Noside
「あの子、もう日が暮れるっていうのに帰ってこないね…」
海軍の船の上でつるが心配そうに呟く。ジェイデンは約束を破るようなことはしない。だからこそ、今ジェイデンがいないことにつるは違和感を覚えていた。他の海兵たちもどこか落ち着きがない様子だ。
「おつるさん!!」
1人の女海兵が焦ったようにつるの元へ駆け寄ってくる。その手には少しだけくしゃくしゃになった紙が握られていた。何かあったのかい? ――と、尋ねる前にその紙が差し出される。その表情を見る限り、良い知らせではなさそうだ。
受け取った紙を広げるとそこには見慣れた字でこう書かれていた。
〈本当に突然ですが、俺は今日で海軍基地を離れます。別れの言葉も言えない俺をどうか許してください。詳しいことはここには書けません。でも、これだけは言わせて下さい。俺は貴方たちのことが大好きです。嫌いだから離れるとか、海軍本部での生活が嫌になったからとかではありません〉
色々書かれていたその文字は、確かにジェイデンのものだった。最後に〈探さなくて大丈夫です〉。そう書かれているところを見ると、これは彼からのメッセージだろう。
読み終わった後、つるは小さくため息をつく。きっとこの文面は彼の本心だ。誰かに書かされたものではない。ジェイデンは優しい人間だ。こんな状況になってもまだ相手のことを気遣っている。それがわかるくらいに彼の筆跡を見てきた。
いつかいなくなってしまうんじゃないかとは思っていた。そうなる前に、海兵として引き留めるべきだった。後悔先に立たず、だ。
「ガープにはなんて言おうかね……」
ガープはこの手紙を読んだら、間違いなく怒りを見せるだろう。でもきっと、ジェイデンの意思を尊重して探しに行くようなことはしない。
「怪我はするんじゃないよ、ジェイデン」
つるは静かにそう言った後、海の方へと目を向けた。