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麗太
#女主人公
カイトたちが大量の猪肉を持ち帰ったことで、村人たちは大いに喜んだ。
報告を受けた村長も、カイトらの活躍を称賛した。
その日の夜。
村長宅で、カイトは豪勢な夕食を振る舞われていた。
その席で、村長は言った。
「カイト殿。どうだろう、ずっとこの村に住んだらどうかね」
カイトは食事の手を止めて、村長の顔を見た。
冗談を言ったような表情ではなかった。
「でも、俺みたいな素性の知れない奴を……」
「きみが悪人でないことは、ここ数日の様子を見ていたらわかる。のう、ハンス?」
ハンスは、ふんと鼻を鳴らした。
「……まあな」
カイトは嬉しさと恥ずかしさを感じ、後頭部をかいた。
「それにのぅ……」
村長は少し暗い表情になった。
「カイト殿に留まってほしいのは、切実な理由でもあるんじゃ」
「というと?」
「実はみなが狩りに行ってる間にな、村に冒険者が訪れたんじゃ」
その冒険者は、北の町からやって来たという。
「彼曰く、北の町が魔物に襲撃されたそうじゃ」
カイトは息を呑んだ。
「魔物が人の集落に入り込んだんですか」
村長は頷いた。
「幸いにも町には腕の立つものが多くいたようでな。死者は出なかったという。じゃが、魔物が人の生活圏に入り込むのはこれまでになかったこと。それこそ、勇者さまが魔王を討伐した後は、な……」
だが現状、その魔物たちが再び勢力を増している。
何か不吉なことが起こっているのは間違いないだろう。
「このまま凶暴化が続けば、いずれアルヒ村も危機にさらされるじゃろう……」
村長が少し身を乗り出した。
「しかしカイト殿がいてくれれば安心じゃ! カイト殿はお強い。それは誰もが認めるところじゃ!」
村長は頭を下げた。
「どうかこの通りだ。ぜひ、村に留まってほしい。もちろん、カイト殿の家も作らせよう!」
その勢いに、カイトは気圧された。
「……ありがとう、ございます」
自分を頼ってくれることは、純粋に嬉しかった。
「今のところ、俺には行くあてもありませんし、みなさんのために働きたいという思いもあります」
「それじゃあ──」
「ただ、少しだけ考えさせてほしいんです」
「も、もちろんじゃ。カイト殿の気持ちが第一じゃからな」
カイトは無言で頷いた。
* * *
食事を終え、貸し与えられた部屋のベッドに腰掛けていたとき。
ドアをノックする音が聞こえた。
「よう、俺だ」
ハンスのようだ。
「ちょっといいか」
「はい、どうぞ」
カイトが応えると、ハンスが入ってきた。
彼は気まずげに視線を下に落としている。
「どうしました?」
カイトが尋ねると、ハンスは意を決したように顔を上げた。
「カイト。……俺からも頼みたい。ぜひ村に残ってくれ」
カイトは、目を瞬いてハンスを見た。
「そんなに意外か?」
「え、ええ」
ハンスは苦笑する。
「ま、そうだよな。あんたにしてみれば、最初の印象は最悪だっただろうし」
カイトもまた苦笑した。
「でも、どうしてそこまで? あなただって強いですし、俺に頼らなくても……」
ハンスはかぶりを振った。
「……認めたくはねぇが、俺じゃあんたの足元にも及ばねぇ。それに村のためってだけじゃない。あんたが出ていったら──タニアが悲しむ」
「ですがあなたは……タニアのことを想っているのでしょう? むしろ俺のことは邪魔なんじゃ」
そう言うと、今度はハンスが意外そうな顔をした。
そして苦笑いを浮かべる。
「朴念仁だと思ったが、そういうのはちゃんとわかるんだな」
「ま、まあ、それくらいは……」
ハンスはくつくつと笑った後、大きくため息をついた。
「たしかにあんたの言う通りだ。俺は昔からタニアのことが好きだった。でもタニアは……違っていた。別に嫌われてはいないと思うが、あいつにとって俺は、兄貴のような感じなんだろうな。あんたが来て、それがよくわかったよ」
ハンスは居住まいを正した。
「タニアには、あんたが必要だ。両親を病気で失い、兄のルシオを魔物に殺されて、タニアは一人ぼっちだ。気丈に振る舞っているが、あいつは昔っから寂しがり屋でな。ずっと頼れる人を求めているんだよ。俺がそれになりたかったが──なれなかった。だから」
ハンスは大きく頭を下げた。
「頼む、カイト。タニアのためにも、村に残ってほしい」
* * *
ハンスが出ていった後、カイトはベッドに仰向けに寝転がった。
ふうっと大きく息を吐き、思考にふける。
ずっとここにいたい、という思いはある。
しかし、果たしてそれでいいのか、という思いもあった。
それは名状しがたい、焦燥感のようなものだった。
カイトは再びため息をつき、起き上がった。
どうにも眠れそうにない。窓辺に向かい、外の景色を眺める。
村長の家の前では、モフモフが身体を丸めて眠っていた。
モフモフについも相変わらず謎である。
モフモフは伝説の魔物、銀色ノ狼らしい。
そんな特別な魔物と、なぜ自分は知り合いなのか。
思考の迷路に入り込んでしまったようで、考えがまとまらない。
かぶりを振り、今日何度目かのため息をつく。
そのとき、遠くからほのかな灯りが近づいてくるのが見えた。
目を凝らして見てみると、ランタンを持ったタニアだった。
タニアが村長宅までやって来ると、窓辺に立つカイトを認め、手を降った。
(こんな夜に、いったいどうしたのだろう……)
タニアは、決意のこもった目でカイトを見ていたのだ。
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