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無事にウォードの協力を取り付けることに成功した俺とテオ。
次の約束の場所である、営業終了後のエイバス冒険者ギルドへと皆で向かう。
ギルド内で待っているのは、ダガルガ1人だけのはずだったのだが……。
「あのぅ……なぜ、あなたがいらっしゃるのでしょうか?」
「はい。当ギルドの管轄内にて、緊急事態が起こっていると伺いましたので」
恐る恐るな俺の質問に微笑みながら答えたのは、初めてギルド窓口を利用した際にカウンターで対応してくれた若い女性職員。
彼女は『ステファニー・ヘイズ』と名乗った。
窓口業務を行う職員は他にも数名居るのだが、中でもステファニーは最も仕事が早くかつ丁寧、しかも笑顔が素敵な美人のため、俺はついつい彼女が担当する窓口に並んでしまうことが多かった。
気まずそうにダガルガが言う。
「昼間よ、ギルドマスター執務室で喋っただろ? あれで勘繰られちまってな……」
「ギルド長が執務室へ一般冒険者を通すなんてこと、めったにありませんもの」
「で、お前らが帰った後にみっちり問い詰められてよォ……全部喋っちまったんだ。ほんとにすまん!!」
優しい笑顔のはずのステファニーから放たれる、有無を言わせぬ空気。
ひしひしとそれを感じている俺達が、頭を下げて精一杯謝るダガルガを責めることなどできるはずもない。
しばらくの間、ステファニーとダガルガとの会話が続く。
「どうせギルド長は、ダンジョンへ同行するおつもりだったのでしょう?」
「お、よく分かったな!」
「ギルド長が分かりやす過ぎるんです。で、仮に討伐へ行くとしましょう。ダンジョン『小鬼の洞穴(こおにのほらあな』を攻略する場合、エイバスからカルネ山、そしてダンジョン入口からボス部屋までの往復だけで、どんなに急いでも2日、通常であれば4日から6日はかかります。今回のように特殊な事態であれば、念のため10日程度は見ておいたほうが賢明かもしれませんね」
「その通りだ!」
「では討伐に向かっている間、ギルド長の通常業務はどうなさるんですか?」
「……」
ダガルガは一瞬固まった後、「ガハハハハ!」と大きく笑う。
ステファニーは「やはり何も考えてなかったんですね……」と溜息をつき、そして言った。
きょとんとする4人。
「ギルド長、シフトを組み直さなければならないですし、状況によっては臨時のお手伝いを雇うことも検討します。ですからせめて、討伐の日程だけは早めに決めてください」
「おう! 今日中に決めておくぞ!」
「お願いいたします。では私はお先に上がらせてもらいますね」
一礼し、去ろうとするステファニー。
思わず彼女を呼び止める。
「待ってください!」
「はい、なんでしょう?」
ステファニーは振り向き、柔らかい口調で答えた。
「本当にいいんですか?」
「ええ。かつてない緊急事態、しかも未知の存在が相手ということですから、この街でも指折りの実力者であるギルド長が同行するのは妥当かと。正直、ギルド長不在の穴は大きいですが……事前に分かってさえいれば準備もできますし、10日程度なら何とかがんばります!」
「……すみません」
「いえ……こちらこそ、ダンジョンの件はよろしくお願いいたしますね、勇者様」
にっこり微笑むステファニー。
その優しい笑顔にドキッとしつつも、俺は何とか「は、はい!」と答える。
ステファニーは再び一礼し、その場を去っていった。
ダガルガの案内で、俺とテオとウォードはギルドマスター執務室へ移動。
応接スペースのソファに座り、「ちょっくら雑用片付けてくるぜ!」と部屋を出たダガルガを待つ。
俺はふと口に出す。
「それにしても……ステファニーさんって、いったい何者なんだ……?」
ステファニーはゲームにおいて、ずっとエイバス冒険者ギルド窓口でのアイテム買取などを担当していた。
ウォード同様パーティメンバーには加えられず、話しかけてもお決まりのセリフしか言わないタイプのNPCだったので、俺はゲームプレイ中に彼女を意識したことはなかった。
この世界に来てからも窓口での買取以外に接点はほぼ無かったため、ついさっきまでは名前すら知らなかったのだ。
「ああ、ステファニーはな……」
ウォードによれば、彼女はこの街の有名人の1人らしい。
事務作業が苦手なダガルガに代わり、その若さながらギルド業務の大半を取り仕切っていて、彼女本人が居ない所では『エイバス冒険者ギルド・影のボス』と呼ばれる存在であるとのこと。
話を聞いたテオがポロッと言う。
「へぇ~。だったらステファニーがギルドマスターやればいいのに」
俺が「ちょ、テオ!」と慌てると、ウォードが笑いながら否定した。
「それが、そうでもねぇんだ。昔から冒険者ギルドは荒くれ者共の巣窟ってのが相場で、血の気が多い若者同士の争いが絶えねぇ場所なんだよ。ステファニーは先代ギルドマスターの娘で、しかも貴重な『生まれつきの【鑑定】スキル持ち』だったもんで、小さい頃からギルドの買取業務なんかを手伝ってたんだがな……戦闘向きステータスじゃねぇ上に若ぇから、冒険者共に舐められちまってたんだ」
なんか分かる気がするな。
ゲームで様々な国や街を見て回ったけど、どこの冒険者ギルドにおいても、出入りする者達は刺々しいオーラの持ち主が大半だった。
柔らかい物腰のステファニーが彼らと渡り合うには無理がある。
「ある日もエイバス冒険者ギルドで大きな喧嘩が起きててよ……そこへフラッと現れて、笑いながら争いを止めちまったのが、俺達とのパーティを解散した後にソロで冒険者をやってたダガルガだったんだ。その場にいた先代が『どうしても!』と頼み込んだ結果、ダガルガがギルドマスターの座を継ぐことになったってわけさ」
思わず「知らなかった……」とつぶやくテオ。
ウォードは言葉を続ける。
「事実、ダガルガがギルマスになってからというもの、このギルドでのトラブルは激減……というかほぼゼロになってよ……まぁそうだよな。あんな体がデカくて大声で、しかも本気を出せば恐ろしく強い奴が常駐してんだぜ? よっぽどのバカじゃない限り、トラブルなんざ起こす気にもならねぇだろ。ステファニーがその実力を発揮し始めたのも、ダガルガが就任した後のことだしな」
何となく気になったので聞いてみる。
「ちなみにダガルガさんは、なんでエイバスに来てたんですか?」
「ああ、先に冒険者を引退した俺がこの街に住んでたからよ、たまたま近くに来てたダガルガが顔見せに寄ってくれたんだ。でもまさか、あいつもエイバスに定住するなんてな……予想もしなかったぜ……」
ウォードが少し昔を懐かしむように話していると、「待たせたな!」と執務室の扉が勢いよく開いた。
空気を切り替えるかのようなダガルガの声に、俺達はそれぞれうなずいた。