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#日記
はるちよ
159
奇蹟あい
933
ひな☁️
83
六月に入り、町は少しずつ夏の匂いをまとい始めていた。
校庭の木々は青々と葉を茂らせ、教室へ吹き込む風にも潮の香りが混じるようになった。
頼人は窓際の席から外を眺めていた。
グラウンドでは運動部が朝練をしている。
その向こうには、朝日に照らされた碧い海が見えていた。
「おはよう、頼人くん。」
声がして振り向く。
結衣だった。
「おはよう。」
「今日も海見てる。」
「なんとなく。」
「好きだねぇ。」
結衣はそう言って笑う。
頼人も少しだけ笑い返した。
そんなやり取りが自然にできるようになったことが、自分でも少し不思議だった。
「おーい。」
悠真が後ろからやって来る。
「朝から二人で何話してんの?」
「別に。」
頼人が答える。
「怪しい。」
「怪しくない。」
「いや怪しい。」
悠真がニヤニヤしている。
結衣は苦笑いを浮かべた。
「神崎くん、そういうの好きだよね。」
「青春だからな!」
「まだ何もないよ。」
結衣がそう言うと、悠真は肩をすくめた。
「まあ、そのうち何かあるだろ。」
そう言い残して、自分の席へ戻っていった。
「まったくもう……。」
結衣はため息をつきながら笑った。
「神崎くんって面白いね。」
「元気すぎるけどね。」
二人は顔を見合わせて笑った。
◇
放課後。
頼人が帰る準備をしていると、結衣が机の横へやって来た。
「今日、時間ある?」
「あるけど。」
「約束、覚えてる?」
「秘密の場所?」
「正解。」
結衣は嬉しそうに笑う。
「案内するね。」
二人は学校を出た。
住宅街を抜け、海沿いの坂道を歩く。
夕方の風は昼間より涼しく、どこからか波の音が聞こえてくる。
「結構歩くんだね。」
「もう少し。」
細い坂道を登り、小さな森の中へ入る。
木漏れ日の道を抜けると、突然視界が開けた。
「……すごい。」
頼人は思わず立ち止まった。
高台から海が一望できる。
夕日が水平線へゆっくり沈み始め、海は黄金色に輝いていた。
「ここ。」
結衣が柵にもたれながら言う。
「私のお気に入り。」
頼人は何も言えなかった。
目の前の景色に見とれていた。
風が優しく吹き抜ける。
鳥の鳴き声。
波の音。
そして静かな夕暮れ。
どれもが心地よかった。
「写真、撮らないの?」
結衣の一言で我に返る。
「あ。」
急いでカメラを取り出す。
夕日。
海。
空。
何枚もシャッターを切る。
カシャッ。
カシャッ。
「楽しそう。」
「こんな景色、初めて見た。」
「でしょ?」
結衣は少し誇らしそうだった。
「実はね。」
「うん?」
「ここ、小さい頃におじいちゃんが教えてくれた場所なの。」
「そうなんだ。」
「嫌なことがあると、ここに来るの。」
結衣は海を見つめる。
「ここに来ると、なんだか全部どうでもよくなるんだ。」
頼人も海を見る。
「分かる気がする。」
その言葉を聞いて、結衣は嬉しそうに笑った。
「頼人くんになら分かってもらえると思った。」
頼人は少し照れながらカメラを構えた。
「結衣。」
「ん?」
「そのまま。」
結衣が不思議そうな顔で振り向く。
夕日が横顔を照らす。
髪が風で揺れる。
優しい笑顔。
カシャッ。
「撮れた。」
液晶を見せる。
「えっ……。」
結衣は写真を見て目を丸くした。
「これ、本当に私?」
「うん。」
「なんか……。」
少し照れながら笑う。
「映画みたい。」
頼人も笑った。
「気に入った?」
「うん。」
結衣は写真を見つめたまま、小さく頷く。
「この写真、大事にしてね。」
「もちろん。」
しばらく二人は黙って海を眺めていた。
沈黙なのに、不思議と気まずくない。
風が二人の間を通り抜けていく。
「頼人くん。」
「なに?」
「また来よう。」
「うん。」
「夏になったらもっときれいだから。」
「じゃあ、その時も写真を撮る。」
「約束。」
結衣は小指を差し出した。
頼人も笑いながら小指を重ねる。
二人だけの、小さな約束だった。
帰り道。
空は群青色へと変わり始め、街には明かりが灯り始めていた。
「今日はありがとう。」
頼人が言う。
「こちらこそ。」
結衣は笑顔で答えた。
「この景色、頼人くんにも知ってほしかったから。」
その言葉が胸に残る。
誰かが、自分に見せたい景色があると思ってくれた。
それだけで、今日という日は特別な一日になった。
遠くから波の音が聞こえる。
その音は、二人の小さな約束を静かに包み込むように響いていた。
コメント
1件
ああ、すごく良かった……。結衣ちゃんが頼人くんを自分だけの秘密の場所に連れて行くの、なんだか特別な信頼を感じちゃった。夕日をバックに写真を撮るシーン、胸がぎゅっとなったよ。小指の約束も可愛くて、このまま二人の関係がゆっくり育っていくのが楽しみだなあ。素敵なエピソードをありがとう🌙