ナック セキュリティアップデート
屋敷の侵入者対策のため、ナックはファクトリーAIと相談しながらセンサーや警報機の設置場所を決めていた。
「・・・屋敷の裏の、この辺りは森と接しているため侵入経路になりやすいと思います。
それと、先日の輩はここの花壇を踏み荒らしていたとのことなので、恐らくこっちの小さい崖の方から登ってきたのでしょう」
[・・・ふむふむ、それでしたら崖には罠を仕掛けても良いかもしれませんね。
森の方は塞いでしまうと景観にかなり影響が出てしまうので、センサーのほうが良いでしょうか・・・]
「そうですね。・・・それなら、いっそこの一帯にセンサーを置いてしまえば安全になりませんか?」
[ナイスアイデアですね!さすがナックさんです!
それだったら、警報機はこの花壇に隠して・・・配線もここから出せますし・・・
・・・よし!当初の計画と比べて必要資源は1.6倍までに抑えて、理論上の効果は2.5倍まで引き上げられそうです!]
「素晴らしい!」
計画が完成し、早速現場の下見に向かう。
「花壇の中に機械を置かせてもらうことになるので、アモン君に確認をとらなければいけませんね」
ということで、まずは花の世話をしているアモンを探した。
[さてさて、アモンさんは・・・]
「あーーーっ!もぉ、このボロ水道め・・・何回目っすか・・・」
「・・・見つかりましたね」
アモンは水やりのためにホースを引っ張ったところ、水道を壊してしまったらしい。
勢いよく水が吹き出すのを何とか押さえようと悪戦苦闘している。
[あの、ちょっと私に水道を見せてもらえますか?]
ファクトリーAIはナックに頼み、オセワッチを壊れた水道の近くに持っていってもらった。
[・・・あー・・・これは、水道管から替えないといけないですね・・・]
「マジっすか・・・」
「と、なると・・・修繕費が・・・」
アモンとナックはげんなりとした様子でため息を吐く。
[大丈夫ですよ!このくらいならロボットさんに修理してもらえる範囲ですから!]
そんな2人にファクトリーAIは明るく声を掛ける。
「マジっすか!?」
[はい!そのかわり、花壇の中に警報機と配線を設置する時にお手伝いをお願いできませんか?]
「お安い御用っすよ!
あ〜良かった・・・これでハウレスさんに怒られることも減るっす・・・」
[では、新しい水道管と蛇口をクラフトしてロボットさんに持っていってもらいますね。
それまでは止水しておきましょうか]
探索から帰還したロボは早速庭に出て水道の修理を始めた。
[はい、ではまず外側の壁を少し崩して・・・あぁっ、そんなに強く叩いたらっ!
・・・まぁ、何とかしましょう・・・
大丈夫ですよ、そしたら管を外して新しいものに交換しましょう。
はい、しっかり嵌めてくださいね・・・
そうです、はい、しっかりくっつきましたかね?
では蛇口も取り付けて・・・
最後に壁を直せばおしまいです!
はい、上手ですねロボットさん・・・
・・・おお!完璧です!
はい!これで修理は完了です!
やりましたね、ロボットさん!]
〈ピョン〉
ファクトリーAIの指示に従い、ロボは器用に水道の修理をこなした。
「・・・すごいな、こんなことまで・・・」
少し離れて見守っていたハウレスは感心したように頷く。
ロボは借りていた工具などを片付け、ハウレスに返却した。
〈ずいっ〉
「お、ありがとうな。すごいな、あんな短時間で修理してしまうなんて」
〈照れる〉
ハウレスはロボの頭をポンポンと叩いて労う。
[AIさんも、ありがとう。何度もアモンが壊していたからな・・・本当に助かった]
〈えへへ・・・どういたしまして!
あ!そうだ、ハウレスさんはお屋敷の修理をしていらっしゃるんですよね?〉
「あぁ、そうだ」
[警報機とセンサーの取り付けを手伝ってもらえませんか?]
「・・・あぁ、ナックとアモンが話していた警備用の機械のことか?」
[はい!流石ですね、話が早いです!
どうしても人手が必要なので、お願いできませんか?]
「勿論だ。そういうことなら任せてくれ」
[やったぁ!]
ロボが必要な材料を集めている間に、機械を設置する場所の整備をする必要があった。
[・・・というわけで、今お時間がある方々に集まっていただきました!]
「結構集まったな・・・」
「何をするの〜?」
[まず、ナックさんとフェネスさんは斧で印を付けた木を切ってください!
そして、ラムリさん、アモンさん、ハウレスさんは花壇に警報機のスペースを作ってください!
ボスキさん、ラトさん、トリコちゃんは皆さんの応援をお願いしますね!]
「せいぜい頑張れよ」(にやにや)
「トリコ、アリさんの巣がありますよ」
『あぃさ!』
ニヤニヤと笑い、高みの見物を決め込んでいたボスキだったが、ラトがトリコとアリの観察を始めてしまい取り残された。
というわけで、応援組は作業が始まる前に崩壊してしまった。
「ボスキ、お前も草むしりを手伝え」
ボスキは結局作業班に入れられ、ぶつくさと文句を言いながら草むしりをすることになってしまった。
ラトとトリコが楽しそうに遊んでいる声を聞きながら草むしりをする。
「くそっ、ラトが居なけりゃ主様と昼寝してたのに・・・」
「ボスキさん、もう諦めてくださいっす」
「ボクだって主様と遊びたい〜」
「おい、手が止まってるぞ」
2人はラトに羨ましそうな視線を送りながら、もう2人はそれを宥めながら、警報機のスペースを作っていった。
ーガスッ、ガスッ、ガスッ
ナックとフェネスは黙々と木に斧を振っていた。
「ナック、そろそろこっちの木が倒れそうだから気をつけてね」
「はい、こちらももう少しです」
自分と相手が倒木に巻き込まれないよう声掛けをしつつ、作業を続ける。
「よし、倒すよ〜」
「はい・・・これは・・・避難ですね」
「ごめん、そっちに行っちゃった」
「大丈夫です」
ミシミシミシ・・・ドスン!!
先ほどナックが立っていた場所の近くに木が倒れた。
「あらら・・・これ、退けないと作業できないね・・・」
「仕方ありません、ある程度の長さに切って運びましょう。どうせ薪になるのですから」
「うん、ごめんね・・・」
「いえいえ、きっとあちらの作業に時間がかかって薪割りをすることになるでしょうから、問題ありません」
2人は倒れた木を切って運び出した。
空がオレンジ色に染まり、手元が見えづらくなったところで作業を切り上げることにした。
「お疲れ様。今日はこれで終わりにしよう」
「く〜ぅ、ずっと草むしりは流石に飽きるっすね・・・」
「腰が痛ぇ・・・」
「やったぁ・・・やっと終わり・・・」
ハウレスが声を掛けると皆体を伸ばし、ふらふらと屋敷に戻っていった。
ハウレスはまだ斧の音がしている森の方に向かう。
「フェネス!!ナック!!今日はもう終わりだ!!戻るぞ!!」
邪魔にならない距離でそう叫ぶと斧の音が止まり、ガサガサと足音が向かってくる。
「ハウレス、もうそんな時間になってたんだね」
「すっかり夢中になってしまいましたね」
「お前達・・・もう殆ど終わってるじゃないか・・・」
ハウレスは進捗具合の差にため息を吐く。
これでは明日以降2人のやることが無くなってしまう。
「あはは・・・まぁ、そうなんだけど」
「薪割りをしていれば幾らか時間を潰せますのでご心配なく」
「ほどほどにな」
「ハウレスもね」
3人も屋敷に戻り、フェネスは急いで風呂の用意をして、泥だらけの執事たちは我先にと風呂に駆け込んだ。
一方、トリコは早々にアリの観察に飽きてしまったため、ラトと庭を見て回ることにした。
「ほら、これが薔薇。綺麗でしょう?」
『ばぁ・・・』
「こっちはツツジ。蜜が甘くて美味しいよ」
『ちゅちゅじ・・・』
ラトは分かる範囲で花の名前や木の名前をトリコに教えた。
トリコは見たことのない花々に目を輝かせる。
「気に入ってくれて嬉しいよ・・・
そうだ、花で輪っかをつくれるんでしたっけ・・・
あれあれ・・・うまくいきませんね・・・」
ラトはトリコのために花冠を作ってやろうとしたが、編み方が分からず眉を寄せた。
「仕方ありません、ミヤジ先生かフルーレに聞いてみましょう・・・
トリコ、ちょっと抱っこしていいかな?」
『?あぃ』
不思議そうに両手を広げたトリコを片手で抱き、ものすごい速さで屋敷に向かう。
開いていた窓から中に入ると、声を頼りにミヤジのもとに駆けていく。
「・・・それで、今庭で作業を」
「はい、完成したらすぐに取り付けをするそうです」
「そうか。どうなるのか楽しみだね・・・
ん?」
「どうされました?」
ベリアンと立ち話をしていたミヤジが不意に階段の方を向いた。
ベリアンもそちらに視線を向けた瞬間、たん、たん、という音が大きくなり、ラトが階段から飛び出してきた。
「ミヤジ先生、少し聞きたいことが・・・」
ラトがそう言いながらミヤジに駆け寄る。
「その前に、ラト君。主様はどうしたんだい?」
『・・・』(フリーズ)
ミヤジはラトに抱えられて固まっているトリコの頭を心配そうに撫でた。
「おや・・・どうしたんでしょう・・・」
『・・・ぉにいちゃ・・・』
「うん?」
『こぁい・・・』(ぶわっ)
緊張状態から解放されたトリコは、高速移動が怖かったと泣き出してしまった。
「あらあら・・・」
「主様、大丈夫だよ・・・おいで」
ミヤジがトリコを抱っこすると、ぎゅっとしがみつく。
優しく背中を擦っていると、ラトがしょんぼりした様子でミヤジに言った。
「ミヤジ先生・・・私、花の輪っかの作り方を教えてもらおうと思ったんです・・・」
「・・・あぁ、庭で遊んでいたんだったね」
「はい・・・トリコが花を気に入っていたので・・・作ってあげたくて・・・」
「そうか・・・」
ミヤジはトリコをベリアンに預け、ラトの前に膝をつき手を握って、視線を合わせた。
「ラト君、主様は赤ん坊のような、とても小さくて、弱くて、まっさらな子供なんだ。
だから、できるだけ優しく扱ってあげないと怪我をしてしまったり、怖がってしまったりするからね。
大丈夫だよ、ラト君が主様のことを想ってやったってことは分かっているから。
これからは、主様が怖くないようにしてあげようね」
「・・・はい」
ラトは少し元気が出たようで、ベリアンに抱っこされているトリコの頭を撫でた。
「怖がらせてごめんね」
『ん・・・いぃよぉ・・・』
ラトが謝ると、トリコは涙目のままそう言ってラトの頭を撫でた。
「それじゃあ、庭で花冠を一緒に作ろうか」
『あいっ!』
「はい」
「ふふ、私もご一緒しても良いでしょうか」
「ベリアンさんも来てくださるのですか・・・楽しそうです・・・」
『べりあ、おはな、すき?』
「はい、好きですよ」
4人で庭に自生していたシロツメクサを摘み、花輪を編んでいく。
「はい、主様、どうぞ」
『ありぁとぉ!べりあ、じょぉず!』
「次はここに・・・そうそう・・・」
「こうですか?」
微笑ましい光景を窓から見ていたルカスはまるで仲良し家族だな、なんて思いながら癒やされていた。
(そしたら私は何になるのかな・・・ベリアンの兄?
・・・ミヤジが弟になるのは変な感じだなぁ
そうだ、ラムリくんを息子にして、ママ友になろうかな)
そして、脳内で屋敷内ままごとの構想を練りあげていたルカスであった。
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