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営業終了後のエイバス冒険者ギルド内、ギルドマスター執務室の応接スペース。
テーブルを囲むような形で大きなソファに座る俺・テオ・ウォード・ダガルガは、時折テーブルに置いた資料に目を通したり、メモを取ったりしながら、各自が持つ情報を交換していく。
腕を組んで考え込むウォード。
「討伐側のLVに合わせて強さが変動するタイプの魔物……そんな奴、聞いたこともねぇぞ……」
実際に戦った時のことを思い出しつつ、ボソッともらすテオ。
「ゴブリンリーダーだけじゃなくて、何気に周りのゴブリンも面倒なんだよね……」
ボスのステータス鑑定結果メモをにらみつつ、ダガルガは困ったように言う。
「ただ倒しゃあいいってんなら、俺1人で十分勝てる魔物共だけどよォ」
「え? 勝てるって言い切れちゃうんですか?」
「おうよ! このボス共なんかより強い魔物、何度も1人で倒してっからなッ!」
「すごい……」
何気ないダガルガの一言に衝撃を受けた俺は、ゲーム内での彼を思い出す。
ゲームにおけるダガルガもエイバス冒険者ギルドのギルドマスターを務めており、メインストーリーでは序盤の剣術指導イベントのみに絡んでくるキャラだ。
その後は終盤になってから寄り道をして特定の手順を踏むと、ようやく仲間にすることが出来るようになる。
ダガルガはパーティ加入時から攻防共に優れる強キャラではあるものの、終盤頃には他の仲間も強くなっているため、そこまで目立つ強さではない。
とはいえゲームでのメインストーリー序盤に当たる現在であれば話は別だ。
一時的な仲間入りとはいえ、間違いなく貴重な戦力となるだろう。
「しかしよう……今回ダンジョンボスへの攻撃は、お前の【光魔術】じゃねぇと意味ねぇんだろ?」
「はい、そうなんです」
4人の目的はあくまで、ダンジョン『小鬼の洞穴(こおにのほらあな)』に巣食う闇魔力を浄化し、かつての平和を取り戻す事。
そのためには、元凶のスキル【魔誕の闇】――周辺の魔力を増幅し、攻撃的な魔物を生み出しやすくするスキル――を持つダンジョンボスを、基本は**【光魔術】――勇者の俺だけが使えるスキル――**で倒さなければならない。
「まず、俺の【光魔術】での攻撃威力を上げるのは必須だと思ってます。このままじゃ倒すどころか、ダメージすら与えられないんで……」
ダンジョンボスであるゴブリンリーダー、そしてボスが召喚するゴブリン達は、元々は弱い魔物であるが、勇者が討伐パーティに居る場合、彼らは【魔王の援護】スキルで強化されてしまう。
ゲームの通りであれば、【魔王の援護】スキルで『ダンジョンボスがどれくらい強化されるかの数値』は、『勇者の現在のLV』によって確定するはずなのだ。
だが初めて現実のこの世界でボスと対峙した際。
予想以上に大幅強化――ゲーム上の約2倍の強化数値――された魔物達に、俺は動揺してしまった。
なぜゲームよりも大幅強化されていたかは、正直よく分からない。
だけど勇者であるLV11の俺も、スキル【能力値倍化LV5★】の恩恵で『ゲームのLV11勇者の能力数値』の約2倍の能力数値を持っていることから、もしかしたら何か関連があるのかもしれない。
――何たって次の討伐時には、前回と違い俺とテオだけじゃなく、ウォードにダガルガという頼もしい面々が加わるんだから!
そんな強い思いをこめた俺の言葉に、3人も強くうなずいた。
話し合いの結果、討伐への出発は1週間後に決定。
世界が徐々に闇の魔力に染まり続けている現状を考えると、小鬼の洞穴の攻略だけに時間をかけるわけにはいかないと判断したからだ。
攻略に必要な準備は、出発日までに各自で行うことにした。
ちなみにウォードとダガルガは魔術に関しては専門外らしい。
ということで魔術の威力アップ対策は後日テオと俺の2人で練ることにし、この場では魔術威力をアップできた前提での戦い方について話を詰めた。
ふと、ウォードも守衛の仕事をしているのを思い出す。
仕事は大丈夫なのか聞いてみると、ウォードは「今んとこエイバスはわりかし平和だからよ。代わりさえ見つかりゃ、休暇なんざ簡単にとれるさ。だから任せとけ」と答えた。
「……さて、今日はこんなもんだろ!」
ある程度話したところで、ダガルガが区切りをつけた。
「うん」
「出発直前に、どっかでもう1回話せると助かるぜ。準備の最終確認もしたいしな」
「そうですね」
いざ解散しようと皆が立ち上がった瞬間。
鳴り響いたのは、大きなお腹の音。
「……おなかすいた」
音の主であるテオの気が抜けた言葉に、「俺も」と口々に笑いながら言いだす一同。
壁にかかった時計を確認したダガルガが提案する。
「よっしゃ! まだ時間も早ぇし、どっか飲みに行くか!!」
「さんせーい!」
嬉しそうに真っ先に手を上げたテオに続き、俺もウォードも同意する。
どこの店に行くかをワイワイ相談する皆に交じりながら、こういうのも悪くないよなと心の中でつぶやいた。