テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
リリアンナとともに歩いてきたブリジットは、ナディエルとペトラの部屋の扉の前で立ち止まると、優しい笑みを浮かべてリリアンナを見つめた。
「リリアンナお嬢様、私はここで控えております。その方がお嬢様もナディエルも、気兼ねなくお話できるでしょう」
ブリジットは侍女頭だ。確かに彼女が入室すれば、ナディエルを緊張させてしまうかも知れない。
「今、ペトラは仕事に出ておりますのでお部屋の中はナディエルしかおりません。ゆっくりお話なさっていらしてくださいませ」
それは、リリアンナの中に色々と鬱屈したものが溜まっていることを知っているかのような口ぶりだった。
「有難う、ブリジット」
リリアンナはブリジットの厚意に礼を言うと、彼女を一人遺してナディエルの部屋へ入る。
外からの話し声が聞こえていたんだろう。寝台に腰掛けたナディエルが、リリアンナが入室するなり深く頭を下げた。まだ顔色は冴えないものの、リリアンナを瞳に収めるなり嬉しそうに微笑んだ。
「お嬢様、ご心配をおかけして、本当に申し訳ありません」
「いいのよ、謝らないで? ナディの熱が下がったって聞いて、私、ホッとしているの」
寝台そばに寄ったリリアンナは、ナディエルにそっと抱き付いた。
「お嬢様はお変わりありませんか? 少し疲れていらっしゃるように見受けられるのですが……」
ナディエルに労わるように頭を撫でられたリリアンナは、ポロリと涙を落とす。
実際にはランディリックにカイルの看病を禁じられた関係で、昨晩などは久々にベッドへ身体を横たえることが出来たから、体調的には良くなっているはずだ。
ただ、うとうとしてはちょこちょこと目を覚まし、(カイルの布袋の雪を詰め替えないと!)と思ってしまうのは止められなかったので、眠り自体は良質とは言い難かったのだけれど。
きっとランディリックはそういうのを懸念していたんだろう。だからこそ、リリアンナからそういう〝習慣〟が抜けるまでの間、カイルに近付くことを制限されてしまったんだと思う。
それは理解しているつもりだ。
でも――。
リリアンナは一度ナディエルから身を離すと、椅子を寄せてナディエルの手を取った。
ナディエルの手はいつもより少し冷たく感じられた。恐らくまだ本調子ではないんだろう。それでも、しっかりとリリアンナの手を握り返してくれた。
「……私ね、ナディが寝込んでからもずっと、カイルのそばにいたの」
「えっ?」
「カイル、熱が高くてなかなか目を覚まさないの。だから……私、付きっ切りで看病しようと思って……」
「お嬢様、それは――」
リリアンナはナディエルの〝それは〟という言葉のあとに〝よろしくありませんわ〟と続くのが容易に推察出来た。きっとリリアンナのことを一番に考えるナディエルだからこそ、この辺はランディリックと同じ見解のはずだ。
コメント
1件