーティーをお願いします」
「かしこまりました」
「じゃあ、私もダージリンティーをお願いします」
「かしこまりました。お嬢様はいかがいたしましょう?」
「私はミルクティー」
「かしこまりました」
と言って帆歌が立ち上がって歩いていった。
「ストロベリーティーめっちゃいい香りだったから飲みたくなっちゃって」
「そうなんですね。香り高くて美味しかったです」
「そうなんだ。ダージリンも良かったよ」
「楽しみです」
「いやぁ〜!美味しかったぁ〜!」
波歌は天に腕を伸ばし、伸びをする。
「美味しかったねなみ姉」
「美味しかったぁ〜。幸くんに感謝感謝です」
幸も珍しく司と波歌と共にお昼ご飯を食べた。
高級シャトーブリアンのヒレ、ステーキセット。1人前なんと18,000円。
「…配送料だけで3,000円?…解せねぇ」
と呟く幸。
「ありがとうございますぅ〜幸くん」
ニマニマ顔の波歌。
「いいよ。今度倍のなんか奢ってもらうからいいよ」
満面の笑顔で返す幸。
「うわっ。幸くんの笑顔初めて見た。なんか不吉の予感」
「初めてなわけないだろ」
「いや、私の記憶にはない」
「幸くんクールだからね」
「ねぇ〜。少しは笑えば誰かさんに振り向いてもらええうのにねぇ〜」
「は?」
「?」顔の司。そんな感じでお昼を食べ終えた幸、司、波歌。
「あのさ」
美音がティーカップをソーサーに置いて栗夢、光に向かって言う。
「ん?」
「はい?」
「私のこと呼んでみて?」
「は?」
キョトン顔の栗夢。
「いいから」
「…狐園寺(こうえんじ)さん」
「狐園寺さん」
「うん。そうよね。…私たちって友達?なのかしら」
栗夢と光はそれぞれ顔を見合わせる。げっっという顔を美音に向ける光。
「なにそのヤンデレみたいな質問」
「な、なによヤンデレって」
「あ、その説明はめんどいからしないけど…。ま、友達じゃない?家にまで来てるし」
「そうですね!私はお2人をお友達だと思ってますよ!」
笑顔で言う栗夢。
「じゃ、じゃあ、名前で呼んでくれてもいいんじゃない?」
と恥ずかしながらも、でもツンとした表情を崩さんとしながら言う美音。
その言葉を受け、ティーカップをソーサーに置いて、またげっっという顔を美音に向ける光。
「またヤンデレ女みたいなセリフを」
「だからヤンデレってなによ」
「んー…なんか今さら名前で呼ぶのもなぁ〜」
と腕を挙げながら座椅子の背もたれに寄りかかり、後頭部で手を組む光。
「み…美音さん!」
栗夢が美音のことを名前で呼んでみた。
「おぉ」
「おぉ」
光と美音が驚く。
「いや、でもさんはいらんくね?」
と名前で呼んでさえいない光が言う。
「じゃあ、宝孔雀(ホウクジャク)さん呼んでみてくださいよ」
「んー?名前で呼んでもらわんとなぁ〜」
と座椅子に改めて寄りかかる光。
「光…さん」
「さんいらんけどなぁ〜。ま、いいか」
と寄りかかるのをやめ、胡座の両足の裏を合わせたバージョンの両足に手を置いて、少し前屈みになり
「美音、栗夢。で、ど?」
と言った。
「…」
「…」
「いや、なんか言って?」
「なんか…あなたに呼ばれると男性に呼ばれている感じがするわ」
「!わかります!」
「なんだそれ。じゃああだ名でも決める?」
「あだ名。例えば?」
「美音でしょ?…みーちゃんとか」
「猫みたい」
「たしかにですね」
「ちゃん美音とか。…ないな。自分で言っててないわと思ったわ」
「栗鼠喰さんは」
と言った美音を「は?」という顔で見る栗夢と光。
「え。自分だけ苗字呼びは許されないんじゃないっすか?ねえ?栗夢さん?」
「ですよね?光さん」
改めて美音を見る2人。
「く、栗夢さんにはどんなあだ名がある、のかしらね」
喋り方までぎこちなくなる美音。
「そうだなぁ〜…」
腕を組み考える光。
「家では姉たちにクリームって呼ばれてます」
「クリーム?」
「クリーム?」
「あぁ、栗夢だからクリームね。しかもご実家がスイーツショップだし」
「なるほど」
「でも私たちが呼ぶのはなぁ〜」
「そうね」
といろいろと考え、話し合った結果
「美音」
「うん。栗夢」
「はい!光さ…」
首を振る光と美音。
「光」
「ほい」
と名前、呼び捨てで呼ぶことに決まった。
「にしてもクリームね」
「そもそもご両親はクリーム想定で名前つけたとか?」
「たぶんそうだと思います。聞いたことはないですけど。でも姉も2人ともケーキっぽい名前なので」
「へぇ〜。なんてーの?」
「一番上の姉が祭に蝶々の蝶の字の虫編が木編になった漢字で祭楪(まっちゃ)。
真ん中の姉は千の夜を越と書いて千夜越(ちょこ)です」
「お。千の夜〜を越〜えてぇ〜じゃん」
「なにその歌」
「え。美音さん知らないんすか?ま、私も兄が口ずさんでたから知ってるだけだけど。
でも抹茶にチョコか。すごいね。キラキラじゃん。…いやキラキラでもないか。
抹茶は日本のものだし…チョコは少しキラキラかもな」
「家ではなんて呼んでるの?」
「抹茶…あの本来の名前の漢字じゃなくて飲む抹茶の意味で抹茶姉と
食べるほうのチョコでチョコ姉って呼んでます」
「なるほど。でお姉さんたちはクリームと呼んでるのわけか」
「そうです。あ、ちなみに今日お持ちしたケーキは、うちの店では3姉妹ケーキって呼んでて
大々的には知られてないんですけど
抹茶ケーキ、チョコケーキ、ショートケーキを一緒に買うとシスターセットとして少し割引になるんですよ」
「「へぇ〜」」
お得なのかわからない情報を聞いた光と美音。
ということでそのタイミングでケーキをいただくことにした。
美音はショートケーキ、光は抹茶ケーキ、栗夢はチョコケーキを食べることに。
美音がフォークで一口分分けてフォークで刺して口へ運ぶ。まず口に広がったのは苺のフレッシュな香り。
そして後を追いかけてくるようにスポンジの小麦粉の香り。
そしてスポンジの卵の香りも…するようなしないような。まず口の中に触れたのは生クリーム。
上と回りを包む生クリームは市販のショートケーキの生クリームより少し甘さ控えめの甘めの生クリーム。
甘いが重く感じさせない、かといって軽すぎず、ショートケーキの主役と思わせる存在感を示している。
歯を入れていくとフレッシュな苺、そしてスポンジ生地
生クリームを挟んで苺のジュレ、スポンジ生地というような具合だった。
上と回りを囲む生クリームと違い、層に使われている生クリームは
フレッシュな苺の酸味を消さないよう、あえて甘さを控えめにしてあった。
上部の丸々1個の苺は甘いものを使用しているが、層に使われているスライスされている苺は
生クリームの甘み、スポンジ本来の味を感じてもらうため、あえて酸味のあるものを使用しているらしい。
さらに苺のジュレ。先程も言った通り、苺のジュレはジャムほどまでいかないまでも甘めに仕上げてある。
そこで甘い生クリームにすると甘さがぶつかってしまうため、あえて甘みを控えた生クリームにしてあるのだ。
計算、そして試行錯誤されたショートケーキ。甘い生クリーム、スポンジ生地、スライスされた酸味のある苺
甘さ控えめの生クリーム、苺のジュレ、そのすべてが主役であり、意味があり
しかし主張しすぎず、口の中で合わさり完成されるような、素晴らしいショートケーキだった。
「!…美味し…」
美音も目を丸くして静かに驚く。光は抹茶ケーキを口へ運ぶ。
まず口に飛び込んできたのは香り高い抹茶の香り。
ガナッシュと呼ばれるチョコレートケーキの上部のような
生のように柔らかいが、ケーキの一部として固まっているクリーム状のもの。
その抹茶版のガナッシュが甘めで
その抹茶版ガナッシュの上に振りかけてある抹茶パウダーが香りを際立たせている。
スポンジ生地にも抹茶が練り込まれているらしく
歯がスポンジにたどり着いても抹茶の香りは途絶えることなく
層になっている中の抹茶クリームは甘さが控えめで、抹茶本来の苦味に近い苦味があり
上部のガナッシュよりも香り高く、まるで抹茶を飲んでいるような錯覚まで起こさせる。
さらに抹茶のムースも層には入っており、抹茶のムースは口当たりが軽く、食感のアクセントとなっていた。
一番下には上部のガナッシュのより固形版、ガトーショコラの抹茶版のようなもので
抹茶以外、ナッツなどは使っていないのにも関わらず、飽きさせるどころか
食べる度、歯を入れる度にワクワクさせてくれるような、そんな抹茶ケーキで
「!…ヤバ…美味し」
光も静かに驚いていた。栗夢はチョコケーキを食べていた。
栗夢は普段から食べたいときに食べられる立場にあるので
美味しさには慣れていたものの、頬に手をあて満面の幸せそうな笑顔で
「んん〜!美味しいぃ〜」
と感激していた。
「く、栗夢。美味しそうに食べるわね」
まだ名前呼びがぎこちない美音。
「たしかに。食べさせたくなる顔してる」
光も同意する。
「んふふ〜。そうですか?」
「幸せそー」
「ほんとね」
「だから毎日なんかしら食べるもの持ってきてるわけだ」
「そうなんですぅ〜」
頬に手をあてたまま満面の笑顔で幸せそうな栗夢に
可愛いな
と思う美音と光であった。
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