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試験が終わり、参加者は次々と解散していった。だが、アレンとカイルはその場に残ったまま、沈んだ様子で立ち尽くしていた。
そんな2人の様子を遠くから見ていたグラムとアリアが、ゆっくりと歩み寄る。
「お疲れ様、アレン、カイル。」
「師匠…見ていたんですか?」
アレンが顔を上げるが、その表情はどこか冴えない。アリアは優しく微笑んだ。
「試験お疲れさん!……ん?なんだぁ、そのしけた面は?」
「…はぁ、マスターは気が利かねぇな」
カイルがやれやれと首を横に振る。
アレンは下を向いたまま、考え込むように口を開いた。
「今回の試験での戦闘を思い出すと、反省点が多すぎて……。」
その言葉に、アリアとグラムは一瞬驚いたように沈黙する。
「そんなの当たり前だ。相手はAランク冒険者だぞ?そんなんでへこたれてる様じゃダメだな。」
グラムが肩をすくめ、少しからかうように言った。
「はぁ!?ふざけんな!次は無傷で勝つに決まってんだろ!」
カイルは怒り、拳を振り上げてグラムに殴りかかる。しかし、グラムは軽く身を引き、ひらりとそれを避けて笑った。
アリアはその様子を見ながら、静かにアレンの方へと歩み寄る。
「アレン、それでも冷静に状況を判断して、怯えずに戦えていた。それだけで十分凄いことなのよ?」
そう言って、アリアはそっとアレンの頭を撫でる。その仕草は、まるで母のようだった。
だが、アレンの心にはまだ重くのしかかるものがある。
(魔法を持たない自分にとって、試練はこれからも続く。)
アレンは静かに拳を握りしめた。
Cランク冒険者となって、すでに半年が経った。
「今日のクエストは楽ちんだったなぁ!」
カイルが伸びをしながら呑気に笑う。
「確かに今回は楽だったけど、油断は禁物だよ。カイル。」
「またお説教かよ。」
カイルは面倒くさそうにそっぽを向く。アレンは小さくため息をつきながらも、その視線の先で街道が騒がしいことに気づいた。
それもそのはずーーローブにグランベルトの紋章を刻んだ集団が進んでいたからだ。
「あれは…?」
「ん?ああ、あれ隣国からの使者らしいぜ。何やら調査とかで来てるらしい。」
「そうなのか……。」
カイルの言葉に曖昧な返事をしながら、アレンは使者の集団に目を向ける。そして、視界の端に映った銀髪の少女に息を呑んだ。
(あの髪…!なんで、ラナが…!?)
鼓動の速まる。息が苦しい。
「はぁ、はぁ…っ!」
気づかれる前に、アレンは踵を返して駆け出した。
「お、おい、アレン!置いていくなよぉ!」
カイルが慌てて後を追う。
その頃、使者の中にいたラナは、ふと耳に届いた声に反応し、辺りをキョロキョロと見回していた。
「兄様…?」
ギルドの側まで辿り着き、アレンはようやく足を止めた。
「おい……アレン!いったいどうしたんだ!」
肩で息をするアレンを見て、カイルが心配そうに顔を覗き込む。
「あ、いや……何でもない」
アレンは平静を装うように答えたが、その顔色は優れない。
夜のギルド。
アレンが夕食を終え、部屋に戻ろうとした時だった。
「アレン、ちょっと来い。」
ギルドマスターのグラムが手招きをする。
部屋に入ると、すでにアリアが待っていた。
「すまんな、急に。……アレン、お前には話しておかないといけないことがある。」
椅子に座り、こちらを向くマスターの目は真剣そのもの。
「……な、何でしょうか?」
空気が張り詰める。
アレンは、ゴクリッと息を呑み身構える。
「お前がここに来た時、『貴族の子か?』って聞いただろう?その時の反応をみて、少し調査させてもらっていたんだ。」
アレンの背中を冷たい汗が伝う。
(…僕の素性がバレた?ここには居られない?それともーー)
「落ち着いて、アレン。」
アリアの穏やかな声で、アレンはようやく正気を取り戻した。
「結論から言うがーーお前はグランベルトの人間。だと聞いた。これは本当か?」
喉が詰まり、言葉が出ない。ただ、黙ったまま頷くことしか出来なかった。
その瞬間ーー
ガタンッ
「そこにいるのは誰だ!」
扉が勢いよく開かれた。そこに立っていたのは、カイルだった。
「カイル!?さっきの話きいていたのか!?」
グラムが珍しく怒鳴る。
「……ごめんなさい!でも、街から帰る時、アレンの様子がおかしくて……俺、心配で!」
カイルは目尻に涙を浮かべながら必死に言葉を絞り出した。
(カイル……)
その姿を見たグラムは、はっと息を呑む。
「……聞いてしまったものは仕方ない。」
ため息をつき、カイルを含めた4人で話すことになった。グラムが改めて話を続けた。
「以前、銀仮面の男に襲撃されたのは覚えているな?」
「…はい」
急な話の展開に、アレンとカイルはポカンとする。
「信頼できる情報筋からの話だと、どうやらアレン。お前を狙っているようなんだ。」
「えっ!? なんで!?」
「さぁな、俺たちもそこまではわかっていない。」
「どうすんだよ! このままじゃ危険じゃないのか?」
「ああ。だからこそ――身の安全を守るために、隣国の『アストリア魔導戦技学園』に行くんだ。」
「……え?」
「幸い、お前たちはCランクになってる。試験も問題なく通るだろう。」
「いや、ちょっと待て!」
驚くアレンとカイルの声が重なった。
「いきなりすぎるだろ!」
カイルが大きく手を広げて抗議する。
「俺たちは冒険者だぜ!? なんで今さら学園なんかに!」
「……それは、アレンのためでもある。」
グラムの言葉に、カイルは思わず黙り込んだ。
「アレンの剣の腕はなかなかのものだ。だが、魔法が使えないと、どうしても限界がある。」
グラムは腕を組み、アレンを見据えた。
「そこで提案がある。『アストリア魔導戦技学園』では、魔法だけでなく、魔道具や戦略、戦闘技術も学べる。お前には、そこでの訓練が向いていると思うんだ。」
「魔道具……」
アレンは無意識に手を握る。
魔法を使えない自分にとって、唯一の希望がそこにあるのかもしれない。
だが――
「でも、それって僕だけが行けばいい話ですよね?」
「バカ言え。」
カイルが強く言い放つ。
「お前が行くなら、俺も行くに決まってんだろ!」
「……カイル。」
アレンは目を見開いた。
「それに、マスターが言ってたじゃねぇか。魔法だけじゃねぇ、戦略とか戦闘技術とか、いろんなことが学べるんだろ? だったら、俺も行く価値があるってもんだ!」
「……。」
アレンの心に、じわりと温かいものが広がる。
「はっはっは! そういうことだ。」
グラムが豪快に笑う。
「カイルはもちろん、お前もここで燻ってる場合じゃねぇ。それとも強くなりたくねぇのか?」
アレンは拳を握った。
「……強くなりたいです。僕、行きます!」
その瞬間、彼の心に一筋の希望が灯った気がした。
ーー翌朝。
ギルドの前で荷物を整えた二人を、グラムとアリアが見送る。
「くれぐれも問題を起こすなよ!」
「ふふっ、二人とも、頑張ってね。」
アレンとカイルは深く頷き、ギルドを後にした。
(僕は、変われるのだろうか。)
心の奥でわずかな不安を抱えながらも、アレンは新たな一歩を踏み出した。