「空色……」
お前の想いを知って俺は嬉しいと思ってしまった。
俺を忘れずまだ好きでいる――お前、それが俺にとってどんなに嬉しいかわからないだろうな。
いつか教えたりたい。
お前の手紙を、俺がどれだけ心待ちにしていたか。
お前の手紙で、俺がどれだけ救われてきたか。
お前にこれだけ心を奪われてしまったこと、俺がどれだけ焦がれてきたか、その全てを。
打ち明けたら、お前はどんな顔するのかな。
人の気も知らずに無防備に眠る空色にキスのひとつでもしてやろうかと思ったけれど、自分でこの大切な恋を踏みにじってしまう気がして想像すると怖くなったから止めた。
恋すると臆病になる。
俺とお前を隔てる障害がなにもなかったのなら。
この腕に掻き抱いて世界の果てまで連れ去り、誰にも触れさせないように閉じ込めてしまいたい。今からでもそれは叶えられないだろうか。
いや。なにもかも遅すぎた。
母親や妹が死んだ時
幼少期に苦しく生きていた時
父親が死んだ時
荒んだ生活をしていた時
鎖に繋がれて自由が無いって気が付いた時
枯渇になってしまった時
剣との事件があった時――
数えるとキリがないけど、様々な分岐点で精いっぱい出来たことや別の選択肢を選ぶこともできただろう。
もう一度選ぶことができるのなら、もっとうまくできるのに。
今までの集大成が俺をここに立たせ、こんな風に後悔の念に駆られさせている。それは誰のせいでもなく全部自分自身のせい。
無様で不器用な生き方しかできなかったツケが今回ってきただけ。
空色と離れるのは名残惜しくても、どうすることもできない。
俺は絡めた指をほどき、自分の人差し指に口づけた。
ほんのりと指先に残る彼女の温もり。今だけはこの指にまだ感触が残っている。
キスができないなら、せめてこの温もりを感じるくらい許して欲しい。
好きや、空色。
でも、もうこれきりで終わりにするから。
旦那の子を身籠っているお前を愛しても、誰も幸せになれない。
俺がお前を想うことで、空色夫婦を不幸になんかしたくない。
そうは思っても――
自身の目前に広がる、セクシーショットの白斗(おれ)。これを彼女が未だに部屋に飾り、熱っぽい視線を投げかけていると思うと諦められない気持ちが頭をもたげる。
アウトラインへ送ったRBのポスターがどういうわけで空色の手に渡ったのかはわからない。恐らくモリテンに頼み込んで譲ってもらい、彼の方も空色なら大切にしてくれることをわかっていたから譲ったのだろう。
もう解散して六年も経つバンドのポスターを大事に持っていてくれるなんて。嬉しいやんか。
なあ。
結婚してるんやろ。
他の男のセクシーショットやポスターなんか寝室に飾ったりしたら、旦那はいい気はしないと思う。俺なら絶対嫌や。確実に片付けさせる。
空色が十六年経った今でも忘れず、白斗(おれ)を想ってくれていた――その想いを知り、心が揺れ、またひとつ新しい曲が心で溢れた。