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そして、ランク試験の当日——
 試験会場には多くの志願者が集まり、ざわめきが絶えなかった。
 (……これがランク試験か)
 試験内容はシンプルだ。
Aランク冒険者との一対一の実戦形式の戦闘。
本気で倒す必要はないが、“自分の力を示せるか”が合格の基準となる。
 アレンの対戦相手は、アーク・ゼヴァン。
30代半ばの男で、漆黒の外套を纏い、鋭い眼光と鍛え抜かれた体が印象的だ。
腰に本物の剣を佩いてはいるが、試験のため木剣を片手に持っている。
 (この人が……Aランク冒険者)
 目の前に立つだけで、胃の奥が重くなる。
肩越しにカイルを見ると、彼もまた緊張した面持ちで見守っていた。
 「始め!」
 審判の合図と同時に、アークが一歩踏み込む。
 ——次の瞬間、視界が跳ねた。
 (えっ!?)
 反射的に横へ跳んだ。寸前で目の前を木剣が通り過ぎる。
 風を裂く音と共に、僕の頬を掠めた。
 (速すぎる——!)
 着地した瞬間、再び影が迫る。
視界の端に映る木剣。回避は間に合わない!
 (だったら——)
 剣を横に構え、受ける——
 ガキィィンッ!
 衝撃と共に腕に痺れが走る。
足元の地面が削れ、後ろへ吹き飛ばされそうになる。
 「ほう、受けたか」
 アークの口角がわずかに上がる。
 それが「次はどうする?」とでも言いたげに見えた。
 (やばい……一瞬でも気を抜いたら終わる)
 呼吸を整える暇もなく、間髪入れずに次の一撃がくる。
繰り出されるのは、まるで見えないほどの速さの連撃!
 ——右、左、下、上!
 (くそっ、剣が追いつかない!)
 何とか最小限の動きで受け流すが、その度に痺れが増していく。
防戦一方。このままでは時間の問題だ。
 「どうした?それで全力出しているのか?」
 アークが余裕の表情で踏み込んできた。
 (考えろ……!このままじゃ負ける……!)
 ——その時、気づいた。
 彼は常に“攻め続ける”スタイル。つまり、僕の動きを予測して追撃してくる。
 ならば——
 (こっちから動く!)
 アレンは剣を下段へ構え、思い切って突っ込んだ。
 「っ!?」
 アークの目がわずかに見開く。
 (今だ!)
 彼の木剣が振り下ろされる刹那、アレンは足を止めずに踏み込んだ。
斬撃を避けるのではなく、わざとギリギリの位置でかわす!
 スパァンッ!
 風圧で頬を切られながらも、アレンの剣がアークの胴を狙う。
 「……っ!」
 アークは咄嗟に木剣を引き戻し、僕の剣を受ける。
衝撃でお互いの体勢が崩れる——
 (ここだ!!!)
 アレンは即座に短剣を抜き、逆手に構える。
 「……おっと」
 次の瞬間、木剣の刃がアレンの首元でピタリと止まった。
 (しまっ——)
 「試験終了!」
 審判の声が響く。
 静寂——次いで、観客のどよめきが試験場を包んだ。
 アークが一歩下がり、剣を下げる。
アレンも短剣を納め、深く息を吐いた。
 「……驚いたな」
 「……え?」
 「短剣を抜いた瞬間、俺は”やられた”と確信した」
 アークは満足そうに頷く。
 「技術も悪くない。特にあの踏み込みは見事だった。 あと一瞬早ければ、斬られていたかもしれん」
 「っ!」
 (……認められた)
 込み上げる達成感を噛み締めながら、審判の言葉を聞いた。
 「Cランク試験——合格!」
 アレンは、拳を強く握りしめた。その喜びは言葉にできないほど大きかった。あの魔法の儀式で感じた無力感が、少しずつ薄れていくのがわかった。
 ーー試験は進み。
 「次、カイル・ロギンス!」
 審判の声と共に、カイルが前に出る。
 彼の対戦相手は、Aランク冒険者ガルツ・バーグ。
全身を覆う分厚い筋肉、岩のような体格。
手に持つのは木剣一本だが、見た目の威圧感だけで相手を圧倒する男だった。
 「お前、槍使いか」
 ガルツが木剣を軽く肩に乗せながら、カイルを見据える。
 カイルはニヤリと笑い、槍を構えた。
 「おっさん相手に悪いけど、全力でいくぜ?」
 「ほぉ、面白いこと言うじゃねぇか」
 ガルツが低く呟き、構えを取る。彼の足元の砂が僅かに沈む。
 (こいつ……ただの剣士じゃねぇな)
 カイルは槍を構え直し、深く息を吸った。
 「始め!」
 審判の合図と同時に、ガルツが地を蹴った。
爆発的な加速——目を見張る速さでカイルとの間合いを詰める。
 「——っ!」
 反射的に槍を薙いだが、ガルツは木剣の腹で受け止め、そのままカイルの懐へ踏み込んできた。
肩口へ狙い澄ました一撃が振り下ろされる——
 「甘ぇよ!」
 カイルは槍を支点にして身体をひねり、地を転がることで回避。
そのまま反撃に移るべく、槍の先へ魔力を込めた。
 「——燃えろ、小さき火種よ!【エンバー・ショット!】」
 槍を通って刃先から無数の火球が飛び出し、ガルツへと向かう。
 「無駄だ!」
 ガルツは木剣を横に薙ぎ払い、全ての火球を打ち払った。
それどころか、カイルの隙を見逃さず、再び地を蹴る。
 (くそっ、剣速も反応も異常に速い! なら——)
 カイルは即座に槍を振るい、空間に炎の軌跡を描いた。
 「炎よ、しなる刃となれ!【ブレイズ・ウィップ!】」
 槍の軌道に沿って炎の鞭が生まれ、ガルツの腕へと絡みつく。
 「……おお?」
 一瞬、ガルツが驚きの表情を見せる。
 「ふんぬぅぅぅう!!」
 カイルは槍を跳ね上げるように振り、鞭の炎ごと相手を吹き飛ばそうとした。
 だが——
 「悪くねぇが、…ふん! 」
 ブチィッ!
 ガルツは拳を握り驚異的な力をみせる。炎が耐えきれず千切れたのだ。
 「なっ!?……いや、おかしいだろ!おっさん!」
 ガルツは豪快に笑っている。巻きついていた腕には、火傷の跡すらない。まだ、肩慣らし程度の実力しか見せていないのに、底知れない。
 (やべぇな……このままじゃ勝てねぇ!)
 カイルは荒い息をつきながら、槍を構え直す。
 「これならどうだ!燃え盛る嵐よ、舞い踊れ!【イグニス・ストーム】!」
 足元から火柱が巻き上がり、灼熱の竜巻となってガルツを包み込む。
猛る炎が空へと昇り、試合場全体を焼き尽くすかのような熱風が吹き荒れた。
 ——だが、次の瞬間。
 「おいおい、大技をぶっ放すにはまだ早ぇんじゃねぇか?」
 炎の竜巻が割れるように、一つの影が飛び出した。
 「……マジかよ」
 焦燥が滲んだカイルの声。
 ガルツは全身に軽い焼け跡を作りながらも、木剣を振り下ろしていた——
 「次は俺の番だな」
 ガルツは一歩踏み出した。
 ——その瞬間、カイルの背筋に寒気が走る。
 (……速い!)
 ガルツの気配がかき消えた。否——踏み込みが鋭すぎて、一瞬で目の前まで詰められたのだ。
 「っ……!」
 カイルは防御の姿勢を取る間もなく、木剣の一撃をまともに受ける。
左肩に重い衝撃が走り、地面に叩きつけられる。
 「ぐっ……!」
 砂煙が舞う中、槍を杖代わりにして立ち上がる。
 (っ!左はもう使いもんにならねぇ、どうする!)
 そんな考える暇もなく、ガルツはもう目の前にいた。
 「終わりだ」
 木剣が振り抜かれる——
 その瞬間、カイルの目が鋭く光った。
 「……いや、まだだ!!」
 カイルは残った右腕だけで槍が地面を突いた。
 ゴッ!!!
 その勢いで、カイルは槍を軸に後方へ宙返り!
 (こっからだ!!)
 「やるじゃねぇか、カイル・ロギンス!」
 空中で槍を構え直し、残りの全魔力を込めてぶん投げる——
 「喰らえぇぇぇっ!!!」
ヒュバァァァァッ!!!!
 炎を纏った槍が、まるで雷のような速度でガルツの胸元を狙う!
 「……っ!」
 ガルツが咄嗟に木剣を盾のように構える。
 次の瞬間——
 ズガァァァン!!!
 木剣と槍が激突し、衝撃波が周囲に広がる。
砂埃が舞い上がり、両者の姿がかき消される——
 そして、静寂——
 砂が晴れた時、ガルツの木剣が吹き飛ばされていた。
 「……おぉ」
 ガルツが目を見開き、拳を握る。
 「お前、なかなかやるじゃねぇか」
 「試験終了!」
 審判の声が響く。
 カイルは天井を仰ぎ見ながら、得意げに笑った。
 「へっ……今のはマジでヤバかったぜ……」
 審判が手を上げる。
 「Cランク試験——合格!」
 観客席から歓声が上がる中、カイルはアレンの方を振り返り、ガッツポーズをした。
 「おい、アレン…やってやったぜ!」
 アレンも微笑みながら拳を握り返した。
 「……ああ!」
 こうして、僕たちは正式にCランク冒険者となった。