テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

「隙間」

一覧ページ

「「隙間」」のメインビジュアル

「隙間」

7 - 第5章「隙間の奥へ」

♥

21

2025年10月14日

シェアするシェアする
報告する

第五章「隙間の奥へ」


その夜、アパートはいつもより重く、静かだった。

悠真は布団に横たわることもなく、壁の隙間の前に立っていた。

カサ……カサ……

呼吸のような音が、心臓の鼓動と同期する。逃げる理由も、止める力も、もう残っていなかった。


「来て……ずっと待ってたよ」




囁きは直接耳元に響き、恐怖は奇妙な安心感に変わる。

悠真は迷うことなく、手を壁の割れ目に伸ばした。ひんやりとした感触が指先に伝わる。

その瞬間、視界が揺れ、部屋の壁が透け、奥に暗い廊下が現れた。


奥の闇の中、薄暗い人影が悠真を見つめる。

かつて前住人が立っていたのだろうか――影はゆっくりと手を差し伸べ、囁いた。


「ずっと、ここにいる……一緒に」




悠真は全身の力が抜けるような感覚に襲われた。恐怖は消え、ただ静かな安堵だけが残る。

目を閉じると、かつての孤独や会社での疲労、日常の些細な不安がすべて遠くに溶けていった。


その瞬間、アパートの現実世界では異変が起きていた。

山本管理人が部屋を訪れると、悠真の部屋は鍵がかかっており、壁はいつもより硬く、隙間はわずかに閉じかけていた。

カサ……という音だけが微かに残り、室内は静まり返っている。


美咲は翌朝、悠真の部屋の前で立ち尽くす。

「悠真さん……どこに……?」

部屋の中には荷物だけが残り、壁の割れ目は見た目には普通の壁に戻っていた。

しかし微かに、誰かが見ているような視線を感じる。

カサ……カサ……

隙間の奥から、低く囁く声が聞こえた。


「……まだ、見てるよ」




悠真はもう戻らない。

前住人たちと同じく、静かに、しかし確かに“向こう側”へ吸い込まれたのだ。

隙間は今日も静かに呼吸しながら、新しい“視線”を待っている。


この作品はいかがでしたか?

21

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚