「マリン、体調とか悪い?大丈夫?」
「え?大丈夫!大丈夫!」
ライブ前の最後の軽いリハーサル。
喉をしっかり開いて、練習通り体を動かして、それなのになぜか今日は調子が悪い。音が外れているわけでも歌詞を間違えているわけでもない、ただなにか喉につっかえたような気がして。体も鉛をつけているかのように重い。
「…マリン」
「あ、ぺこら?」
「ちょっときて」
ぺこらはマリンの目をみるなり、返事をきかず手を引いて舞台へ歩いていく。まだ本番までは30分近くあるはずだ。だけど、舞台横幕から顔を覗かせればそこには一瞬にして目を奪われるほどに光の海ができていた。目を瞑りそうなるほど眩しくて、だけど目が離せない。まるで、太陽を直接浴びているような、真夏の海で太陽に照らされているような。
「マリン、今日もいつも通り頑張ろうぺこな」
あぁ、ぺこらはずるい。マリンの不調に気づいて、いつも通りと励ましてくれる。その綺麗なオレンジ色の瞳の太陽でマリンを照らす。ねぇぺこら知ってるかな。太陽の光が海に当たると赤色の光は吸収されてね、青色の光は吸収されずに残るんだよ。だから海は青い。ぺこらと一緒だ。その太陽の瞳で人を照らして、人の心を奪っていく。ぺこら色に染めてそれはとっても広くて多い。
いつのまにか喉のつっかえも、体の鉛も溶けて消えたようにさっぱりなくなっていて、なんなら調子がいい。わたしの太陽はやっぱりすごい。
マリンは知らないだろうけど。
海はすごい。たくさんの光を全部反射して常にキラキラ輝いてる。誰1人の光も見逃さないで、全員分の光へしっかり応える。だから毎回、期待もそれに対する責任も増える。だけどマリンはそれすら全部反射させて、期待以上に輝く。今目の前にある光の海みたいに。ぺこーらの海はやっぱりすごいぺこな。
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