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感覚が麻痺して、瞬きするたび十分ずつ過ぎていく。
病院の外の中庭で匡のスマホを強く握り締めた。あれから病院の外で何度も彼の親に電話をかけたが、一度も繋がらない。仕方なしに留守電を残しておいた。
匡が病院に運ばれてからすでに四時間が経過している。日中ならともかく、今は二十二時。仕事にしても、両親二人とも連絡がつかないのはおかしい。
こんな状況で自分に何ができるのだろう。
無機質な画面。眩しいブルーライトを受け、表示された名前を見ていた。
両親の名前。────そして初めて知った、匡の苗字を。
「あ」
なんてことはない、一場面だった。
だが雷が目の前で落ちたような衝撃を受ける。頬を引っぱたかれたのと同じぐらいの痛みが走った。
「やばい!」
スマホの時間を確認して一目散に走った。
どこでもいいから、急げ。角で囲われててもひらけていてもいいから。
二つの道が交差した、唯一の空間。
十字路。その中央へ。
間に合え────!
汗が飛び散った、その瞬間。
清心は病院の正門前にある小さな十字路へ飛び込んだ。
頼むから、また呼んでくれ。
そう願って瞼を強く閉じた。
十時十分、十秒。
白い光に包まれる。久しぶりの感覚に戸惑い、持っていた自分のスマホを落としてしまった。
それでも匡のスマホは握り締めていたから安心する。今は、自分のより彼のスマホの方が大切だった。
いつ、両親から電話がかかってくるか分からない。“彼”が持つ現実との繋がりを、自分が絶つわけにはいかなかった。
やがて迸る閃光。視界が目を覚ました。何もない白の世界を見渡し、両頬を叩いて息を吸う。
「本当は、来たくなかったよ。今度こそ全部忘れるかもしれないから。……ここに来るのが怖かった」
想いのまま打ち明ける。真後ろで足音が響いた。ゆっくり振り向いて、その人物を捉える。
「でもどうしてもお前に会いたかった。どんなに怖くても、顔を忘れても……やっぱり忘れられないんだ。すごいよな、白露」
それを聞いた小さな少年は、可笑しそうに首を傾げた。
「いきなり何の話? あと、お兄さん……名前何だっけ?」
真っ黒な髪と大きな瞳。
目の前には、確かに以前と同じ白露がいた。
何も変わってない。
変わったのはきっと、自分達の立ち位置だ。
今はもう、以前のように触れることはできない。