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朝、野菜を刻む包丁の音なんて要らない
まだ眠っている僕を揺すって起こしてくれる君の手も要らない
「おはよう」
そう微笑みかけてくれる君も要らない
平穏が欲しい
なるべく音も聞こえないような静けさが欲しい
青葉から滴る朝露の音さえ辺りに響き渡るような、その音をはっきりと聞き取れるような心の余裕と落ち着きが欲しい
あの時君を欲しておきながら、こんなことを言うなんて可笑しいだろう
誰かの笑う声が聞こえる
談笑の様にも捉えられる声、嘲笑されている様にも捉えられる声
幻聴と言われても違和感のない、か細い声だ
目の表面が少し潤うのがわかった
何故あんなにも君を好いてしまったんだろう
夕焼け色の光がじんわりと漏れ出す豆電球が、君と最後に見たマリーゴールドを思い出させる
綺麗
可憐
陳腐な言葉を並べる君の唇に目を奪われた
途端、僕は君が好きなんだと思った
楽しそうにマリーゴールドの花言葉について話す君に、呟くように自分の恋心を告白をした
「そうなんだぁ。」
少し語尾が伸びた言葉と、少し残念そうな声色
「そっか、そっか」
僕の言葉を何度も噛み締めるように頷きながら、悲しそうな顔をする
君の答えはNOだった
告白しなければ今の関係のまま、友達のまま過ごすことが出来たのだろうか
後悔?絶望?今更遅い
涙が頬を伝う
悲しみにくれる自分がまた哀れに思えてしまって
夕焼け色の豆電球を見つめながら涙を流し続ける
瞳の表面を涙が覆い、豆電球が揺らいで見える
まるで、あの時のマリーゴールドの様に見えた
深夜2時半を指す時計の無機質で一定の音に僕は不思議と安心感を覚え、また眠りについた
何年も前の話だけど、ここまで覚えてしまっている
そんな自分が気持ち悪くて仕方がない
だけど、思い出すことで、覚えていることで、僕の心は生き続ける
あの時の後悔、絶望、目の前が真っ暗になるような感覚、悔しさ、全て無くなってしまうと、僕は何者でもないから
君に執着することで、僕は生き続ける
君を覚えていることで、僕は生き続ける
君を思い出すことで、僕は生き続ける
なんとも情けない自分が、僕は大嫌いだ
本の中にしかない、幸せな恋人
その幻覚を、今日も僕は見続ける
そしてこれからも見続ける
僕が生きていたいと思う限り