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<その声はとても険しい、██な声>
※ツララの一人称捏造注意
2024-11-26
「…準備はいいね?」
真剣な声で、顔で。そう問う。今は、何時もの様にはふざけられない。笑えない。
「うん。」
「はい。」
2人の覚悟が決まった声が聞こえた。その声はいつもの柔らかな声じゃない。
その声を聞いて、私は魔法を発動した。
_あの世界へ行くための扉を、開けた。
✦✦✦
禍々しい紫が、視界を染める。発生元は目の前にある魔法陣。円の中に星が描かれ、隙間には文字列がみっちりと並んでいる。その文字列は「異世界転移」を表す言葉。禍々しい見た目に良く似合う、そんな言葉だった。
「…っ、すごい魔力量だなぁ、やっぱり…」
流石の私でもキツイかなぁと思いつつ、だからといってオーターやツララを呼んでくる訳には行かないなとも思っていた。私が少しでも下手したら2人とも死んでしまうから。流石に私の身勝手で命の危険に晒すのは申し訳ない。
「はやく、終わってくれないかなぁ…っ!」
私がこうして苦しみながらこの部屋に留まり続けるのには理由がある。そのひとつに魔法陣発動のためにはいくつか条件があるからという理由。
その条件というのが、1つ目は何かしらの物を生贄として捧げるというもの。2つ目は禁書を持っていて、尚且つその禁書に適性があること。そして、その次の3つ目が今の私に関わっている条件。それは、魔法陣が異世界と繋がれるまで、ずっと絶えることなく魔力を注がなくては行けないということ。しかもその量は一定に保たなければならないから、少なくして負担を減らすなどといった行動はできない。もちろん魔力不足になろうもんなら即異世界との扉は閉じられる。だから魔力を注ぐ人が三本線だったり、魔力が沢山ある人じゃない限り、普通なら途中で魔力切れになってゲームオーバー…なんだけどね。
私は腐っても神覚者。魔力なんてそこらの通行人よりかはある訳で…。
私は線の本数で言えば2本だけど、二本って言ったってピンからキリまである。1本線近くの魔力を持つ人もいれば、三本線レベルの魔力を持つ人もいる。私とか他の神覚者とかは三本線に近いと思うけど…まぁずっと魔力を注いでいたら、その魔力も底をつくのは当たり前な話。という訳で、絶賛私は魔力切れを起こしそうということだ。「…っ、かはっ……」
喉が切れたのか、口内が血の味で満たされる。
前回は禁書で魔力ひん曲げた行けたけど、今回は複数人ということもあって魔法陣で行くから、魔力の減りが半端ない。
(…あー、やばい、意識飛びそう…)
ぼやけて行く視界の中、魔法陣の魔力が段々と薄れて行くのを感じた。
「…!ライラ!?大丈夫なの…?!っ、魔力…!」
そのとき、声が聞こえた。
(…?…魔力が、回復していく…)
温度を亡くしてしまったような、冷たい手が私の手に触れて、魔力がすぅっと戻っていく。
「…ライラ!ねぇ!っ、オーター!!」
瞼を開けても、その視界はぼやけたままで。その声の主が誰かまでは、正確に分からなかった。
「……、誰、…?」
そう声に出すのが精一杯だった。
「…!ツララだよ…!!聞こえる、!?」
だから、そう答えられて聞かれても、頷くしか出来なかった。それが今の全力だった。
「…オーター、意識はあるみたい!自分は治癒魔法かけるからオーターは魔法陣の維持お願い!」
「あぁ。 」
_ツララ、オーター、?なんで、ここにいるの?私、はいっちゃ駄目っていったはず、…
「…ん、…」
段々と意識がはっきりしていく。青い髪と、奥には茶色の髪が見える。あぁ、来てくれたんだ。そう分かっても、なんで来たのかが分からなかった。危ないから駄目だって言ったはずなのに。
「…ツラ、ラ…なんで、居るの…?」
「!ライラ、!よかった、喋れる程度には回復したみたいだね…なんでって、そりゃライラの執務室からとんでもない量の魔力が漏れてたら行くよ…!何があったの…?」
私の部屋から、魔力が漏れていた。その事実に、まぁそりゃそうか、と思った。だって、あんな魔力切れを起こすほどの魔力をずっと注いでいたのだ。一応防音魔法も施錠魔法も張ってはいたとはいえ、それを維持するための魔力も尽きたとなれば必然的に魔力は外へと溢れ出すだろう。
「…、そうだ、魔法陣が…」
「それなら大丈夫、オーターがやってくれてるよ。だから今は休んでて。」
「…でも、…オーターだって魔力を…」
魔力を貯めておかなければいけないんじゃないか、と言いかけたとき、ツララの後ろからオーターの顔が少しだけ見えた。
その顔は、まるで安心しろとでも言いたげな、いつもより少し年上らしいオーターの顔だった。
「…、なら、任せようかなぁ…」
力を抜いて、ツララの体に体重を預ける。ひんやりした手が私の手に触れて、心地よかった。
(…ツララの手って、こんなに…)
そこまで考えて、考えるのをやめた。だってそんなのは以前からそうだったはずで、今ここでわざわざ気に留めても意味が無いと思った。
(綺麗な、青色…)
髪色といい、服といい、ツララは青で構成されている。どこかで見かけた、鮮やかな青。私よりもずっと綺麗で繊細で、必要とされる青。妬ましいとか恨めしいとか、そんな理由じゃないけれど、でもほんのちょっとだけ、羨ましかったのかもしれない。心のどこかで、きっと。
「…どうしたの、ライラ?もしかして、体調悪い?」
ずっとツララを見つめていると、それに気づいたのか、あるいは耐えきれなくなったのか、ツララは声をあげた。
「…んーん、大丈夫だよ。なんでもない。」
軽く首を横に振ると、ツララは安心したのか、珍しく微笑む。その顔はふにゃっとした、朗らかな笑顔で、可愛らしかった。
「…ツララ、ライラ。じきに開きます。」
ツララの背後から飛ぶ声は、少し緊張しているような、普段のオーターからは決して出ないような声だった。…でも、そんなのは当たり前で。
今から行くのは魔法学校でも森でもない。異世界だ。気負うのは当たり前で、私だって心臓が痛くなるほどバクバクしているし、指だって震えて上手く動かせない。過去訪れたことのある私でさえこうなるのだから、初めてのオーターならそうなるのも無理は無い。むしろ声が震えるくらいで済むのは凄いくらい。
「…ねぇオーター、大丈夫?少し変わろうか?」
私はそう聞く。心配だった。でもオーターは、
「…いい。残り僅かだ。この位出来る。」
そう言って魔法陣に魔力を注ぐのを辞めない。でも、私だって一端の神覚者だ。そんな震えた声を出す仕事仲間を放っておくことなどできるわけも無い。
「…はぁ、もう。オーターって変な所で意地張るよね。代わって。私、もう回復したから。」
握っていたツララの手を離し、相も変わらず魔力を注ぐオーターの隣に立つ。よく見ればオーターの顔色は普段より少し悪い。きっと魔力切れを起こしかけてる。そんな状態でも尚魔力を集中させるオーターに痺れを切らし、私は叫ぶ。
「…あーもう!ツララ!オーターを休ませて!」
部屋の隅でちょこんとしているツララに声をかけ、オーターを休ませるように言った。
「えぇ、…オーター、少しこっち来て。」
「…、?」
「…豐サ逋帝ュ疲ウ」
「、…………」
ドサッ、と音がして、オーターがツララの横で寝ていることを確認した。
「ありがと、ツララ!…さて、やりますか!」
ツララに感謝を伝えてから、魔力を維持するために少し多めの魔力を魔法陣へと集中させる。
(…疲れる、でも…あと少し…!)
オーターは大分頑張ってくれたらしく、あと残り2分もあれば扉が開くという所まで魔力は溜まっていた。私が入れたのは確か1/3程度だったはずだから、本当にオーターは頑張っていた。
(…だから、ここで諦めるわけにはいかない!)
オーターの頑張りを無駄にしてしまわないように。私は力を込める。
「…っ、………、!?」
その瞬間、魔法陣が白く光る。辺り一面、なにも見えない位に明るく輝くそれは、3秒もしないうちにしぼむように消えた。
「…っ、今のは…ライラ、無事…」
「…ツララ、これって」
光が失われ、真っ先に見えたのは[扉]だった。
「…!これって…!ライラ、繋がってるよ、!」
ツララがそう興奮気味に言う。
その扉は濃い紫と黒で構成された、落ち着いた色味のもので、異世界に行くに相応しい、厳格な扉に見える。刹那、キラキラと金色のスパンコールのようなものが頭上から降ってくるのを確認した。まるで雪のようなそれは、触れると消えてしまう。まるで本物の雪のようだった。
「…祝福、?」
聞いたことがあった。異世界への扉を繋ぐと、その頑張りを称え[祝福]されると。
(……祝福なんて、嫌なことしてくれるよね。)
本当に。
「…オーター、ツララ。大丈夫?」
「…大丈夫。」
「…はい」
私は振り返って2人に聞く。その声は決して明るくは無い。2人の声も顔も、いつにも増して険しくて、それが余計に「あぁ、今から行くんだ」って自覚させる。別に辛くは無いし、悲しくもないのに、どうしてか泣きそうになる。
「…大丈夫です。私とツララが付いてます。」
いつの間に起き上がったのか、私の後ろにはオーターとツララがいる。励ましの言葉のつもりなのか、いつもより声が優しい気がする。
「…ありがと、オーター。じゃあ、最終確認。」
「…準備はいいね?」
真剣な声で、顔で。そう問う。
「うん。」
「はい。」
2人の覚悟が決まった声が聞こえた。その声はいつもの柔らかな声じゃない。覚悟の決まった、芯の通った声だ。 その声を聞いて、私は魔法を発動した。 _あの世界へ行くための扉を、開いた。
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