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それは、急に起きた。
次のプロモーションを担当するスタッフとの
打ち合わせ中。
打ち合わせまでは普通に、いつも通りだった。
寧ろ、元気。
朝なんかは、やりたい事をやらせて貰えて
幸せだな、今日も頑張ろうなんて思っていた。
しかし、日が沈んで
気温が下がった中での
20時からの打ち合わせ。
途中までは平気だった。
「〜月〜日からのプロモーションですが」
「年末に向けてのスケジュール一度確認します。」
「ここで、こちらの情報解禁されます、コメント映像のチェックお願いいたします。」
「こちらのPV最終チェックお願いいたします。」
どんどん俺の知らないところで
物事が決まっていく感覚。
大勢の大人が動いて、沢山のプロジェクトが動いて、
現実的に僕の意思だったり考えは行き渡らなくなる。
———どんどん周りが暗くなっていく感覚
周りには沢山の大人がいるのに、
暗闇の中で、一人、取り残されている気分
沢山のチームがあって
勝手に進んでいって、どこか自分のことじゃないようで。
自分のモノじゃなくなっていくようで。
ひとりぼっちになった感覚。
誰も僕を認めていないような。
誰も僕を見ていないような。
誰も本当の味方でいないような。
本当の僕の中の僕を知っている人は居るのかな。
本当の僕を愛してくれる人は居るのかな。
本当の僕の音を好きな人はこの中に
どれくらい居るのかな。
みんな仕事でやってるんだろう。
………寂しい。
「…………っ。」
急な目眩。
急に周りが暗くなり、一人になる感覚。
深い暗闇に落ちていく感覚。
「大森さん、ありがとうございました。以上です。」
幸い、ちょうど打ち合わせが終わった。
「はぁ、はぁ、」
会議室を出て、廊下に出るも、
目眩が収まらない。
加えて、耳鳴りもする。
背筋がゾクゾクし、寒気が襲い、
ガタガタと震えるような感覚に陥る。
俺は自動販売機の横で、小さくうずくまると
何とか携帯を取り出して
メッセージアプリを開く。
….誰か、
…….誰か
…….助けて。
「…………。」
シュッ
シュッ
何人か目につく人々に
メッセージを送る。
関係が浅い人には冗談っぽく。
「なんか寒い」
「なんか怖い」
「目の前が急に暗くなった」
「急にひとりぼっちな気がし始めた」
とにかく会話をしたかった。
…少しづつ返信がかえってくる。
「大森さんが作る音楽楽しみにしてますのでご無理なさらず」
「いつでも頼ってください!話聞きます!」
「スピード感がありますもんね、バックはお任せ下さい!支えます。」
違う…違う………
孤独感は全然無くならず
暗闇から抜け出せない。
そんな中、一通の返信が届いた。
「俺は、もし飯が食えなくなっても元貴といつまでも音楽やっていたいって思ってるよ」
「元貴とは仕事とかじゃなくて、いつまでも一緒にいたい」
…………ぶわっと涙が溢れた。
胸の苦しさが解け、深い深い暗闇の底だったのが
少しづつ現実に浮かびあがってくる。
「ごめん急に」
「全然。不安になることも、大きくなって言って自分の手から離れていく寂しさと達成感っていままでも紙一重だったじゃん」
「ちょっと軽くなった」
既読
既読
既読。
この既読の速さとレスの速さに
何度救われただろう。
「今どこにいんの?」
「事務所。次のプロモーションの打ち合わせしてた」
「なんで元貴だけなんだよ」
「そういうもんなのよ」
「今日、家行っていい?」
「なにすんの」
「暖かいホットココアでも飲もうよ。一緒に」
「金曜の夜なのに予定ないのかよ」
「うん。ないよ。飲もうよホットココア」
「だから友達いなくなんだよ」
「元貴がいれば問題ないよ」
「りょうちゃんもいれてあげてよ」
……ふふ
いつの間にか少し笑えてきて
まだ目眩は残るが心が軽くなるのを感じた。
若井がいなかったら、どうなってただろう。
怖い、怖い、深い闇
慣れない緊張、好奇の目、期待、
俺から音楽を取ったらどうなるんだろう
俺の声が出なくなったら?
必要とされなくなる日が来るのかな
それでも若井は傍に…
いてくれそうだな。
若井。
いつも、ありがとう。
早く帰ってホットココア飲もう。
2人で。
Fin
2024 1203 完結
コメント
6件
短編も凄い。 語彙力が無くてこの感動を伝えられない自分を殴りたい👊
え?え?え?東京無くなってる???って思ったら短編が、ほんとに最高すぎますね、